ギターを演奏する人間にとって、ブルースというジャンルは最も重要なものの一つと言えるだろう。
これまで様々なギター教則の本や動画を見てきたが、ブルースに言及しているものは非常に多かったように思う。
今回は、ブルースに興味はあるけど、コテコテのブルースは聴きづらい、取り組みづらい、と感じているギタリストに向けて、邦ロック大好きな私がどのような経緯でブルースにハマったのかを紹介したいと思う。
私自身はブルースを聴くようになってから、かなりギターが上達した感覚がある。フレーズを歌わせることの大切さや、グッとくるビブラートやベンドなど、ブルースから多くのことを学び、反映させてきた。これを見ている皆さんにもブルースギターを通じて自分のギターの可能性を広げてほしいと思う。私の経験を参考にして、皆さんも皆さんなりのやり方でブルースに取り組んで欲しい。
さて、どんなスタイルのギタープレイヤーにとっても、憧れのギタリストが時折魅せるブルージィなフレーズに、思わずグッときてしまった経験があるのではないのだろうか。
斉藤和義「ずっと好きだった」の冒頭などはわかりやすいだろう。
どうやったら、あんな味わい深い響きを鳴らすことができるのか。耳コピしたり、理論を勉強したりするうちに、多くの人が「マイナーペンタ」「メジャーペンタ」「ブルーノート」「12小節で一周のブルース進行」などなどの話題に行き着くことだろう。
もちろんそれらを理解することは非常に大切なのだが、それだけでは生き生きとしたブルースを演奏することはなかなかできるようにならない。
練習を続けているうちに、「これ、いわゆる本家のブルースを聴き込まないと演奏できるようにならないのでは?」と考えるようになった。
そう思い立ち、勇気を出して、ロバジョン、BBキング、バディガイ、などなど様々なレジェンドたちの音源を聴いてみるのだが、ピンとこない。正直に言ってどこがどうかっこいいのかよくわからない。退屈。Tsumanne(SAKANAMON!?)
BUMPOFCHICKENとエルレガーデンで育った私にとって、伝統的なスタイルのブルースはあまりにもエキゾチックすぎた。カルチャーショックとも言える。(今思い返すと、私が聴いていた様々な邦ロックにもブルースの要素は散りばめられていたのだが、免疫のない私はそのことに気がつけなかった、悔しい)。
結局ブルースにはハマらず、弾けるようになることもなく、邦ロックの演奏を耳コピする日々が続いた。ギターはレスポールスペシャル。ピックアップはセンター。半音下げチューニングでDadd9の分数コードをかき鳴らし続け、ギターソロとリフはマイナーペンタとオクターブ奏法で弾きまくっていた。
そんな私の前に颯爽と現れ、音楽性を広げるきっかけを作ってくれたのが「Suspended 4th」というバンドだった。
彼らを知ったきっかけはもちろん(?)「ストラトキャスター・シーサイド」である。その衝撃は凄まじかった。テクニカルすぎるリズム隊(よく聴くとバッキングギターもテクい)、アベフトシすぎるリードギター、演奏もビジュアルもそれぞれの個性がぶつかり合っていて最高に最高だった(??)。
Suspended 4th メンバー使用機材の一例
ギターボーカル 鷲山和希氏使用
BOSS ( ボス ) / BD-2 Blues Driver オーバードライブ
リードギター 澤田誠也氏使用
BOSS ( ボス ) / DD-200 DIGITAL DELAY
ベース フクダヒロム氏使用
PETERSON ( ピーターソン ) / StroboStomp HD
Suspended 4thはとても多くの機材を使っていて、エフェクターボードの中身なども頻繁に入れ替わっている。特にBD-2 Blues DriverとStroboStomp HDの2つはSuspended 4thというバンドを象徴する機材ではないだろうか。
そうして彼らの様々な曲をコピーしていくうちにとある一曲に出会う。
「Rainy, Rainbow Later」という曲である。この曲の元ネタはJohn Mayerの「Good Love Is on the Way」であると思われる。YouTubeにあるSus4のライブ映像をみると、Aメロ部分でドラムのデニス氏がJohn Mayerのメロディを歌っているのが確認できる。
当時John Mayerを知らなかった私は「Aメロのデニス何歌っているんだろう?」と疑問に思っていた。しかしYouTubeのコメント欄からJohn Mayerの存在を知り、彼の名曲「Good Love Is on the Way」まで辿り着いた。
John Mayerの衝撃も凄まじかった。セクシーな息遣いを感じさせるフレーズとゲインコントロール、コードとリズムがよく表現されたリズムギター、ギターの音良すぎない?、歌も上手い、顔もかっこいい、曲もいい。。。マジでやば過ぎ。
