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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その203 ~ローズ・エレクトリックピアノを使ったJポップの名曲 佐藤博編~

2024-10-22

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ローズ・ピアノ特集は 前回 に続き、Jポップのフィールドでのローズ・ピアノの使い手を切り口にして展開します。当初はポップスやジャズのローズ・ピアノを使った名盤を取り上げようと思いましたが、あまりにも広大過ぎて収拾がつかなくなってしまいます。それよりもプレイヤーに特化し、話を進めた方が音楽のジャンルに沿った特徴、それに伴うローズ・ピアノの特性がより明らかになるのではないかと考えました。

ローズ・ピアノは、その「瓢箪から駒」的な生立ちから現在に至るまで、素晴らしい演奏が残されています。それを聴けることは今に生きる我々の僥倖ではないかと私は思っています。

日本のローズ・ピアノの代表プレイヤーは誰かと考えたとき、私はこの人しか考えられませんでした。その人の名は佐藤博です。

ローズ・ピアノの唯一無二のプレイヤー、佐藤博!!

日本人でローズ・ピアノの使い手ナンバーワンは佐藤博以外には考えられません。
佐藤博はローズ・ピアノにおけるJポップの名演奏を数多く残した鍵盤奏者で、山下達郎、吉田美奈子、細野晴臣など、国内のレジェンドと言われるミュージシャンのバックで素晴らしいプレイをしています。また佐藤本人も多くのソロアルバムを制作。中でも『awakening』はLinnDrum(リンドラム)を駆使した歴史に残る名盤として知られています。佐藤博のプレイスタイルはブルースをベースにしていますが、何故かブルースの土臭さはなく洗練された印象を受けます。それは佐藤博自身が持つ音楽性からくるものだと私は考えています。

私は1995年、「CDの国内版、輸入盤の価格差の謎」というTV番組のコーナー企画を制作した際、佐藤さんを取材する機会に恵まれました。物静かで人当たりの良い方で、ミュージシャンというイメージからは距離のある優しい方でした。
私は佐藤さんの弾くローズ・ピアノのイントロや楽曲の何気ない生ピアノのソロが好きだったのでその旨を伝えると、「人のアルバムだと、ああいう演奏ができるんだけど、自分のアルバムでは何故かできないんだよね。この間渋谷を歩いていた時に偶然、達郎(山下)に合って、同じようなことを言われたな~」なんてことを仰っていたのを昨日のことの様に思い出します。

■ 推薦アルバム:佐藤博『awakening』(1982年)

佐藤博は南佳孝のアルバム『Speak Low』のレコーディング直後に日本から飛び出し、LAでのセッション活動を開始。数年後に日本に戻り1982年にリリースした4枚目のソロアルバム。
当時の最新機材だった、リンドラムを大フューチャーして制作された。
『awakening』 は内外で高い評価を受け、Jポップ史上に残る大名盤とされている。リンドラムに打ち込みサウンドであるものの、それを感じさせないウエストコーストの風香るハイクオリティのサウンドになっている。
カナダ人女性ヴォーカリスト、ウェンディ・マシューズをフィーチャー。佐藤本人もヴォーカリストとして参加している。
このアルバムでもローズ・ピアノは大活躍している。

推薦曲:「I CAN'T WAIT」

カナダ人女性ヴォーカリスト、ウェンディ・マシューズと佐藤博のデュオ曲。
冒頭からローズ・ピアノが大活躍する。このイントロを聴くと佐藤博はローズ・ピアノの歌わせ方を良く分かっているミュージシャンであることが分かる。佐藤は初めてローズ・ピアノに出会った際に結婚相手と出会ったような感覚になったという。スローなメロディが響く、ローズ・ピアノの特性を味わえる名曲。

ローズ・ピアノの意外な特性

これまでに何度となく書いてきましたが、ローズ・ピアノの特徴はなんといってもその「音がイイこと」これに尽きます。しかし音の良さだけでなく、ローズの音はアンサンブルに溶ける音であり、特にアコースティックピアノとローズ・ピアノのアンサンブルにおいてはその特性が顕著です。お互いに補完しあい、ひき立つという音色は他の楽器では類を見ません。
そして佐藤博はローズ・ピアノとアコースティックピアノの組み合わせ方にも秀でた才能を見せています。以下、2枚のアルバムにその極みを聴くことができます。

■ 推薦アルバム:山下達郎『GO AHEAD!』(1978年)

1978年リリースの山下達郎の3rd.アルバム。メンバーはキーボード佐藤博、ベース細野晴臣、岡沢章、ギター松木恒秀、ドラム村上ポンタ秀一、上原ユカリなど。Jポップにおける当時ではベストのメンバーだ。これに山下達郎のサイドギターが加わり、生まれるグルーブはJポップ史上最高峰。残念ながらこのメンバーによる演奏はもう聴くことができない貴重な記録となってしまった。

推薦曲:「MONDAY BLUE」

ローズ・ピアノとアコースティックピアノがミックスされた時、えも言われぬ世界が出現する。この楽曲「MONDAY BLUE」でのアンサンブルを聴くとその意味を容易に理解することができる。
山下達郎によるとこの楽曲は村上ポンタ秀一、岡沢章、松木恒秀、佐藤博の一発録りで、その際ローズ・ピアノを演奏した佐藤博が、最後にアコースティックピアノを1人でダビングして完成させたという。佐藤博の頭の中にはローズとアコピの棲み分けが完全にできていたそう。
後半のローズ・ピアノの短いソロ、それを受けるように奏でるアコースティックピアノのソロはJポップ史上の残る名演奏であり、奇跡の瞬間だと断言できる。

■ 推薦アルバム:山下達郎 『RIDE ON TIME』(1980年)

1980年リリースの山下達郎の大ヒットアルバム。アルバムタイトル曲、「ライド・オン・タイム」はオリコン1位を獲得した。「いい音しか残れない」をコピーにカセットテープのCMにも自ら出演。この大ヒットで山下達郎の名は世に知れることとなった。新たなリズムセクションに青山純(ds)、伊藤広規(b)を迎え、セッションメンバーからオリジナルバンドメンバーへ転換。自分自身の音を獲得した山下達郎の活躍は留まるところを知らない状況となる。

推薦曲:「RAINY DAY」

佐藤博がロサンゼルスから帰国した時を狙ってレコーディングされた名曲。
この楽曲でもローズ・ピアノとアコースティックピアノの絶妙なアンサンブルを聴くことができる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:佐藤博、山下達郎など
  • アルバム:『awakening』『GO AHEAD!』『RIDE ON TIME』
  • 推薦曲:「I CAN'T WAIT」「MONDAY BLUE」「RAINY DAY」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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