KH 80 DSP / KH 750 DSPが話題のNEUMANNより、新しい開放型ヘッドホンNDH 30がリリースされました。
NEUMANNからは2019年にNDH 20という密閉型ヘッドホンが発売されており、リファレンスヘッドホンとして好評を得ています。NDH 20、そしてKHモニタースピーカーに続くモニタリングデバイス、しかも開放型のヘッドホンということで大変興味深い製品です。
使う機会を頂きましたので、筆者が使用しているNDH 20と比較しつつレビューしていきたいと思います。

<NDH 30>
NEUMANN ( ノイマン ) / NDH30 開放型モニターヘッドホン
業務用でありながらも高級感のあるパッケージング

<しっかりとしたパッケージ>
業務用製品としては比較的手に入れやすい価格帯とも言えますが、安価とは言い難い価格帯ですから、音はもちろん製品の仕上がりも気になるところ。まずはパッケージ、そして全体の質感や仕上がりをチェックしてみたいと思います。
パッケージは紙製ではあるもののしっかりとしたパッケージで、開けてみるとNDH 30が綺麗に収まっています。オーディオ系のハイエンドヘッドホンではアタッシュケースのようなパッケージも見られますが、そこまで重厚なものではないものの、価格的には納得感のあるパッケージ。保管、運搬の必要がある場合もそのまま使えそうです。

<ヘッドホン側は4極プラグになっている>
パッケージの蓋部分に専用のケーブルとポーチが収納されています。
ケーブルは一般的なヘッドホンのケーブルではなく、さらにはNDH 20とも異なっており、NDH 30のために専用設計されたケーブルとなっています。ケーブル内部では左右チャンネルのグランドが完全に分離しており、NDH 30のセールスポイントである高精度なステレオイメージや解像度の高い音に貢献しているようです。左右チャンネルのグランドを分離しつつもNDH 30と機器の接続は通常のステレオフォンプラグですから、接続する機器を選ばないのが利点と言えるでしょう。

<堅牢なヘッドバンド部>
ヘッドバンド部はNDH 20と同様の仕上がりで、鉄製のパーツを中心に設計されており、壊れにくい印象を受けます。NDH 20は長く使用していますが、ヘッドバンド部に問題が発生したことはありません。NDH 30も同様の耐久性が期待できそうです。
また、各部がネジ留めであるためメンテナンス性が高く、長く使用していくことができそうです。参考までに、見えるネジは一般的なプラスネジではなく特殊なネジが使われており高級感があります。こういった細部のこだわりはとても好感が持てます。
なお、NDH 30の重量はケーブルを除き352gとのこと。これはNDH 20より10%程度軽量化されていることになるため、長時間使用時の負荷軽減に貢献するでしょう。
正確な判断を助ける誇張のない自然なサウンド
続いては色々な音源を聴いてみました。Webサイト上では「高解像度のステレオパノラマと正確な定位感」が主張されており、実際にどのような音なのか、また、NDH 20やKH 80 DSPなどのスピーカーとどのような違いがあるのか気になるところです。
そのサウンドを聞いた第一印象は、ありふれた単語になってしまい恐縮なのですが、「自然な音」というものでした。

<左:NDH 30 右:NDH 20>
分解してお伝えしますと、1つ目は無駄な誇張の無いサウンドということです。
特に高域の印象が柔らかく、ヘッドホンでありながらもスピーカーの距離感のような自然な高域が感じられます。ヘッドホンで聴くということはどうしてもスピーカーよりも耳に近い位置で音を鳴らすことになりますから、スピーカーよりも近い音になってしまいます。NDH 30ではあくまで近い音ではあるのですが、スピーカーで自然に減衰したような自然な高域を聞くことができます。
セールスポイントとしてKHモニタースピーカーとの親和性が主張されていますが、この「スピーカーのような自然さ」が親和性の意味するところなのかもしれません。

<開放型も相まって自然なサウンドを奏でてくれる>
自然な音のもうひとつの意味は、自然な低域の終わり際にあります。多くのヘッドホンでは”低域がここまでです”という低域の終わり際を感じるのですが、NDH 30は終わり際のない自然な低域を聞くことができます。
まとめると高域も低域もヘッドホンらしくない音という印象です。
開放型であることも音に影響しているのでしょうが、ただの開放型というよりは、しっかりとしたコンセプトをもって追い込まれた開放型ヘッドホンという印象を受けました。そして、その追い込んだ方向性はKHモニタースピーカーのモニタリング環境であるように感じました。
また、比較的小さな音量でも全帯域がしっかりと鳴ってくれるので、小さめの音量でも十分ミキシングを行うことができます。
先行機種の密閉型NDH 20は低域も高域もどちらかというと元気な音で、その要因は密閉型という構造にあるでしょう。悪い意味ではなく、高域はくっきりとスピード感があり、低域はタイト。これに対しNDH 30はNDH 20を少しおとなしく、かつ自然にした印象で、正確でありながら疲れない、モニター的サウンドとオーディオ的サウンドの中間と位置づけられます。
方向性という意味ではNDH 20とNDH 30の音には同じベクトルを感じるのですが、単純に密閉型を開放型にしただけでこの音にはならないでしょうから、NDH 20、そしてKHモニタースピーカーとの整合性を考慮し、多大な時間を費やして調整された音だと感じました。
NDH 30専用に設計されたドライバーユニット
高度に作り込まれたNDH 30サウンドを聴いていると、どのような技術でこのサウンドが作られているのか気になってきます。仕様を紐解いてみると、NDH 30にはいくつかの専用設計が投入されており、ただのNDH 20の密閉型モデルというわけではないことがわかります。

<ドライバーユニットがうっすらと見える>
最も大きな部分がドライバーの違いでしょう。文字の上では「38mm・ネオジム磁石ダイナミックドライバー」と記載され、NDH 20 / NDH 30での違いは無いのですが、実際は異なるドライバーが使われているそうです。
最大の違いはフォイル(膜)の構造にあり、NDH 20ではゼンハイザーが特許を持つDoufol膜という2枚構造の膜が採用されているそうですが、NDH 30は新開発の1枚の膜のドライバーになっているとのこと。1枚としたことで共振周波数は低くなり、低音域のレスポンスとリニアリティを向上させているんだそうです。
また、全体での歪率(THD)は0.03%以下を達成しており、すでに低歪率であったNDH 20を上回る性能を実現しています。
購入にあたっての注意点としては、インピーダンスが120Ωと決して低くはありませんので、余裕をもってドライブするにはヘッドホンアンプにも相応のアンプ出力・ドライブ能力が必要です。安価なオーディオインターフェース等では音量が不足する可能性がありますので、接続する機器のヘッドホンアンプ出力を確認しておきましょう。
以上のようにNDH 20のシリーズ製品とされていますが、実際にはKHモニタースピーカーによるモニタリング環境をターゲットに設定した上で新設計されたヘッドホンであるように感じました。

<NEUMANNブランドを感じさせるヘッドホンだった>
一言でまとめれば、KHシリーズと同様のNEUMANNモニター哲学をそなえた開放型ヘッドホン。品質の高いモニタリング環境を持ったプロフェッショナルはもちろんのこと、自宅でスピーカーが十分に鳴らせない環境のミュージシャンの方にとっては、NEUMANNモニター環境を最も手軽に導入できる選択肢と言えそうです。
ヘッドホンではあるものの、ただのヘッドホンではなく、NEUMANNのモニター哲学をしっかりと受け継いだ「リファレンス・モニタリング・ヘッドホン」。それがNDH 30なのだと感じました。
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