ヤン・ハマーのギターライクな音を手持ちシンセサイザーで再現できるか?
シンセサイザーでギターを弾かせたら(おかしな表現です!)ナンバーワンと言われるキーボードプレイヤー、ヤン・ハマーの音を1台のシンセサイザーで再現させる。それもヤン・ハマーが使用しているミニモーグ・シンセサイザーとは違った機材で…という無謀な試みにトライする「鍵盤狂漂流記その159(リンク)」の続編です。
ヤン・ハマーと言えばジェフ・ベックとの共演で世界に名を馳せたキーボーディストです。ハマーの得意技はシンセザイザーのピッチベンド・ホイールという音程を上下させるコントローラーを巧みに使い(写真参照)鍵盤楽器でギターそっくりな音を出す技です。大概のシンセサイザーには様々な形状のピッチベンド・ホイールとモジュレーション・ホイールが付いていますが、当時ハマーのようなギターそっくりの音を出すプレイヤーはいませんでした。
< 半円状のピッチベンド・ホイール(左側)とモジュレーション・ホイール(右側) >
左側のホイールを上にあげるとピッチが上昇し、下げると下降する。
モジュレーション・ホイールは上げると変調が強くなる。
ヤン・ハマーの共演ギタリストはジェフ・ベック以外でも、マハビシュヌ・オーケストラのジョン・マフラグリン、アル・ディメオラ、ジョン・アバークロムビー、ニール・ショーン。日本人ギタリストでは増尾好秋さんともアルバム『フィンガー・ダンシング』で共演しています。
それ以外の活動では『特捜刑事マイアミ・バイス』のサウンドトラックを制作。ビルボードで1位を獲得し、グラミー賞も受賞しているという偉大な作曲家です。
シミュレートするシンセサイザーはシーケンシャルのTAKE 5
私が所有しているシンセサイザーで一番音が太いのはシーケンシャル社のTAKE 5です。複数のシンセサイザーをMIDIでつなげば音は太くなりますが、バンドの練習で複数台のシンセを運ぶのは無理ですし、音のニュアンスが替わってしまうので使用機材はTAKE 5以外には考えられませんでした。
このシンセサイザーはミニモーグと同様のアナログシンセです。ギターに似た音を出すにはどうすればいいかをパネル上でイメージしやすい特徴があります。
価格の割にシーケンシャル直系のイイ音がするシンセサイザーだと私は考えています。
SEQUENTIAL(Dave Smith Instruments) ( シーケンシャル ) / Take 5
ヤン・ハマーのギターシミュレート音には諸説あり!
シンセサイザーでハマーが出すギター音はジェフ・ベックのアルバムだけでも数種類あります。
ミニモーグを2台重ねているとか、オーバーハイム・シンセサイザーのSEMモジュール音を重ねているとか様々な見立てがあります。そこにフランジャーやテープエコーなどのエフェクターをかけてギターに似た音を出しています。しかし本当のところは分かりません。
また80年代にはサンプリング技術が発達してギター音をサンプリングしてトーターという肩掛け型のキーボードコントローラーでギターの音を出しています。私はこのハマーの音はあまり好きではありません。何故ならサンプリングによるギター音はまさにギターの音そのままなのでシンセサイザーで合成する音とは異なります。
アナログシンセサイザーで出るはずもなかった(と思われていた!)ギター音をシンセでシミュレートした面白さがハマーの真骨頂だったはずなのにギター音をそのままサンプリングして演奏しても面白味は感じません。現在のサンプリング技術をベースにしたギター音は沢山のサンプリングシンセサイザーに入っているので、それはそれで今回のお話とは分けて考えてもらえればと思います。
シミュレートするヤン・ハマーの音は…
今回、ハマーの音をシミュレートするにあたり、参考にするアルバムはずばり、ジェフ・ベックの『ワイアード』とライブアルバム『ライブ・ワイアー』です。
『ワイアード』/ジェフ・ベック
『ライブ・ワイアー』/ジェフ・ベック
TAKE 5 VCOの設定からADAR設定へ
アナログシンセサイザーで音作りをする際に最初の設定はVCOで音の波形を決めることです。ギターの音と対峙するため、シンセの音も波形の中では一番鋭いノコギリ波を選択します。
TAKE 5にはVCOは2つあり、音を厚くするために2つ目のVCOもノコギリ波に設定します。
TAKE 5のオシレーター波形はサイン波からノコギリ波、矩形波と分けて設定されるのではなく、サイン波とノコギリ波の中間波形も設定できるバリアブルな構造になっているため音作りは無限です。オクターブ(ピッチ)はそれぞれプラス1(4フィート)に設定します。ピッチはVCO1とVCO2とも0で全く同様のピッチにします(写真参照)。
< TAKE5のオシレーター(VCO)部 >
エンベロープ・ジェネレーター(ADSR)の設定
次はエンベロープ・ジェネレーターの設定です。信号の流れからすればVCF(ボルテージ・コントロールド・フィルター)かと思われますが、今回はギター音色のシミュレートです。ギターの特徴である弦を弾いて音が出て、出音が持続せずに直ぐに消えるという特徴を模すためにADSRを先に設定します。その後にVCFをいじった方がギター音が作りやすためです。
ADSRは音の立ち上がりと減衰を設定する機能を持ちます。Aはアタック、Dはディケイ、Sはサスティン、Rはリリースの略で4つ合わせてADSRです。エンベロープ・ジェネレーターとも言われます。
ADSRの設定は指やピックで弾いたギター音はタイムラグなしですぐに発音ることから、アタックタイムは0、ディケイタイムも0、出音から音が伸びる時間が少しあるのでサスティンタイムは3と4の中間、リリースタイムは音が出てから延びることが無いので0に設定します。
この状況で音を出すとプツプツとした音が出ます。これでギターの音の立ち上がりと減衰が設定されました(写真参照)。
しかしこれだけではギターに音になりません。
TAKE5のADSRにはVCFを制御するADSRが存在します。このVCFのADSRの設定によりフィルター(VCF)の動作が変化します。このVCF側にかかるADSRの設定がギター音の音作りに関わってきます。
< エンベロープ・ジェネレーター(ADSR) >
次回はシンセサイザーのギター音作りで重要になるVCFの設定は…
この後に最も重要である音色に関わる設定です。長くなるのでそれは次回に…。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ヤン・ハマー、ジェフ・ベック
- アルバム:『ワイアード』『ライブ・ワイアー』
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