
BOSTONのギタリスト、Tom Scholtz(以下、トム・ショルツ)が自身の理想とするサウンドを実現するために開発したヘッドフォンアンプ「ROCKMAN X100」。その個性的で耳馴染みの良いサウンドは色褪せることなく、今なお、多くのギタリストを魅了しています。
そして2025年、ギターサウンドに革命をもたらしたROCKMAN X100がMXRの手によって復活。「MXR MX100」として登場しました。
MXR ( エムエックスアール ) / MX100 ROCKMAN X100 ANALOG TONE PROCESSOR
本記事では、「ロックマンってなんで人気なの?」という方にも興味を持ってもらえるよう、ROCKMANの歴史やエピソードなどを交えながら、MXR MX100のレビューをお届けします。
BOSTONの名曲でトム・ショルツのサウンドに触れる
トム・ショルツは、76年に全米デビューを果たしたアメリカン・プログレ・ハード・ロック・バンド「BOSTON」のギタリストです。まずは、BOSTONの楽曲でトム・ショルツのギターサウンドに触れてみましょう。
76年リリースの1stアルバム「BOSTON(邦題:幻想飛行)」と78年リリースの2ndアルバム「Don’t Look Back(邦題:新惑星着陸)」は筆者のおすすめ。
Don’t Look Backのクレジットに“No Synthesizers Used”、“No Computers Used”と記載されているのは有名です。クレジットから、トム・ショルツのモットーとプライドが垣間見えますね。
シングルカットされた1stアルバム収録の「More Than a Feeling(邦題:宇宙の彼方へ)」と2ndアルバム収録の「Don’t Look Back」は、BOSTONの楽曲における定番のギターコピー曲として親しまれています。
SR&D社の設立とROCKMAN X100の誕生
トム・ショルツは、マサチューセッツ工科大学院卒。卒業後はポラロイド社でエンジニアとしてキャリアを積んだ経歴を持ちます。自身の知識と音楽への探求心から、仕事や音楽活動と並行して音楽機材を収集・改造したり、自宅アパートの地下にデビュー後も使用するレコーディングスタジオを構築したりしていました。
2ndアルバム発売後、リリース契約の不履行によりレコード会社に告訴されたトム・ショルツは、この間に自身のギターサウンドを手軽に再現できる機材の開発に着手。1980年にはSR&D(Scholtz Research & Development)社を立ち上げ、オリジナル機材の開発・販売を始めました。
1984年に販売したのが、SR&D社の代表作のひとつとなる「ROCKMAN X100」です。
ROCKMAN X100の特徴
- エフェクターを搭載したオールインワン設計
- 特徴的なサウンドを出力する4つのモード
- ポケットサイズのヘッドフォンアンプ
SonyのWalkmanがヒントになったとされる高いポータブル性と機能性、特徴的なサウンドなどが高く評価され、ROCKMAN X100は多くの著名ギタリストが手に取りました。
トム・ショルツも1986年リリースの3rdアルバム「Third Stage(邦題:サード・ステージ)」のレコーディングでROCKMAN製を使用しています。
SR&D社が衰退するもROCKMAN人気が再燃

一番上がROCKMAN XPR
90年代に入って台頭してきたのがデジタル機材です。デジタル技術の急速な発展によって、ギタリストがデジタル機材を使用することが一般的になってきたのです。SR&D社は高機能な「XPR」「XPRa」を販売するもROCKMAN製品の存在感は薄れ、SR&D社は衰退の一途を辿ります。
音楽ジャンルの多様化とともに、ギターにクリアなサウンドやグラッシーなサウンドが求められるようになった背景もSR&D社の衰退に関係していることは否めません。

真ん中に設置されているROCKMAN SUSTAINOR
しかし、2000年代に入ってからのアナログ機器の再評価によってROCKMANの人気が再焼。日本においては、B’zの松本孝弘氏がSUSTAINORやXPRを使用していることもあり、ROCKMAN の人気は衰えることなく、高い人気を保ち続けています。
現在、ROCKMAN製品の権利は、MXRを傘下に持つJim Dunlop社が保有しています。
MXR MX100を開封!付属品をチェック

ケースのカラーリングだけでもROCKMAN感があります。操作は「INPUT GAIN(コンプレッション)」と「VOLUME(音量)」のスライダーを任意の位置に設定したら、左右の白いボタンでモードとコーラスのON / OFFを決めるだけ。シンプルな操作感が嬉しい。
CTRLにフットスイッチを接続することで、足元でのモードの切り替えが可能です。
ちなみに、取扱説明書では、MXR MX100をギターアンプのリターンやモニタースピーカーに直接入力する“プリアンプとしての使用”を推奨する記載があります。MXR MX100を手に取ったら、エフェクターとしてだけでなく、プリアンプとしての使用も試してみて下さい。
付属品と電源について

