私の参加しているバンド、「9BOX」は電気のジャズを演奏しているバンドです。そこに突然、17歳の高校生女子が参加することになり、女子がやりたいという曲、6曲をコピーして1か月後にライブをすることになりました。コード譜面を見て演奏するだけならば、できないことはない話です。しかし来場いただいたお客様には申し訳ない気持ちが残ります。
こなれた形で演奏するのは我々アマチュアにとってそれなりの時間が必要になるからです。
そこで我々がこれまでに演奏してきた曲で歌詞が付いている楽曲をやろうということになりました。そうすれば我々が10年以上やってきたスキルも生かされ、ライブでもなんとかなるというお話です。
選曲の候補に挙がったのがチック・コリアの「スペイン」、ジョー・ヘンダーソンの「ブルー・ボッサ」、マリーナ・ショウの「フィール・ライク・メイキン・ラブ」などでした。
最初に演奏するのは「ブルー・ボッサ」がいいだろうということになり、歌詞が付いている「ブルー・ボッサ」を探しました。
Apple Musicで「ブルー・ボッサ」を検索すると、あるはあるは……その数に驚愕しました。
デクスター・ゴードン、マッコイ・タイナー、パット、マルティノ、チェット・ベイカー、ミッシェル・カミロ、アート・ファーマー、アート・ペッパー、小曾根真、南佳孝、穐吉敏子さんまで…なんとその数、50曲。人気度は私の想像を超えていました。
「ブルー・ボッサ」それだけはミュージシャンの心を掴んだ名曲だと認識しました。
「ブルー・ボッサ」の源泉は1960年代初期にジョー・ヘンダーソンと彼のジャズ指南役、ケニー・ドーハムとの邂逅に端を発します。
■ 推薦アルバム:『ページ・ワン』 ジョー・ヘンダーソン(1953年)

1963年リリースのジョー・ヘンダーソンの歴史的名盤。ジョー・ヘンダーソンは1937年生まれの米国人でテナーサックス奏者。
トランペット奏者であるケニー・ドーハムが作曲した「ブルー・ボッサ」を友人のジョー・ヘンダーソンにプレゼントしたというのは有名な話。もちろん、このアルバムには「ブルー・ボッサ」を提供したトランペット奏者、ケニー・ドーハム自身も参加している。名盤『ページ・ワン』は「ブルー・ボッサ」がクレジットされたアルバムとして有名になった。
ジョー・ヘンダーソンは折に触れ、この「ブルー・ボッサ」を演奏し、レコーディングされたトラックを多く残している。日本人ハモンドオルガン奏者、KANKAWAは自身のアルバムでもジョー・ヘンダーソンを招き、「ブルー・ボッサ」をレコーディング。それ以外のKANKAWAのアルバムにも「ブルー・ボッサ」はクレジットされている。
そしてこの『ページ・ワン』にはピアニストのマイッコイ・タイナーが参加。独特なアプローチによる演奏を展開している。
推薦曲:「ブルー・ボッサ」
ジャズの大スタンダードナンバー。哀愁を帯びたサウダージメロディがこの楽曲の最大の魅力であり、それが多くのミュージシャンから愛される所以だろう。楽曲自体もそれほど難しくないため、セッション曲としてもよく取り上げられている。アドリブは転調したBメロ部分からの展開が演奏者の腕の見せ所となる。
ジョー・ヘンダーソンは4ビートジャズであるハードパップをベースにしたサックス奏者。一方でファンキージャズのピアニストであるホレス・シルバとも名盤『ソンフ・フォー・マイ・ファーザー』で共演していることから、ハード・バップに捕らわれることない広い音楽性を身に付けたのではないかと推察される。実際に「ブルー・ボッサ」はその名の通り、4ビートのジャズではないし、テーマとなるメロディーもボサノバやラテン的側面がある。
ジョー・ヘンダーソンのソロは抑制されたメロディアスで味わい深いものとなっている。ピアニストのマッコイ・タイナーのソロは点画的なマッコイお得意なフレーズ。ジョン・コルトレーンの名盤『バラード』の「セイ・イッツ」でも同様のフレーズを聴くことができる。
■ 推薦アルバム:『ブルー・ボッサ』アデラ・ダルト(2010年)

アデラ・ダルトは米国人の歌手であり、作曲家。ジョージ・ベンソンのバンドに在籍していたキーボード奏者、ホルヘ・ダルトの妻である。
アデラ・ダルトのアルバムは冒頭曲「ブルー・フォー・ユー」で幕を開ける。「ブルー・ボッサ」のタイトルを変更し、歌詞をつけ「ブルー・フォー・ユー」とタイトルは変更されている。ラテン系のテイストの濃い。今の季節に聴くのに丁度よいアルバムだ。
推薦曲:「ブルー・フォー・ユー」
流暢なガットギターに導かれアデラ・ダルトの「ブルー・ボッサ」がスタートする。スキャットを交えて歌う軽やかな彼女の歌唱はジャズの名曲を歌っているというよりも何か別のポップスを歌っているという感覚に陥るほど。元々「ブルー・ボッサ」はラテンフレイバーの強い曲でオリジナルにはブラジル特有の「サウダージ」(哀愁)を感じるが、この「ブルー・フォー・ユー」はどこかあっけらかんとしていて「ブルー・ボッサ」から感じる「サウダージ」というよりも爽やかさを強く感じる。
ピアノのソロもアコースティックピアノではなく、ヤマハDX7系のFM音源が使われていて軽やか。一方、アドリブ内容はジャズのメソッドに従ったアプローチがとられている。この辺りは手法はジャズであるものの、ポップスに近い印象受ける。
我々のバンドで歌う女子高生の楽曲はこのアデラ・ダルトのバージョンに決定。
「ブルー・ボッサ」の歌詞バージョンは複数あったが、この楽曲はまだリリースされてから日も浅く、演奏もジャズ・スタンダードっぽくなくポップス的なアレンジがされているので聴いているお客さんも抵抗感は少ないだろうと判断した。
■ 推薦アルバム:『スペイン』ボビー・マクファーリン&チック・コリア(2013年)

ブルーノートなどのレコードレーベル周年企画で制作されたボビー・マクファーリンとチック・コリアによるデュオアルバム。両者の掛け合いが素晴らしく、これこそがジャズの新しい本質かとも感じる名盤。
推薦曲:「ブルー・ボッサ」
ボビー・マクファーリンの胸を叩きながら発する独特のボイスがベース音となり、楽曲が展開する。それに呼応してチック・コリアのピアノが歌い出す。歌詞はなく、スキャットのみだが、ボビーによるスキャットの破壊力に言葉を失う。2人のデュオからは音楽の素晴らしさを感じることができる。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ジョー・ヘンダーソン、ボビー・マクファーリン、アレサ・ダルト、マッコイ・タイナー、チック・コリアなど
- アルバム:『ページ・ワン』『スペイン』『ブルー・ボッサ』
- 推薦曲:「ブルー・ボッサ」「ブルー・フォー・ユー」
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