NEUMANNは1928年にベルリンで創業したマイクメーカー。数々のレコーディング定番マイクをリリースし、プロフェッショナルの定番で居続けるだけでなく、自宅録音ユーザーからは憧れのマイクブランドとして定着しています。
どのマイクもなかなかのお値段なので導入には勇気が必要ですが、その中にあってNEUMANNとしては低価格なマイクがTLM 102です。NEUMANNのラインナップの中ではおそらく唯一、自宅録音をメインターゲットに開発されているマイクです。
NEUMANN ( ノイマン ) / TLM102 NICKEL コンデンサーマイク
ボーカル録音はもちろん、自宅でのナレーション録音には決定版とも言えるマイクなので、スペックや音質、使用感を紹介していきます。
2022年10月現在、TLM 102 LESPという型番の数量限定版が販売されています。TLM 102 LESPはTLM 102マイク本体と専用サスペンションEA 4、NEUMANNポーチがセットとなっていますが価格が据え置きとなっており、大変お得です。数量限定となっていますので、ご希望の方はお早めにご購入ください。
ミニチュアを思わせるコンパクトな筐体が持つ低ノイズ性能

<マイクホルダーと比較すると小ささがわかる>
パッケージを開けるとそのサイズに驚いてしまいます。写真で見ているとあまり感じないのですが、TLM 102は驚くほどにコンパクトなのです。

<左がTLM 103 / 右がTLM 102>
全長はなんと116mm、外径は52mmしかありません。NEUMANNの中でも比較的コンパクトなTLM 103というマイクがありますが、さらに小さいマイクです。(TLM 103は全長132mm、外径60mmです)

<小さいが中身も筐体も「詰まっている」印象>
コンパクトだからといって内部回路や構造、強度に妥協は見られません。
サイズが小さいので重さも約210gと軽めではありますが、手にとって見るとずっしりとした「鉄」の質量を感じます。それもそのはず、スペックを見てみると上位機種に匹敵する高いパフォーマンスを誇っています。
特筆すべきはノイズ性能で、等価ノイズレベルは12dB-Aに抑えられており、この数値は世界の定番マイクU 87 Aiと同じ数値です。等価ノイズレベルとは機器が持つノイズの大きさを示しており、15dB-A以下に抑えられていれば優秀と言われています。小さい声を録音する、声だけで聞くというシチュエーションでは、マイクを含めた録音機器のノイズが際立ってしまいます。肝心なところでノイズが聞こえて、耳の注意を奪ってしまうのです。
ボーカルレコーディングはもちろんですが、YouTuberやVTuberのナレーション録音でもノイズ性能は非常に重要です。むしろボーカルレコーディングよりも厳しく考える必要があるかもしれません。ノイズが少ない高品位な音を用意することで、より視聴者をひきつけることができるでしょう。
ワイドレンジかつ歪み感の少ない音質
実際にボーカルとナレーションについて録音してみました。
ボーカルのレコーディングでは、低域からは想像できないワイドかつクリアな低域に驚かされます。筐体がコンパクトなのでなんとなく軽めの音を想像してしまいますが、コンパクトでもきっちりNEUMANNの音がします。低域に関してはU 87 Ai等の定番マイクよりもさらにパワーのある低域を感じます。きっちりとボーカルの低音が感じられるだけでなく、歪み感が少なくまとまりがあって押しのある低域です。

<TLMはトランスレス・マイクのことだろう>
TLM 102はその名称にも示される通りトランスレス・マイクです。トランスレスというのはマイクの内部回路の構造のことで、マイク内部で増幅に使用されるトランスというパーツが存在しないことを意味します。トランスレス構造の場合は歪みの少ない豊かな低域が得られるとされており、TLM 102もトランスレス構造の恩恵を受けていると言えそうです。

<ナレーションにはうってつけのマイクだ>
もちろんナレーションでも低域のクリアさは際立っており、特に低域に魅力のある男性の声はかっこよく収録できます。低く小さな声で喋ってもノイズに埋もれず、魅力的な低域をきっちり聞き取ることができます。
一方で高域の特性にも特徴があり、ひとことで言えばイコライザーで加工せずともいい音に聞こえます。
おそらく、5kHz以上の帯域がわずかにブーストされたTLM 102の周波数特性によるものです。上位マイクも特性は調整されているのですが、やや異なる特性に調整されているのが興味深いです。

<TLM 102の周波数特性>
エンジニアがマイクを使う場合は適切に補正をして使いますが、自宅録音ではそうもいきません。特にナレーション録音や配信用途では、録ってそのまま使うという方も少なくないでしょう。TLM 102は録ってそのままでも良い声になるようにチューニングされているのです。
エンジニアは余計な調整だと感じるかもしれませんが、ナレーション録音や配信で使用する宅録ユーザーにはとてもありがたい調整でしょう。「ナレ録り向けイコライジング済マイク」のような印象でした。
内蔵ポップスクリーンの利便性
最後に内蔵ポップスクリーンを紹介しておきましょう。
TLM 102はなんとポップスクリーンを内蔵しています。マイクを覗いても中のダイヤフラムが見えないのはポップスクリーンがあるためです。
実際に外付けのポップスクリーン無しで使ってみたところ、ナレーションの録音では内蔵ポップスクリーンのみで吹かれノイズを防止できました。マイクを設置してケーブルを接続すればすぐ使えるので、セッティングが楽です。また、マイクも小型なのでオンラインレッスンや配信など、顔がよく見えた方が良いシチュエーションでも有効です。
ボーカル録音の場合もほとんどの吹かれノイズは防止できますが、一部声が大きい方、空気が多い方の場合は、至近距離においては吹かれが発生します。必要に応じて小型のポップスクリーンを追加で使うと良いでしょう。

<TLM 102用のEA 4サスペンション>
なお、サスペンションはEA 1またはEA 4が使用できます。ただし、ポップスクリーンが内蔵されているTLM 102においては、前面が開放されたEA 4サスペンションが指定されています。
TLM 102を紹介してきましたがいかがだったでしょうか。
まとめると、自宅で声を録る用途に特化されたマイクだと言えます。NEUMANNのマイクは使う人を選ぶ印象がありますが、TLM 102だけは例外と言えそうです。自宅でポンと置いていきなり録音、良い音が録れる。そんな印象のマイクです。用途が絞り込まれているため、スタジオでエンジニアが導入するマイクとしてはやや不満があるかもしれません。しかしYouTuber、VTuber、声優、歌い手など、自宅で声を自分で録りたい方にとっては最適なマイクとなるでしょう。ぜひTLM 102でマイクによってクリアでリアルな音が録れる楽しさを感じていただければと思います。
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