■ 道半ばの理想的シンセサイザークロニクル(年代記)
シーケンシャルのTAKE5は理想的シンセサイザーか?のパートⅡです。
前回は私が購入したシンセサイザーの理想形を「音質」「価格」「重量」などの面から検証をし、単音しか出ないアナログシンセサイザー誕生当時の音楽を交えて記しました。
1978年にシーケンシャル・サーキット、プロフィット5のリリースで、5音ポリの和音が出せるようになりました。更に作った音も40種類メモリー可能になりました。これらは大きな進歩でしたが、プロフィット5の価格は当時、170万円!、コンパクトになったものの重量的には今一つでした。
170万円のシンセサイザーはアマチュアには手が出せません。車が買えてしまいます。そういう意味では、この手の楽器はまだまだ発展途上だったといえます。テクノロジーを背景にした楽器なので仕方ありませんが、プロフィット5クラスの楽器をアマチュアが購入するには、更に40年以上の時間が必要でした。

シーケンシャル・サーキット プロフィット5
■ 2021年11月にエポックが!
これまで音が良くて5音ポリ以上で、価格が20万円台で、重さも軽く標準鍵盤で、場所もとらない…これだけ多くの私的条件を満たすシンセサイザーは存在していませんでした。
しかし、2021年の終盤に素敵なニュースが飛び込んできました。シーケンシャルが理想形シンセサイザーをリリースするというのです。私は一日千秋の思いで発売を待ちました。
シーケンシャルから発売されたシンセサイザーはTAKE5。スペックは5音ポリ、重量は7.7㌔、標準鍵盤で44鍵ですから場所もとりません。価格は23万6600円。肝心の音質はシーケンシャルですので折り紙付きだと思われます。まさに私が待っていたシンセサイザーのスペックです。私がシンセサイザーを始めたのが1977年…。40年以上の時間が流れていました。私は直ぐにサウンドハウスさんからTAKE5を購入しました。
シーケンシャル TAKE 5 (236,600円)
■ シンセサイザーの一番大切な要素は音です!
シンセサイザーとしての楽器本来の意味…それは音楽が絵画だとした場合、シンセサイザーは絵具でありパレットです。
シンセサイザーは音楽に色を付けるための楽器なのです。どんな色を付けるかは使用する楽器により異なります。乱暴ではありますが、高価な楽器はいい音が出て、そうでない楽器はそれなりの音になります。
勿論、安価な楽器でもいい音楽は作れますが、ギタリストがギブソンやフェンダー、ポールリードスミスを使うのにはそれなりの理由があります。
シンセサイザーも例外ではありません。むしろ、シンセサイザーの方が高価なものほどいい音が出る傾向が強くなります。それはコンデンサーやDAコンバーターなど、高価な部品ほど音質に影響するためです。
■ 鍵盤狂購入シンセで歴代ナンバーワンは…
私がこれまで購入したシンセサイザーのベストはオーバーハイムのXpanderでした。
何が良かったかと言えば、シンプルに「音」。音に厚みがあり、粘りと存在感は抜群でした。特にブラスの音は圧倒的でした。ファクトリープリセットの「TOTOブラス」はある種ブラスサウンドの理想的な音でした。ストリングスの音も太く存在感がありました。パッドの音も他の楽器を包み込むような柔らかく滲むような音が出ました。国内のポリシンセにはない独特な厚みがありました。
1つ難点は…鍵盤が付いていない事でした。シンセサイザーに鍵盤が付いていないということは、演奏する装置が無いということです。私の場合、XpanderにMIDIケーブルでローランドのD=50(デジタルシンセ)に繋げて音を出していました。
Xpanderは単なる音源ですから楽器に対する愛着度が鍵盤付きシンセサイザーとは何故か違うのです。バンドで練習する際はヤマハDX7ⅡとローランドD-50に加えXpanderを持ってスタジオに入りました。3台となれば結構な機材量ですからセッティングにも時間が掛かりました。しかし、音的には私の理想形でした。
Xpander2台分で鍵盤付きのマトリックス12という上位機種もありましたが、金額は約100万円と高価で、大きく、重かったことから購入は諦めました。今も、山下達郎さんやユニコーンのABEDONさんなど、愛好家は多くいらっしゃいます。

オーバーハイムXpander(6音ポリフォニック)
■ TAKE5の音はどうか?
さて、肝心のTAKE5 の音です。私はこれまでシーケンシャルの楽器を手にしたことはありませんでした。プロフィット5の音はプロのライブやCDで沢山聴いていた筈ですが、実際にはよく分かりませんでした。
音を出してみると素晴らしい音でした。オーバーハイムに比べ、音の厚みは今一歩ではありますが、オーバーハイムとはまた違った音質で、音に粘りがあり、存在感もあり、厚みも十分でした。
44鍵の鍵盤付きですから楽器としての親近感もXapnderより上です。Xapnderやプロフィット5にはないエフェクターまで内蔵しています。選択条件として十分にXpanderを超えています。モジュレーションホイールとピッチベンドホイールは鍵盤の上に付いているため、シンセ自体の幅も大きくありません。当然、安価なシンセサイザーのACアダプターによる電源供給でもありません。シンセパネル上にあるツマミで簡単に音が作れ、デジタルシンセにありがちな階層深くまでパラメータをさかのぼる必要もありません。
オーバーハイム的なブラス音やストリングス、パット音も簡単にプログラム可能です。
最大の満足ポイントは「音質」!これに尽きます。私は40数年越しで、理想的シンセサイザーに辿り着くことができました(^^)V
極私的なシンセサイザー評価記事ではありますが、TAKE5はアナログシンセサイサーの1つの到達点であると私は考えています。TAKE5は自信を持って皆さんに推薦できるシンセサイザーです。
TAKE5を使い込んで音作りのノウハウが構築されましたらまた、リポートを記したいと思います。
シーケンシャル TAKE 5
※価格は2022年4月現在のもの
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