マイクプリアンプとは、マイクから出力された音声信号を増幅するプリアンプです。マイクから出力される音声信号は微弱なため、他の音源とミックスしたりレコーダーに記録したりするために、プリアンプによって信号を増幅します。ミキサーやオーディオインターフェイスにマイクを直接接続して使用することができるのは、内部にマイクプリアンプの回路が入っているからです。このように、マイクプリアンプはあらゆる音響機器に内蔵されているため、知らないうちに誰もがマイクプリアンプを使用しています。しかし、マイクプリアンプはマイクのサウンドを大きく左右する重要な要素であるため、内蔵のプリアンプを単体機に置き換えることで音質向上を図るケースがよく見受けられます。今回は、このような単体機のマイクプリアンプの接続方法についてご紹介します。
WARM AUDIO ( ウォームオーディオ ) / WA73-EQ
マイクレベルとラインレベル
音声信号はその電圧の強さによってカテゴライズされています。
- マイクレベル:マイクから出力される信号で、-60~-40 dBu程度
- ラインレベル:マイクレベル信号の約1000倍にあたる強さの信号で、+4 dBuが基準※
※ホームオーディオ製品などの民生品では-10dBVが基準となっているものが多いです。
マイクレベルの微弱な信号をラインレベルまで昇圧するプリアンプが、マイクプリアンプです。マイクレベルに似たカテゴリに楽器レベルがあります。楽器レベルはエレキギターなどから出力される信号などが該当し、マイクレベルよりはやや大きいものの、ラインレベルまで昇圧するにはやはりプリアンプが必要です。
入出力端子の信号レベルについて
音響機器の入出力端子は、端子ごとに扱う信号レベルが決まっています。マイクレベルを扱う入力は「マイク入力」、出力は「マイク出力」。ラインレベルを扱う入力は「ライン入力」、出力は「ライン出力」です。大抵の場合はこれらが容易に判別できるように本体に印字されていますが、メーカーや製品によって表記が異なるため、よく理解する必要があります。
2つ以上の機器を接続する場合、原則としてマイク出力とマイク入力、またはライン出力とライン入力を接続します。互い違いに、マイク出力をライン入力に接続したり、逆にライン出力をマイク入力に接続したりすることはできません。互い違いに接続してしまうと、次のような問題があります。
マイク出力→ライン入力
ライン入力はラインレベルの強い信号に対応する入力端子です。マイクレベルの弱い信号を入力した場合、電圧が不足し十分な音量が得られません。
ライン出力→マイク入力
マイク入力はマイクレベルの弱い信号に対応する入力端子です。ラインレベルの強い信号を入力しようとすると、クリップしないように出力元の機器のボリュームを絞る必要があり、S/N比の面で不利になります。
マイクプリアンプで増幅された信号がラインレベルであり、増幅前の信号がマイクレベルであるという点を踏まえると、次の図のように、信号経路にマイクプリアンプがあるかどうかで各端子の扱う信号レベルが決まると考えることもできます。
マイクレベルの信号を増幅せずにマイクレベルのまま出力する経路は、複雑な音声処理を行わないマイクブースターやマイクスプリッターなどに存在しますがここでは言及しないことにします。ミキサーやインターフェイス、マイクプリアンプを含むアウトボード機器などでよくあるのは、予め増幅されたラインレベルの信号を受けて音声処理を行い、ラインレベルのまま出力する経路です。
マイクレベルの信号をライン入力に接続した場合、すでに増幅されている信号として扱われ、そのまま処理されるため音量が不足します。逆にラインレベルの信号をマイク入力に入力した場合、すでに増幅された信号をさらにマイクプリアンプで増幅することになるため、信号が強くなりすぎることになり、音が歪んでしまうことがあります。
機器の実際の回路は上記のような設計になっていない場合も多くありますが、あくまで考え方として、このように捉えておけば失敗することはないはずです。
先ほど、各端子が扱う信号レベルは本体に印字されていると書きましたが、そうでない例もあります。
