さて今回はギターのメンテナンスに使うグリスのお話です。
歯車やベアリングを用いる機械ではパーツの密封性の向上、水やホコリの浸入防止、摩擦力の軽減や温度上昇の緩和などさまざまな役目を持っているグリス。
それはギターにも言えることで、ギターも知らず知らずのうちにいろんなところで摩擦が起きています。
これを軽減させることによりパーツの寿命が長くなったり、ギター本来のスペックを発揮できたりするようになります。
といった具合に意外と重要なグリスについて、簡単に説明させていただきます。
塗布するメリット① チューニングの安定性向上
まずギターのパーツにグリスを塗布することでどのようなメリットがあるのか?
一番効果の出るところは、ずばりチューニングの安定性です。これは非常に分かりやすく効果を実感できます。
チューニングの安定性向上についてはすべてのギターに言えることですが、その中でもシンクロナイズドトレモロやフロイドローズタイプ、ビグスビーなどのトレモロユニットを搭載したギターではその効果は顕著に現れます。
少し話はそれますがFender社のギターでシンクロナイズドトレモロを搭載しているモデルは一部のアーティストモデルを除きデフォルトの設定でボディから浮かせてあります。
ご自身が所有させているギターがそうであったり、他の方のギターを見て疑問を持たれたりする方もいらっしゃるのではないかと思います。
じつはこれ、トレモロ機能を使用(アームダウン)すると緩んだ弦が戻りきれずにチューニングが♯してしまうのでそれをアームアップして戻せるように浮いているのです。
チューニングが♯してしまう症状についてはナットの材質、ナット溝の形状、使用している弦やサドル、スプリングやトレモロユニットの調整などさまざまな要因で起こる事なので熟練のギターテックやリペアマンでない限りこの症状をなくすことは不可能に近いです。
ですので、Fender社では「ブリッジを浮かせているからアーミングの後はアームアップして戻してね」と、なっているわけなんですね。
ですがこの症状も適切な場所にグリスを塗布することで‟軽減”させることができます。
塗布するメリット② パーツの長寿命化
そしてもう1つ、先ほど述べた通りパーツの寿命を延ばすことができます。
例えばナットに関しては弦を巻いたり、アーミングしたりする事によって生じる摩擦を軽減させてくれるのでナットの減りを少なくできます。
サドルにおいてはメッキ加工がされていますが、弦との接触でメッキが剥がれ、そこに湿気や汗など水分が加わると錆が生まれてしまいます。
錆が発生するとチューニングが安定しにくくなったり弦が切れやすくなったりします。
高価なモデルの場合、サドル溝の調整の関係でメッキを剝がしているものも見受けられますので、そういった繊細な調整を維持するためにもグリスを塗布することはとても重要なことだと言えますね。
グリスのメリットについてはこんな感じです。
グリスを塗る場所
次はどこにどのようにグリスを塗布すればよいのかです。
ナット


ここが一番大切と言っても過言ではありません。
まずは溝を歯間ブラシなどできちんと掃除します。
次に、つまようじなどの先端の細いものでグリスを少量取りナットに塗布します。
最後に綿棒で余分なグリスを除去したらおしまいです。
ポイントとして、グリスの量は決して塗りすぎず必要最低限の方が良いです。
この辺は色々な流儀みたいなものがあり、多めに塗布する方もおられるかもしれませんが量が多いとほこりなどの不純物が付きやすくなるので個人的にグリスの量は少なめの方がおすすめです。
少ない量でもきちんと塗ればしっかり効果として現れますからね。
ストリングガイド

ここは一度外して頂いてから弦が触れる部分に先ほどと同じ手順で塗布しサイドパーツを取りつけて頂ければ大丈夫です。
サドル

こちらも弦が乗る部分に塗布します。
ブリッジ取り付け部分


ここはブリッジの種類によりますが金属同士が擦れる部分に塗って頂ければ大丈夫です。
6点止めシンクロナイズドトレモロですと取り付けビスの底面とユニットの取付け穴部分に、スタッドで支えるタイプですとスタッドの溝とナイフエッジの部分に塗布してください。
弦穴

ここも弦とブリッジが触れる部分ですので塗っておいた方が良いです。

注意点としてはフロイドローズタイプなどの弦を挟んでロックするものの、ロック部分にはグリスは塗布しないでください。 ここはしっかり弦を固定したい部分ですのでグリスを塗ると弦が外れる原因になります。 グリスは抵抗を減らすところに塗布し、固定したい部分には塗布せずしっかり抵抗をかけて動かないようにします。
スプリング

ハンガーに引っ掛けるバネの輪っか部分に塗ります。
伸縮部にグリスを塗るのは困難なのでシリコンスプレーまたはフィンガーイースのような潤滑剤を軽く吹いておくとよいです。

そしてイナーシャブロックに引っ掛ける部分にはグリスは塗らないでください。 ここはしっかり引っ掛かっていないとスプリングの脱落の原因になります。
ハンガーとハンガービス


ハンガーはスプリングが引っ掛かる部分とビスの皿部分が引っ掛かる穴の部分に塗布します。
ハンガービスは皿の内側に塗布します。
以上のところに用法・用量を守って正しくグリスを塗布するようにしてください。お使いのギターのチューニングの安定性がより一層よいものとなり、パーツ寿命も延びるでしょう。
また、写真ではトレモロブリッジのギターを用いて説明いたしましたが、TOMブリッジのギターやベースでもグリスを塗布するところは同じですし、グリスの効果もしっかり現れますのでぜひお試しください。
最後にギターのグリスとはどのようなものがあるのか?
現在弊社で取り扱いがあるものですと、こちらの商品が人気です。
FERNANDES ( フェルナンデス ) / STEWMAC GUITAR GREASE
BIGBENDS ( ビッグベンズ ) / Nut Sauce Lil-Luber
DADDARIO ( ダダリオ ) / PW-LBK-01 LubriKit Friction Remover
SUPER VEE ( スーパービー ) / Super Glide
種類豊富にありますが、どれを選ぶかはご自身のギター仕様や使用者のレビュー、メーカー公式HPの情報などを参考にチョイスされるとよいと思います。
個人的にはどれにするかより、使うか使わないかの方が重要だと思っております。
今回はギターのグリスについてブログを書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
この記事をお読みいただいた方が実際に試されて、今後のギターライフがより良いものになっていくことを願っております。
最後にもう一度。グリスの量は必要な場所に最小限に塗布すること、これが一番大切です。
それではまたサウンドハウススタッフブログで会いましょう。
さようなら。