彼の代表作のうちのひとつに「Where the Light Is」というライブ音源が挙げられるだろう。そのライブで魅せる彼のブルースギターに私の脳天はぶち抜かれた。私のお気に入りは「Every Day I Have the Blues」。BBキングをはじめとして、様々なギタリストの演奏で有名なこの曲だが、私はJohnの演奏でこの曲を知った。Johnの音源を聴きあさり、彼の曲をコピーしているうちに、「何聴いてたらこんなハンパないギター弾けるようになるの?」と思うようになり、彼の情報を調べ始めた。
Johnに影響を与えたギタリストといえばあの伝説のギタリストだろう。
「Stevie Ray Vaughan 」。ストラトキャスターから繰り出される彼の骨太ブルースに私は夢中になった。とにかく音が太い、そして速い。それでいて、Lennyなどのバラードや、ジャズにまで言及した曲もあるという幅広さ。私にとっては何もかもが規格外だった。私のお気に入りは、「Tin Pan Alley」。楽器の演奏だけのセクションがかなり長いのだが、演奏の文脈的破綻が全くなく、全てが音楽的に滑らかに接続している。よく練られた美しい文章を読んでいるかのような心地よさがあるのだ。そして彼の脅威的なタイム感も知ることができる。
レイヴォーンまで辿り着くとそこからは、ジミヘン、ジョニー・ウィンター、BBキング、アルバート・キング、オーティス・ラッシュ、ゲイリー・ムーアやジョー・ボナマッサ、キングフィッシュやジョシュ・スミスなど様々なプレイヤー及びスタイルのブルース音楽や、そこから派生した音楽を積極的に聴けるようになった。
今ではブルースは最も好きな音楽ジャンルのうちの一つになった。自分の中に新しい音楽が蓄えられていくのはとても気持ちがいい。現代の素晴らしいミュージシャンたちはこういった経験を何度も繰り返し、インプットを繰り返した結果、新しい音楽をアウトプットできているのだろうと思う。ブルースというギターの歴史において古典とも言える音楽が、我々の新たな感覚の扉を開くことにロマンを感じずにはいられない。
最後にブルースを弾きたくなったそこのあなたにおすすめの機材を紹介しようと思う。
J ROCKETT AUDIO DESIGNSの「Blue Note」という歪みエフェクターだ。
J. ROCKETT AUDIO DESIGNS ( ジェイ・ロケット・オーディオ・デザインズ ) / Blue Note Over Drive
Blue Noteという名前からもわかる通り、トラディショナルなスタイルのブルースやジャズを弾きたくなるエフェクターだ。歪みの量としてはそれほど多くはない。全てのつまみが真ん中の状態だとほとんど歪まない。私はこのエフェクターを、演奏の中で踏み分けるというよりは、踏みっぱなしにして、メインのクリーンをワンランク上の音にする用途で使う。踏みっぱなしにして、クリーンやクランチを作るエフェクターといえば、XoticのEPブースターやrcブースター、VemuramのJan Rayあたりが定番だろう。Blue Noteのこれらのエフェクターとの違いは低域のふくよかさだと思う。
個人的な意見だが、エフェクターというのはミドルからトレブルにかけてを操作するものが多い。私は低域にアクセスしたいときはアンプ側のつまみを操作することが多い。この時、アンプのベースのつまみを上げるのではなく、ボリュームやゲインをあげると、狙った低域が出しやすい。しかし、こうやって作る音は爆音になりやすいのだ。シンプルなアンサンブルなら爆音もコントロールできるのだが、ヴォーカルがいる時などは、ギターのボリュームつまみと右手のタッチにかなり気を使わないといけなくなるので、正直弾きずらい(それをコントロールするためにギターを練習するのだという意見も非常によくわかります)。
こんな時がこのエフェクターの出番である。小音量のアンプでもしっかりと低域を出すことができる。しかもこの低域の出方が非常にアンプライクなのだ。まるでレコードから聴こえてきそうな飽和感のあるクリーンを簡単に小音量で作ることができる。ジョン・スコフィールドもこのエフェクターを使っているらしい。逆にモダンな音を出したい人には向かないだろう。
しかし、私がよく考えることなのだが、自分にとって新しい音色が自分の音楽性を広げてくれる、ということがあると思う。Fuzz Faceがあったからこそ、ジミヘンは彼の音楽を作れたのではないか、歪んだマーシャルの音があったからヴァン・イレンのスタイルが生まれたのではないのかと。もちろん彼らの音楽は彼らの努力とアイディアによるところが大きいのだが、それでも新しい音色が彼らに与えた影響は大きいのではないかと私は考えている。
そういう意味では、ブルーノートという音程のあの微妙なニュアンスをまだ体験していないギタリストにこそ、このエフェクターをお勧めしたい。最初はこのエフェクターの音に戸惑うだろう。しかし、落ち着いてほしい。「この音色に合うフレーズはどんなものがあるだろう?」と考えてみて欲しいのだ。この考えを持って、ギターを続けていれば、いずれ、BBキングやウェスモンゴメリーなどの音楽にたどり着けるだろう。そして彼らの音楽に心の底から感動できるようになった時、あなたは気付かされるのだ。ギターという楽器の奥深さに。

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら