「通すと音が太くなる」「通すと音が前に出る」「通すと音がきらびやかになる」
さまざまな表現がありますが、全ては波形ないしスペクトルの変化であり、それ以上でもそれ以下でもありません。重要なことは、その変化によって音が良くなったと感じることがあっても、それは「情報量が増えているわけではない」ということだと思っています。
むしろ情報量は減る一方で、例えば一度フィルターでカットした音は後からブーストしても元に戻りません。音響機器は、入力された信号に含まれる情報量を減らす代わりにそのバランスを変更して音を加工する機材だと私は思っています。たいして音が変わらないなら、繋がないほうがいいと思うのです。
ダイレクトボックス(DI)
「DIを繋いだら音が良くなりますか?」という問い合わせをたまにいただきます。
DIはギターやベースから出た信号をローインピーダンスのバランス信号に変換することで、長距離配線時のノイズ耐性を高めると同時に、ミキサーやインターフェイスのマイク入力へこれらの楽器を直接接続できるようにするための機材です。
DIを使用せずに数十メートルのケーブルを引き回した場合と比較すれば、DIを使用することでノイズを大幅に低減できます。また、ギターやベースを直接ミキサーへ接続してみると、その高音域が劣化したサウンドに驚くはずですが、DIを通せばそれを避けられます。
これらの事実から、「DIを通せばノイズが減る」「DIを通せば音が良くなる」というイメージがあるのかもしれません。
たまに、オーディオインターフェイスがHi-Z入力対応なのにDIを検討している人や、マイクにDIをつなごうとしている人がいます。
ミキサーやインターフェイスがHi-Z入力に対応している場合、DIが無くてもインピーダンスは問題にならず、サウンドは劣化しません。また、数メートルの配線であれば、アンバランス接続でもそこまでノイズは乗りませんし、そもそもマイクはもとからバランス接続です。
機材というものはロマンの塊ですので、「通すだけで音が良くなりそう」と思ってしまう気持ちはわからなくもないですが、そういったイメージにとらわれず、実際のサウンドをよく聞き、自分の耳で判断していただきたいと思っています。もし、たいして音が変わっていないと思ったなら、多分良い音にはなっていませんよ!
音が良くなるDIがあるとすれば
と言いながら実は、通すだけで音が良くなりそうなDIがあります・・・
WARM AUDIO ( ウォームオーディオ ) / DIRECT BOX ACTIVE アクティブDI
RUPERT NEVE DESIGNS ( ルパート・ニーブ・デザイン ) / RNDI
BAE ( ビーエーイー ) / PDI ダイレクトボックス
いやもう見るからに通すだけで音が良くなりそう(笑)。
こういったDIは、高品質なパーツと回路デザインにより、ノイズや歪といった情報の欠落を最小限に抑えながら、積極的に情報バランスの変更を行います。その情報バランスの変更が、「色」となってユーザーに伝わります。
もちろん情報量が増えるわけはありませんが、その色付けは多くの人にとって「音がよくなった」と聞こえるようです。
私は上記のBAEとWARM AUDIOを試したことがありますが、たしかにインターフェイスのHi-Z入力などと比較すると音が違います。本当に微細なレベルですが、若干音が明瞭になるような印象を受けた記憶があります。2つ並べての比較はしたことがないので、それをすればもっと面白かったかもしれません。
機材を試す上で大切なことは、
- ある程度の物理学的な根拠があること
- 音が良くなるという先入観は持たないこと
- 自分の耳が聞き取った情報のみを信じること
だと思っています。賛同してくださる方がいらっしゃれば嬉しく思います。
いよいよどう締めくくればいいかわからなくなってきました。
今後もサウンドハウスは全国の音楽ファンの方々に機材というロマンをお届けして参りますので、これからもいっぱい買ってください~