マイク入力は内蔵のマイクプリアンプを通る入力端子です。つまり、そもそもマイクプリアンプの回路が全く内蔵されていない機器においては、マイク入力が存在しないことが明確なため、表記が省略されます。具体的には、イコライザー、コンプレッサー、ノイズゲートなどのアウトボード類の多くはマイクプリアンプを内蔵しておらず、ラインレベルの信号のみを扱うため、すべての端子はライン入力か、ライン出力になります。稀に、マイクプリアンプを内蔵していないイコライザーやコンプレッサーにマイクや楽器を直接接続して正常な音が出ないというお問い合わせをいただきますが、このような背景があります。覚えていただくとすれば、マイク入力端子の「MIC」の表記が省略されることはほとんどないので、省略されていたらライン入力かも、と捉えておけば間違いない気がします。マイクは「MIC」と書いてある端子にだけ接続すると覚えておきましょう。
バランス/アンバランス
機器と機器の間の音声信号の伝送には、バランス伝送とアンバランス伝送があります。
技術的な解説を大幅に端折って簡単にまとめると下記のような違いがあります。
- アンバランス伝送:信号線が2本のベーシックな伝送方式
- バランス伝送:信号線が3本でノイズに強い伝送方式
1つの信号(1ch・モノラルの信号)を伝送するのに2本の導線が必要なのがアンバランス、3本必要なのがバランスです。つまり、アンバランス伝送を行うには、2本の銅線と2極のコネクタを持つケーブルが必要で、バランスではそれらが3になります。
TRSフォン・コネクタはヘッドホンなどでも利用されているため、ステレオ信号用のコネクタだと認識している人も多いですが、レコーディング機器ではモノラルのバランス信号にも多く使われています。
XLRコネクタについては、アンバランス信号やステレオ信号で使われることはほぼないため、PA/レコーディング機器におけるXLRコネクタはすべてバランス対応の端子と考えてまず間違いありません。同様にアナログのRCAコネクタについてはすべてアンバランスのみ対応です。
厄介なのがTSフォンとTRSフォンで、ジャック側(メス側)は外から見てもTSフォンなのかTRSフォンなのか、見分けがつきません。本体に表記がない場合は、仕様を確認する必要があります。表記があればラッキーで、”BALANCE”ならTRSフォン、”UNBALANCE”ならTSフォンだとわかります。ちなみにTRSフォンとTSフォンは互換性があるケースも多く、その場合は”BALANCE/UNBALANCE”というように表記され、この場合、どちらを挿しても問題ありません。また、このような背景から2種類合わせて単に「フォン」として扱われることも多いです。
接続するときは、バランスはバランス同士、アンバランスはアンバランス同士を接続することができるならそれがいいですが、それが難しい場合、バランス端子とアンバランス端子を変換して接続することも可能な場合があります。ただし、バランス伝送は両端がバランス端子でなければ成立しないため、片側がアンバランスなら、伝送はアンバランス伝送になります。具体的な変換方法としては、下記のような変換ケーブルを利用することになります。
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / CXP010
このケーブルは、XLRオス(バランス)をTSフォン(アンバランス)に変換できるケーブルです。ただし、すべてのケースにおいて市販の変換ケーブルで上手くいくわけではありません。バランスとアンバランスの変換については少々奥が深いので、気になる人は下記の記事を読んでみてください。
マイクプリアンプを繋いでみよう
今回は、今大人気のマイクプリアンプ、WARM AUDIO / WA73-EQを題材にしたいと思います。せっかくなのでコンプレッサーも繋いでみましょう。同じくWARM AUDIOのWA-2Aをチョイスしました。
今回、ケーブルは3本使用します。グレーの丸印で番号を振っています。
①
・XLRメス→XLRオス
大抵のマイクはXLRオスのバランス出力であり、マイクプリアンプのマイク入力もほとんどがXLRメスのバランス入力です。そのため、マイクとマイクプリアンプの間はXLRメス→XLRオスのケーブルが1本あればほぼ間違いありません。ちなみにこの部分の接続はマイクプリアンプ通過前のマイクレベルの信号になります。
②
