■ 名鍵盤プレイヤー佐藤博さんがJポップに残した輝かしき名盤の数々
山下達郎さん、細野晴臣さん、大滝詠一さんが太鼓判を押したピアニスト、作曲家、プロデューサーであった佐藤博さんの取材記パートⅣです。
私は1995年、TVニュースの取材で日本を代表するキーボードプレイヤー、佐藤博さんを取材。佐藤博さんは国内の著名アーティストのアルバムに多数参加し、名演を残しています。
今回は前回紹介できなかった佐藤さんのギタリストへの想いや、佐藤さんが参加した国内アーティストの名盤を中心に構成します。
■ ギタリスト、鈴木茂さんのお話
佐藤博さんの取材中にギタリストの話になり、印象的なお話を伺うことができました。
国内ではトップセッションギタリストMさんは松任谷由美さんや佐藤博さん、松田聖子さん等のレコーディングに参加。Jポップシーンでは欠く事のできない名セッションギタリストです。そこでの佐藤さんのお話は…
「時間がある時と、ない時では話が変わってくる。時間が取れない時には彼は非常に上手いし、時間内にきっちり仕上げることにかけてはピカ一。でも、時間がある時には茂に頼む。その方がいい仕上がりになる」
茂とは鈴木茂さんの事です。佐藤さんは鈴木茂さんとハックルバックで演奏していたこともあり、佐藤さんとはツーカーの仲だったのだと思います。
「茂はあまり器用ではないんだけれど時間をかければ、とても素晴らしいものを作ってくれる。だから、時間がある時は茂にお願いする」
凄い話を聞いた…と私は思いました。
鈴木さんも佐藤さんのアルバムではその腕前を披露しています。
曲調に合わせ、プロデューサー目線でギタリストも配置されていたのでしょう。日本でも知らない人がいないギタリスト2人の話は一緒に演奏した経験のあるプレイヤーだからこそできるコメントで、なかなか聞く事ができない貴重なお話でした。
そんな佐藤博さんの大ファンでもある角松敏生さんのインストアルバムに佐藤さんが参加をし、素晴らしいプレイを披露しています。
また、角松さんは89年の日比谷野外音楽堂ライブ盤では鈴木茂さんと共演し、鈴木さんの曲「レイニーステイション」や「100ワットの恋人」などを演奏。佐藤さんの楽曲「山手ホテル」も取上げています。
■ 推薦アルバム:角松敏生 『SEA IS A LADY』(1985年)

85年にリリースされた角松敏生初のインストアルバム。村上ポンタ秀一や佐藤博が参加したインストの名盤。楽曲の構成が考えられおり、佐藤さんが提供した楽曲もバランスよく配置されている。
佐藤さんのプレイは楽曲にダイナミズムを与え、非常にしまった演奏になっている。お得意のブラスサウンドも健在であるが、アコースティックピアノの演奏が秀逸。佐藤博でなければできない演奏がパッケージされている。
推薦曲:『SEA LINE』
頭のギターカッティングから導かれるイントロを聴けばこのアルバムの見通しが立ってしまう程の楽曲。ポップで華やかな角松節がインストになり、聴くものを魅了する。
佐藤博のアコースティックピアノの演奏が楽曲に強力なグルーブをもたらしている。
推薦曲:『SEA SONG』
角松さんからの提案だったのか、佐藤さんからの提案だったのかは定かではないが、インタールード的な味わいを持つ楽曲。佐藤さんの点画のような美しいアコースティックピアノは佐藤さんしかできない演奏です。
推薦曲:『SUNSET OF MICRO BEACH』
前曲、「SEA SONG」受け、佐藤さんお得意のブラスヒット音から幕を開ける。ボサノバ調なマットな曲。佐藤さんのアコースティックピアノのソロは秀逸。佐藤さんは細野晴臣、大滝詠一にニューオリンズ調のピアノを弾かせたら唯一無二と言わしめた人。アメリカ南部をベースにした演奏でありながら、何故か洗練れているのは佐藤マジックたる所以か?
■ 推薦アルバム:吉田美奈子 『FLAPPER』(1976年)

バラエティ溢れるポップアルバムに仕上がっている。参加メンバーは大瀧詠一、大貫妙子、鈴木 茂、細野晴臣、松任谷正隆、村上秀一、山下達郎など。今となっては恐ろしいメンバーが揃っている。50年近くが経過した今もJポップ界の巨匠達である。
佐藤博さんの素晴らしいローズプレイが各所に散りばめられている。
また、Jポップの永遠の名曲となった大瀧詠一の「夢で逢えたら」は後に大瀧ご本人がカバーをして世に広がった。
推薦曲:『朝は君に』
キラキラしたエレピから始まるイントロは佐藤さんの真骨頂。開放感のあるメロディーとさわやかなサウンドがグルーブをしていく様子はこの曲の聴きどころ。
この楽曲を聴くと後の吉田美奈子ミュージックが既に出来上がりつつあるのが分かる。
■ 推薦アルバム:南佳孝 『SPEAK LOW』(1979年)

南佳孝79年の名盤。南はこのアルバムに収められている「モンロー・ウォーク」で大ブレイク。レコーディングメンバーも佐藤博、坂本龍一、細野晴臣、高橋幸宏、鈴木茂、林立夫など超豪華。殆どの作詞が松本隆というのも凄い!
このアルバムでも佐藤博さんは11曲中、8曲をアレンジ。冴えわたるキーボードプレイが聴ける。
推薦曲:『Portrait Woman』
佐藤博さんがポリシンセを単独で演奏している珍しいトラック。勿論、お得意のフェンダー・ローズピアノの強力なタッチによるフレーズも健在。佐藤さんの弾く、ポリシンセソロが楽曲のアウトロ部分にフューチャーされている。リトル・フィートが1978年にリリースしたライブの名盤、「ウエイティング・フォー・コロンブス」の楽曲、「ファットマン・イン・ザ・バスタブ」や「オール・ザット・ユア・ドリーム」でのビル・ペインのプレイを想起させる。
佐藤さんのプレイを聴き感心するのはソロパートで手癖による速弾きをしない事です。常にメロディを意識し、フレーズが歌っています。ローズピアノでも歌を邪魔せず、音と音の隙間にグッと湧き立つような音の塊やフレーズを入れ込んできます。その間のとり方は佐藤さん独自のものです。テクニック的にはもっと沢山の音を弾ける筈なのです。でも、そういうことはしない。抑制された演奏に音楽家としてのセンスを垣間見ることができます。
このレコーディング後、佐藤さんは単身、アメリカへと旅立ちます。
■ 今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト:佐藤博、角松敏生、吉田美奈子、南佳孝
- アルバム:「SEA IS A LADY」「FLAPPER」「SPEAKE LOW」
- 曲名:「SEA LINE」「SEA SONG」「SUNSET OF MICRO BEACH」「朝は君に」「Portrait Woman」
- 使用機材:フェンダー・ローズ・エレクトリックピアノ、アコースティック・ピアノ、ローランドD-550、ヤマハDX7Ⅱなど
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