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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その179 ~ジャズの名曲を彩ったフェンダーローズエレクトリック・ピアノの名盤!~

2024-05-22

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

前回の楽曲「スペイン」繋がりで、今回はアル・ジャロウに白羽の矢を立てました。
アル・ジャロウは卓越したパーカッシブなボーカル唱法を駆使し、米国のジャズ、ポップシーンにまで、その領域を広げたボーカリストです。80年代にはジャンルにこだわらないボーダレスな活躍でジャズ、ポップ、R&Bの3部門でグラミーを獲得しています。しかし今回のテーマはアル・ジャロウではなく、エレクトリック・ピアノをテーマにした名盤です。
表題はアル・ジャロウではありますが、今回の主役はラリー・ウィリアムズというキーボーディストです。
ラリー・ウィリアムズはハワイのジャズ・フュージョンバンド「シーウィンド」でシーウインド・ホーンセクションとして一世を風靡したホーンプレイヤーであり、キーボードプレイヤー。80年代にはシーウィンド・ホーンセクションは引く手あまたのミュージシャン達でした。ジェリー・ヘイ(tp)をリーダーとするホーンセクションはテクニカルでキレのいいブラスサウンドで80年代を彩り、多くのアーティストからファーストコールの称号を与えられていました。
ラリー・ウィリアムズの特性はホーンプレイヤーだけではなく、キーボードプレイヤーとしても非常に優秀なミュージシャンであることです。そしてその腕前は今回取り上げたアル・ジャロウの名盤『THIS TIME』でも聴くことができます。

■ 推薦アルバム:アル・ジャロウ『THIS TIME』(1980年)

天才ボーカリストと言われたアル・ジャロウの1980年にリリースされたアル4枚目の大傑作アルバム。
LAのバンド、エアプレイの売れっ子ギタリストであるジェイ・グレイドンをプロデューサーに迎え制作された。アルバムはエアプレイ人脈特有の緻密なサウンドにアル・ジャロウの圧倒的なボーカルが合体。大ヒットアルバムとなった。
このアルバムの話題をさらったのはチック・コリアの名曲である「スペイン」のボーカルバージョンだ。誰もあの早いフレーズにボーカルが乗るとは思っていなかったはずだ。そういう意味では早いパッセージの難曲をアルに歌わせようと考えたプロデューサー、ジェイ・グレイドンの発想に感服してしまう。しかもそれを歌うことができるのはパーカッシブなボーカルを得意とするアル・ジャロウしかない…。まさにプロデュース力の勝利だ。
これまでジャズの名曲には様々な形で歌詞を付けたボーカルバージョンが録音されてきたが、スペインに歌詞を付けるのはまさかのチャレンジ。しかしアルの歌唱を聴いて思わず納得してしまった。あの早いパッセージに乗る歌詞を見事に歌いこなしていたからだ。まさにこの辺りが天才ボーカリスト、アル・ジャロウの真骨頂と言えるだろう。

1981年、23回目のグラミー賞でアルバム1曲目の「ネバー・ギヴィン・アップ」が最優秀男性R&Bボーカル・パフォーマンス賞にノミネートされるが、残念ながらジョージ・ベンソンの「ギブ・ミー・ザ・ナイト」にさらわれてしまった。
アル・ジャロウのアルバムで初めてアルバム・チャートでビルボードのトップ40、R&Bチャートのトップ10に入りし、ジャズ・チャートでは首位も獲得した。アル・ジャロウにとっての出世作となった。
このアルバムでは多くのキーボードプレイヤーが鍵盤楽器を弾いている。アコースティック・ピアノはグレッグ・マティソンなど2名。シンセサイザーはマイケル・オマーティアン、スティーブ・ジョージなど3名。エレクトリック・ピアノはこのアルバムのプロデューサーであるジェイ・グレイドンとエアプレイのユニットを組んだデビッド・フォスター、これまでのアルのアルバムで中心的にキーボードを担当したトム・カニング、フランク・ザッパバンドでキーボードを担当したジョージ・デューク、そしてラリー・ウィリアムズだ。錚々たるメンバーが顔を連ね、アルバムに花を添えた。

推薦曲:「スペイン」

アンサンブルの中心はラリー・ウィリアムズのフェンダーローズエレクリック・ピアノとスティーブ・ガットのドラム、エイブ・ラボリエルのベースのトリオ演奏だ。この3人によるグルーブしまくる演奏に尽きると言ってもいいだろう。
冒頭のコードを弾いたところからフェンダーローズの音がこれまでにないクリアーでエッジの効いた音になっていることに気付く。このローズピアノの音にアルのパーカッシブで滑らかなボーカルが乗ればもう最強というしかない。おそらくスペインというパッセージの細かなメロディを際立たせるには、まろやかな音よりもエッジを効かせたローズの音が必要だったのだろうと想像する。
中間部にはアルによるスキャットのアドリブがあるが、その裏でのローズのバッキングが素晴らしく、ラリー・ウィリアムズの実力の一端を知ることができる。
またラリーの弾くミニモーグのシンセサイザーソロも歴史に残る名演だと記しておく。
この「スペイン」でのスティーブ・ガットによるドラミングの評価も高く、多くの評論家からはガットきっての名演とされている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:アル・ジャロウ、ラリー・ウィリアムズ、ジェイ・グレイドン、デビッド・フォスター、トム・カニングなど
  • アルバム:『ジス・タイム』
  • 推薦曲:「スペイン」「ネバー・ギヴィン・アップ」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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