・XLRメス→XLRオス
・XLRメス→TRS
・TRS→XLRオス
・TRS→TRS
WA73-EQの出力も、WA-2Aの入力も、XLRとTRSの両方に対応しており、バランス対応です。そのため、それぞれの組み合わせにより、上記の4種類のケーブルが使用できます。この部分はマイクプリアンプ通過後なのでラインレベルの信号になります。WA-2Aにはマイクプリアンプが内蔵されておらず、ライン入出力しかないため信号レベルは問題になりません。
③
・XLRメス→TRS
・TRS→TRS
この部分は少し注意が必要です。UR22Cの入力は、XLR・TRSフォン・TSフォンに対応したコンボジャックで、表記は「MIC/LINE」となっています。これは、マイクレベルとラインレベルの両方に対応している端子であるということが窺えますが、XLRで接続する場合とフォンで接続する場合で素性が異なるので注意が必要です。UR22Cに限らず多くのミキサーやインターフェイスでは、フォンのほうがXLRよりもゲインが低く設定されています。そのため、フォンはXLRより最大入力レベルが高くなっていることが多いです。つまり、ラインレベルの強い信号はXLRで接続するよりも、TRSで接続したほうが無難ということになります。XLRで接続する場合、ゲインの設定に注意が必要で、たいていの場合はゲイン0で使用します。今回の例では、マイクプリアンプ通過後のラインレベルの信号を接続することになるため、TRSをチョイスしています。今回の例ではコンボジャックですが、マイク入力とライン入力が別々の端子になっている機器の場合でも傾向は同じです。XLRがマイク入力、フォンがライン入力となっている製品は多いので、覚えておいていただきたいです。
ケーブルの具体例
CLASSIC PROのケーブルは種類が豊富で品番がわかりやすいので最初の1本におすすめです。長さやカラーのバリエーションがありますが、ここでは代表として、3mのブラックで統一しています。
XLRメス→XLRオス
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / MIX030
上記の例で言う、①と②の箇所で使用できるケーブルです。
XLRメス→TRS
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / CXS030F
こちらは②と③で使用できますね。
TRS→XLRオス
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / CXS030
こちらは②のみで使用できます。若干使えるシーンが少ないケーブルです。
TRS→TRS
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / CSS030
こちらは②と③で使用できます。
(余談)実はアンバランスケーブルでも問題ない
上記の例で登場する機器にはいくつかTRS端子が備わっていますが、どの端子も実はアンバランス対応となっています。そのためTRSではなくTSフォンプラグを挿しても問題ありません。そして、XLRのバランス出力についても、1ピンと3ピンをショートさせても問題ない仕様になっているため、XLRメス→TSのようなバランス→アンバランスの変換ケーブルを使用しても問題ありません。また、TS→TSの楽器用のケーブルを使用することも可能です。ただしこれらは全ての機器で共通というわけではありませんので、使用する機器の入出力端子が対応しているかどうかは確認する必要があります。
まとめ
難しいことは考えずに要点だけ押さえておきたいという方は次の点だけ覚えていただければと思います。
- マイクはマイク入力に挿す。他の入力には挿さない
- マイク入力にはマイク以外を接続しない
- バランスと言われたらXLRかTRSフォン、アンバランスと言われたらTSフォンのこと。
- バランス端子同士、アンバランス端子同士を接続すれば間違いがない
- ミキサーとインターフェイスについては、XLRの入力がマイク、フォンの入力がライン
このブログの内容を理解していただければ、取り急ぎ接続は上手くいくはず!
これを機にマイクプリアンプを存分にエンジョイしていただければ幸いです!