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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その231 ~フェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手PartⅦ ラリー・ウイリアムス遍~

2025-02-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ハワイ発!ハイテクニックバンド シー・ウインド!

今回、7回目となるフェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手はラリー・ウィリアムズです。
ラリー・ウィリアムズは米国のキーボーディスト、アレンジャー、コンポーザー。サックスやフルートも演奏するマルチプレイヤーでもあります。
ハワイ出身者によって結成されたジャズ・フュージョンバンド、シーウィンドの演奏家として名を馳せました。

キーボードプレイヤーであり、サックスやフルートの腕前もピカ一というラリーは「二足の草鞋」どころか三足、四足の草鞋を履くというという天才的な音楽家です。
今回の特集はキーボード、特にローズピアノの演奏にフォーカスしたラリー・ウィリアムズ参加のアルバムや楽曲を取り上げます。

その前にラリー・ウィリアムズが参加しているバンド、シーウィンドについての解説です。
シーウィンドはリードボーカルのポーリン・ウィルソンとポーリンの夫であり、ドラマーのボブ・ウィルソン、ギタリストのバド・ヌアニス、ベーシストのケン・ワイルド、フルート、サックス奏者のキム・ハッチクロフト、トランペットのジェリー・ヘイ、そしてキーボード奏者であり、サックス、フルートを操るラリー・ウィリアムズの7人編成のバンドです。
このバンドはメンバーの演奏スキルが非常に高く、その技術がバンドサウンドに反映されています。
シーウィンドはその演奏力の高さからドラマーのハーヴィー・メイソンに見出され、1976年、CTIレコードよりハーヴィーのプロデュースによるアルバム『シーウィンド』でプロデビューします。このアルバムから楽曲「The Devil is a Liar」がグラミー賞にノミネート。ファーストアルバムからのグラミー賞ノミネートはシーウィンドというバンドの実力を裏付ける快挙でした。
シーウィンドはボズ・スキャッグスやジョージ・ベンソンといった名の知れたアーティストらとツアーをこなし、その腕に磨きをかけ、1978年に単独で来日。そのテクニカルな演奏は音楽ファンから高い評価を受けました。

そしてこのバンドのウリは「シーウィンドホーンズ」でした。トランペット奏者であり、アレンジャーのジェリー・ヘイは70年代後半から80年代にかけて、この人のクレジットが無いレコードは存在しないだろうと思える程の超売れっ子ぶりでした。
このホーンセクションにファンキーなラリー・ウィリアムズのローズピアノのバッキングやソロが加わり、バンドアンサンブルの上をポーリン・ウィルソンのキュートなボーカルが舞えば、シーウィンドの世界が出現することになります。それは唯一無二であり、ワン&オンリーな音楽でした。

■ 推薦アルバム:Seawind 『海鳥』(1980年)

1980年、キーボーディストのジョージ・デュークをプロデューサーに迎え、制作された傑作アルバム。シーウィンドの音はヌケのよいテクニカルなサウンドであり、このアルバムも例外ではない。今聴いてみてもこのアルバムが40年以上前の作品だとは思えない程、洗練されている。
ラリー・ウィリアムズのローズピアノプレイはバッキングの鋭さ、キレの良さが際立つ。
ラリーのローズピアノから発せられる音は普通のキーボーディストとは異なり、ブラスのバッキング的な要素を感じるところが随所にある。それはラリーがシーウィンドホーンズの一員でもあるからだろう。
このアルバムはオリジナルメンバーの他にスペシャルゲストとしてラルフ・マクドナルドやポリニョーダ・コスタといった名パーカッショニストが参加し演奏に彩を加えている。

翌年、1981年にはポーリン・ウィルソンとボブ・ウィルソン名義のアルバム『Somebody Loves You』をリリース。シーウィンドのメンバーが参加するものの、このアルバムを最後にシーウィンドは活動を休止。後に解散という道を辿ることになる。

推薦曲:「プラ・ヴォセ」

ローズのアルペジオ的なイントロから始まり、アコースティックギターの心地良いメロディが続く。それを受けたポーリン・ウィルソンのスキャットが響く。ラリーお得意のローズピアノによるバッキングも冴えわたっている。
この楽曲で印象的なのはラリー・ウィリアムズによるローズピアノソロだ。
ラリーのローズソロにはビ・バップ系のフレーズはあまり多くなく、コードスケール上の音を弾いている場合が多いが、アドリブの8小節目、16小節目といった節目のセブンスコードにおいてオルタード・スケールを使うことが多い。このオルタード・スケールを使うことでひねったアウト感を出し、ジャズ的なムードを作り出している。

■ 推薦アルバム:シーウィンド 『REUNION』(2009年)

シーウィンドは2005年にLAでコンサートを開き、それをきっかけに活動を再開。そして活動再開より3年をかけ、アルバム『REUNION』がリリースされる。29年ぶりのアルバムリリースに驚喜した音楽ファンは多い。
「He Loves You」やグラミー賞ノミネート曲である「The Devil Is A Liar」など、セルフカヴァーも多数含まれ、シーウィンドファンにとっては嬉しい内容となった。
ラリー・ウィリアムズも相変わらずのローズピアノを聴かせてくれる。
そしてこのアルバムのエポックはグラミーの常連、アル・ジャロウの参加だ。ポーリン・ウィルソンのボーカルは落ち着きを増し、新しいシーウィンドを感じることができる。いたるところに配置された「シーウィンドホーンズ」も輝いている。
トランペット奏者であるジェリー・ヘイの演奏参加はなかったものの、ラリー・ウィリアムズと共に2曲でホーンアレンジを手掛けている。

推薦曲:「He Loves You」

ファーストアルバムからの名曲のカバー。アレンジ的に大きく変わったという印象はないが、安定のシーウィンドサウンドを堪能できる。
中でもアル・ジャロウの参加は特筆もので、あのパーカッシブなボーカルを随所に聴くことができる。
グラミー受賞歴のあるポーリン・ウィルソンとグラミー常連のアル・ジャロウのグラミーデュオはそうは聴けるものではない。アルバムトラック中の白眉と言える。
またもう1つの白眉はラリー・ウィリアムズのローズピアノプレイだ。
アウトロ部分でのポーリン・ウィルソン、アル・ジャロウ、ラリー・ウィリアムズの3者が相まみえる掛け合いは楽曲中、最高のハイライト!
ラリー・ウィリアムズのソロともバッキングともつかないローズピアノはラリーお得意のプレイスタイルだ。ローズピアノからブラスアンサンブルが聴こえてくる。
アル・ジャロウが自身のアルバムでカバーした名曲「スペイン」での火花散るアル・ジャロウとラリー・ウィリアムズの掛け合いを想起させる必聴トラックだ。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ラリー・ウィリアムズ、ジェリー・ヘイ、ボブ・ウィルソン、ポーリン・ウィルソン、アル・ジャロウ、ケン・ワイルド、キム・ハッチクロフトなど
  • アルバム:『海鳥』『REUNION』
  • 推薦曲:「プラ・ボセ」「He Loves You」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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