付属品は次の7点です。
付属品一覧
- 専用アダプター
- ゴム足
- ロゴステッカー
- 取扱説明書
- クイックガイド
- 保証書
- ユーザー登録の案内

MXR MX100は、本体に電池を入れて動かすことはできません。センターマイナス9Vのアダプターやパワーサプライで電気を供給する必要があります。
モノラルとステレオを切り替えるスイッチ

MXR MX100の基盤には、モノラルとステレオを切り替えるスイッチがあります。デフォルトではモノラルに設定されていますが、コーラスを使用する方はステレオに切り替えて使用するのがおすすめ。爽やかに広がるステレオコーラスで幸せな気分に浸れます。
MXR MX100のサウンドレビュー

いよいよMXR MX100のサウンドチェックです。SR&D社出身で現MXRのエンジニアが設計に協力しているということで期待が高まります。今回使用した機材は次のとおりです。
使用機材
- Gibson レスポールスタンダード
- ARTURIA MINIFUSE 2
- MXR MX100(モノラル)
MXR MX100以外のエフェクター、およびDAWのプラグインは不使用です。まずはギターの生音をお聴きください。
■ 生音
サウンドチェックでは、プリセットを問わずスライダーの位置は固定です。ROCKMANらしさという点を考慮し、INPUT GAINはMAXの状態で弾きました。コーラスのON / OFFやプリセットごとにサウンド、音量がどのように変化するのかをご確認ください。
CLN1|中域がフォーカスされた存在感のあるサウンド

■ CLN1
■ CLN1 コーラス
「CLN1」は、アルペジオからカッティングまで柔軟に対応できる扱いやすいクリーントーンです。高域が抑えられ、中域にフォーカスされています。存在感のある抜けの良いサウンドが秀逸。外部エフェクターと組み合わせての音作りもしやすいです。
CLN2|ROCKMANを象徴する美しいクリーントーン

■ CLN2
■ CLN2 コーラス
「CLN2」は、レンジが広く美しいクリーントーンが特徴のモードです。コーラスを掛けるとより美しさが際立ちます。80年代風のクリーントーンを求めている方にぴったり。“ROCKMAN=CLN2”というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?
筆者がROCKMANのクリーントーンを使用するときは、CLN1はアルペジオ、CLN2はカッティングで使い分けることが多いです。
EDGE|バッキングからリードまでこなせる深めのクランチ

■ EDGE
■ EDGE コーラス
MXR MX100で一番使用頻度が高いモードが「EDGE」です。クランチサウンドのモードですが、歪みはバッキングからギターソロまで演奏するのに十分な深さ。ブースターを用意し、バッキングとソロでサウンドを使い分けるといった用途にも適していると感じます。
DIST|強烈なサスティーンのハイゲインサウンド

■ DIST
■ DIST コーラス
MXR MX100で最もハイゲインなのが「DIST」モード。シルキーな音色でサスティーンも長く、とても弾きやすいです。適度な抜け感がありながらも耳馴染みの良いサウンドは、リードギタリストにうってつけ!コーラスを掛ければ、懐かしい80年代のリードサウンドに。
イコライザーとの併用もおすすめ
良くも悪くもROCKMAN X100を踏襲した個性的なサウンドのMXR MX100。人によっては、サウンドに惹かれるものの、使いにくいと感じる方も多いでしょう。
そこでおすすめなのがイコライザーとの併用です。イコライザーで高域を持ち上げたり、低域をカットしたりすることで、ROCKMANのサウンドを活かしつつ、現代の音楽にもマッチしたサウンドにデザインできます。
MXR MX100は、シンプルゆえに研究し甲斐のあるプリアンプ / エフェクターです。
ROCKMANの個性的なサウンドを出力できるエフェクターの決定版
MXR MX100は、手軽にROCKMANサウンドを得られるという点が最大の魅力です。
元となったROCKMAN X100をはじめ、SR&D社のエフェクターやアンプが中古でしか購入できない高価なヴィンテージ機材であることを考慮すると、MXR MX100はお値段以上のエフェクターだと言えるでしょう。
MXR MX100がおすすめなのは下記の方です。
- DAWでの使用を想定している
- ROCKMANサウンドを試したい
- (ライブで使用する場合)モードを固定して使用する
- サウンドバリエーションを増やしたい
オリジナル機材の開発まで自身で行う天才トム・ショルツの理想のサウンド。その一端をMXR MX100で得られます。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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