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蠱惑の楽器たち 88.u-he Filterscape VA レビュー7 PWM、SYNC、RING、FM

2024-10-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

Filterscape VAはu-he社にしては珍しく標準的なアナログシンセの構成となっています。記事では主にアナログシンセ共通の部分を取り扱いますので、他シンセでも応用できる内容となっています。

u-he ( ユーヒー ) / Filterscape

PWM

PWMは、Pulse Width Modulation の略で、パルス幅変調です。 矩形波(パルス波)のデューティ比を使ったエネルギー制御で、モータ制御などにも使われている汎用的な技術です。 シンセでは初期のころから使われている古典的な機能となります。 オシロスコープで、その変化を観察すると下動画のようになっています。 矩形波の幅が常に変化し続けているのが確認できます。 実際には必ずしも動かす必要はなく、特定のデューティ比で使ったりします。

デューティ比は、次のような計算式で導きます。一般的に50%を矩形波と呼び、それ以外をパルス波と呼びます。倍音構成が変わるので、サウンドを聞いても違いが分かります。

下図の通り、50%の矩形波は奇数倍音で構成されていますが、パルス波になると偶数倍音も加わり、整数倍音となります。そのためサウンドも異なります。

Filterscape VAでPWMを実現する方法は少し変わっています。 通常のシンセでは矩形波のバリエーションとしてデューティ比があったり、無段階に調整できるようになっていますが、Filterscape VAでは、ノコギリ波を反転コピーし、位相操作でデューティ比をコントロールし、合成しています。 具体的な手順としては、OSCをV Analogのノコギリ波にして、INVを0にして矩形波とします。その上でPHASEを調整することでデューティ比を決定します。 下設定ではLFOでデューティ比を周期的に変化させています。

この設定で、単音を鳴らしています。サウンドの時間的変化が分かると思います。

SYNC(オシレータ・シンク)

次も古典的なシンセ機能のひとつであるオシレータ・シンクです。 これは2個のオシレータのピッチをシンクロさせる、つまり強制的にピッチを合わせる機能です。

下はFilterscape VAを使ったSYNCの方法です。 SYNCボタンをONにすることで機能します。 OSC2のTUNE(ピッチ)を上げて行っても、OSC1のピッチに強制的に合います。 下の波形を見ると分かりますが、強引にピッチを修正するために、かなりユニークな倍音が発生します。これがオシレータ・シンクを使う理由になります。 ピッチはOSC1に合わせに行きますが、ぴったりオクターブ違いのところだけ、きれいに波形が整うためピッチもオクターブ関係となり、音色も素直なノコギリ波となります。

下サンプルはOSC1をノコギリ波でA1(55Hz)とし、OSC2を同じくノコギリ波でA1(55Hz)からA3(220Hz)までピッチを上げ行ったときの音です。

RING MOD(リング変調)

リング変調はアナログシンセ全盛期からある古典的な変調方法で、能動的な倍音を与えたいときに使われてきました。 原理的には2つの信号を掛けることで、和と差の周波数を出力することができます。 入力信号に高次倍音が多く含まれるほど音程感があいまいになり、金属的な音になっていきます。

例えばOSC1がA4の440Hzのサイン波を出して、OSC2がE5の659Hzのサイン波を出す場合は以下のような計算になります。ポイントは、元々の440Hzと659Hzが消失しているところにあります。 OSC1とOSC2の周波数を入れ替えても、結果は同じになります。結果的に和と差でありますが、やっていることは掛け算なので、入れ替えても同じになります。

440+659=1099Hz
659-440=219Hz

上記の周波数をOSC1、OSC2に設定し、RING MODを上げた状態です。 スペクトルアナライザで見ると以下のようになります。

初期のアナログシンセで金属的な音を作る際に、リング変調はよく使われていました。 簡単な金属的な音のするサンプルを作ってみました。

FM

Filterscape VAには簡易的ですが、OSC2がキャリア、OSC1がモジュレータという2オペレータのFM合成が可能になっています。 FMシンセサイズは、ヤマハのDX7が有名ですが、それ以前のアナログシンセでは同じような変調方法のことをクロスモジュレーションという言い方がされていました。DX7のような6個のオペレータを使った複雑な変調ではないものの、原理自体は同じと言えます。ただFMはデジタルなので、折り返しが欠点でもあり、特徴でもあります。一方アナログシンセは折り返しが起きません。 u-heではデジタル的に折り返すものをFMと呼び、アナログ的に折り返さないものをクロスモジュレーションと呼んでいます。

Filterscape VAはFMなので、スペクトルアナライザで観察すると折り返しているのが確認できます。 OSC2をsineにして、OSC1をノコギリなどにすると、よく分かります。 ただ、強く変調が掛けられないようなっていて、使いやすい範囲でまとめています。おとなしいFMという感じです。

FMと言えばFMピアノが有名です。無理やりですがFilterscape VAで作ってみました。

次回はFilterscape VAの最大の特長であるEQの解説をしたいと思います。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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