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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その202 ~ローズ・エレクトリックピアノを使ったJポップの名曲 パートⅠ~

2024-10-21

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ローズ・ピアノ特集は 前回 に続いて新局面に入ります。兵士たちの音楽セラピーを目的にした電気ピアノ、ローズはその音色と可搬性などから様々なジャンルの音楽に使わるようになり、現在に至ります。
鍵盤楽器として現在まで使われ続ける理由は、それなりの普遍性があったからに他なりません。ローズ・ピアノの良さはどんな音楽にもなじむ、親和性の高い音色を持っていたことが最大の理由であると私は考えています。
今回はそんなローズ・ピアノが使われているJポップにスポットをあて、ローズ・ピアノの使い手である松任谷正隆氏のプレイからその良さを探っていければと考えています。

進化の過程でローズ・ピアノはMIDI化されたが…

ローズ・ピアノは今日に至る過程で様々なモデルチェンジ、改良がおこなわれてきました。しかし本質であるその音や基本的な内部構造は変わることがありませんでした。
ローズ・ピアノはその進化の過程でMIDI化もされました。ジャズピアニストであるチック・コリアなどのミュージシャンにも使用されています。
MIDIはミュージカル・インストルメント・デジタル・インターフェイスの略で、MIDI化されたシンセサイザーなどの鍵盤楽器同士を、MIDIケーブルを使って親機(MIDI OUT)と子機(MIDI IN)とをつなげることで、親機側で弾いた音を子機側でも同時に発音することができる機能です。
しかし、シンセサイザー同士でのMIDIは活用されましたが、ローズ・ピアノのMIDI機能はあまり使われなかったという印象があります。やはりローズ・ピアノはローズ・ピアノ単体での音が好まれたのであって、ローズ・ピアノの音とシンセサイザーの音が混ざることでローズ・ピアノの良さが消されてしまうとういう面があったからなのではないかと私は想像しています。この辺りの話もローズ・ピアノの音の良さ、普遍性を垣間見ることができるエピソードなのではないでしょうか。

それではJポップに使われたローズ・ピアノを使った名曲をご紹介します。
前回のダイノ・マイ・ローズを受けてのJポップ楽曲です。

■ 推薦アルバム:松任谷由実『NO SIDE』(1984年)

1984年リリースの松任谷由実の快作。フュージョンシーンのファーストコール、ベーシストのルイス・ジョンソンが参加。楽曲「BLIZZARD」はそのダイナミックな演奏とドラマチックな展開は大きな話題となった。アルバムタイトルの「NO SIDE」はラグビーの試合終了を意味するものだが、これをテーマにした名曲も生まれた。
ローズ・ピアノの使い手である松任谷正隆氏の手腕が十分に生かされたアルバムで松原正樹(G)、高水健司(B)、林立夫(Dr)、斉藤ノブ(Per)といったJポップシーンのファーストコール達が顔を揃えている。

推薦曲:「NO SIDE」

ダイノ・マイ・ローズ・ピアノの素晴らしイントロから始まる名曲。前回でも書いたがこのイントロはセルジオ・メンデス(1983年作)の「愛をもう一度」からインスピレーションを受けた松任谷氏が考えたイントロだと私は確信している。キーボーディスト、ロビー・ブキャナンの弾くダイノ・マイ・ローズによるあのイントロは革新的だった。メロディ、ベースライン…などダイノ・マイ・ローズの良さが凝縮されている。
この「NO SIDE」は「愛をもう一度」程、煌びやかではない。それはテーマが異なるからだ。松任谷由実は珍しくアスリートの想いを客観的な目線で歌っている。そのテーマに寄り添うような松任谷正隆氏によるダイノ・マイ・ローズによるシンプルなイントロは松任谷氏のローズ・ピアノプレイの中でも出色のできであると思う。
これは余談だがダイノ・マイ・ローズ・ピアノは通常のローズ・ピアノに比べるとアタック音が強い。ベースラインも均一のキータッチで弾かないと同じ音にならない。通常のローズ・ピアノだと分かりにくいベース音がダイノ・マイ・ローズだとキータッチの違いが如実に音に出てしまう。「NO SIDE」を聴くとベース音に音の違いがあることが分かる。

■ 推薦アルバム:荒井由美 『14番目の月』(1976年)

1976年リリースの荒井由実4枚目のアルバム。大ヒットした「中央フリーウエイ」をはじめとしたユーミンの代表的ナンバーを収録。このアルバムから楽曲アレンジは全て松任谷正隆氏が担当している。参加ミュージシャンは鈴木茂(G)、松原正樹(G)、リーランド・スカラー(B)、齋藤ノブ(Per)、山下達郎、尾崎亜美、吉田美奈子、大貫妙子(cho)など、大御所達が顔を連ねている。

推薦曲:「中央フリーウエイ」

日本のポップシーンに燦然と輝くJポップの名曲。楽曲のムードを作っているのはローズ・ピアノだ。松任谷氏はローズ・ピアノの使い手だけあり、ローズ・ピアノの特性を生かした洗練された演奏をしている。メジャー7thコードに続く、分数コード、9thコードを駆使した冒頭のイントロはアレンジャー、松任谷正隆の腕の見せ所であり、彼の真骨頂と言える。端正なプレイスタイルは決して弾き過ぎず、楽曲途中で聴けるフィルインも松任谷氏らしい。この曲にはローズ・ピアノに付属されたトレモロがかかっていて、このトレモロサウンドもローズ・ピアノの特徴と言える。
アコースティックピアノでこの曲を演奏してもオリジナルとは全く違う曲になるだろう。
当時、ヒップだった若者達の1シーンの切り取り方はユーミンのセンスであり、そのシーンをより鮮やかにしたのがローズ・ピアノのサウンドでありテンションを含んだコードワークであろう。四畳半フォークとは対極にあるサウンドだ。当時、このような音を作り出すことができた若手ミュージシャン達の力量に舌を巻くばかりだ。
松任谷氏によるともっとハネたリズムにしたかったが、ドラマーのマイク・ベアードがハネることができずこういった形になったそうだ。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:松任谷正隆、松任谷由実、荒井由美、ロビー・ブキャナンなど
  • アルバム:『NO SIDE』『14番目の月』
  • 推薦曲:「NO SIDE」「中央フリーウエイ」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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