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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その204 ~ローズ・エレクトリックピアノを使ったJポップの名曲 佐藤博編 PartⅡ~

2024-10-23

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ローズ・ピアノ特集はローズ・ピアノの国内ナンバー1の使い手、佐藤博を取り上げています。

佐藤博は鹿児島県の寺の長男として1947年に誕生。佐藤のエピソードで知られているのは20歳過ぎてからピアノを独学で学んだことです。通常は3歳位から始めるピアノレッスンですが20歳という年齢から独学で始めたことが伝説となっています。そして国内ピアニストのトップにその名を刻むというのはご本人の凄まじい努力に加え、天賦の才に恵まれていたこともあったのでしょう。

佐藤博は70年代の中頃に上田正樹をはじめとする関西系のミュージシャンとセッションを重ねる中、ギタリスト鈴木茂と出会い、本格的にプロとしてバンド活動をスタートします。

今回は佐藤博が参加したハックルバックというバンドの貴重なライブアルバムから、佐藤博のローズ・ピアノプレイを探っていきます。

佐藤博とフェンダーローズ・ピアノ

1970年頃はエレクトリック・ピアノの情報は国内に殆ど存在しませんでした。佐藤博はジャズ喫茶でビブラフォン奏者のマイク・マイニエリの演奏を聴き、その音がフェンダーローズ・ピアノと勘違いをしてローズ・ピアノを購入したそうです。
「自分の音楽を伝えるため」に20歳からピアノを始めた若者にとってアコースティックピアノは距離がある存在。ローズ・ピアノに出会った時、このローズこそ自分が待ち望んだ楽器だと思ったそうです。

■ 推薦アルバム:鈴木茂&ハックルバック『1975 LIVE』(2015年)

ハックルバックのメンバーは鈴木茂(Vo、G)佐藤博(key、Vo)田中章弘(B)林敏明(Dr)の4人。
鈴木茂が渡米して海外ミュージシャンと制作した『BAND WAGON』リリース前に、そのアルバムを再現するという目的で4人のメンバーが集められた。鈴木が海外メンバーとのセッションで感じた1番の感想は「迫力」だったそう。それもその筈でタワー・オブ・パワーのドラマー、デイヴィッド・ガリバルディやリトル・フィートのキーボーディスト、ビル・ペイン、ベーシストのケン・グラッドニーなど、アメリカンバンドの中でも特にグルーヴィーな演奏をする面子が顔を揃えている。特にリトル・フィートのうねるリズムは多くのリスナーにとって言わずもがなの話だ。
本場アメリカ産の演奏を体感した鈴木茂が帰国して自身のバンドメンバーに求めた課題がその「迫力」だったのは容易に理解することができる。
アルバム『BAND WAGON』ツアーに参加したメンバー達は確かに強者揃いだ。2015年にリリースされたこのアルバム『1975 LIVE』を聴けば鈴木茂の意気込みが伝わってくる。その中でも特に佐藤博のキーボードプレイは圧巻である。ローズ・ピアノをメインにした佐藤博のプレイは当時の年齢から考えれば驚くばかりだ。佐藤博はフェンダーローズ・ピアノとアコースティックピアノ、オルガンを弾いているがメイン楽器はフェンダーローズ・ピアノ。かなりの腕前で弾き倒している。
1975年と言えば佐藤は27歳。既にこの頃からニューオリンズライクなピアノプレイが完成しつつあることが分かる。

1975年のライブ盤だけに全体の音の悪さは仕方ないところ。このライブの音を聴いてローズ・ピアノのライブ時の音はこんな感じだったと改めて実感した。ビブラフォン的なローズ音はあまり音が立たない為、レベルを上げると高音部のアタック音が妙に強調され、中間部の音が歪んで聴こえる傾向にある。しかしバンドの演奏はかなりのもので後半になるにしたがい、音がまとまってきていることも聴いてとれる。
しかしブッキングされたスケジュールを消化した後、バンドは解散。
ライブレコーディングされた楽曲を聴くと「砂の女」「100ワットの恋人」「8月の匂い」といった鈴木茂の楽曲の良さが際立つ内容になっている。

推薦曲:「100ワットの恋人」4月4日/京都テイク

実際のオリジナルテイクとは異なり、イントロは佐藤博のローズ・ピアノソロからスタート。そのローズ・ピアノのソロが佐藤博の得意とするニューオリンズ由来のホンキートンク系ソロであることは言うまでもない。しかし何故かこのイントロが泥臭くない。このライブのイントロを聴けば、この時既に佐藤博のベースが出来上がりつつあると確信する。それはあくまで佐藤博流だ。
ホンキートンク系やブルース系のソロを弾く場合、どうしても音数を多くしてこねくり回したくなってしまう。しかし佐藤博のソロアプローチはブルージーではあるが休符の捉え方、間の取り方が独特でこの「間」こそが洗練された印象を受ける大きな要因なのではないかと私は思っている。

この楽曲での聴きどころは佐藤のローズ・ピアノによるツボを押さえたバッキングであると共に、2度ある間奏部のギターソロとローズ・ピアノのソロ部分だ。鈴木茂のスライドギターソロを受けた佐藤博のローズソロから、当時イケイケの若手ミュージシャンの勢いを感じるのは私だけではない筈だ。

この楽曲「100ワットの恋人」は4月4日の京都のテイクと5月15日の大阪のリハーサル・テイク、本番テイクの3つのバージョンが記録されている。
其々の曲へのアプローチは京都テイクの場合ローズ・ピアノのイントロはあるが、大阪テイクはリハーサル、本番共ローズ・ピアノのイントロは無く、ギターのカッティングからの構成になっている。
また大阪のリハーサル・テイクではローズ・ピアノにエフェクトでワウワウをかけている。それに加え、大阪テイクではバッキングはローズ・ピアノで演奏しているが、2回の間奏部分ではアコースティックピアノでソロをとっている。アコースティックピアノでのソロはローズとは違い、アコピのダイナミズムを生かした演奏。このテイクも佐藤のソロとしては素晴らしい出来栄えになっている。

また鈴木茂の作曲能力も既にピークに達しているといってもおかしくない程、楽曲の良さが光っている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:佐藤博、鈴木茂など
  • アルバム:『1975 LIVE』
  • 推薦曲:「100ワットの恋人(京都テイク)」「100ワットの恋人(大阪リハーサルテイク)」「100ワットの恋人(大阪テイク)」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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