ハモンドオルガンの普遍性について ハモンド特集最終回!
今回の鍵盤狂漂流記はハモンドオルガンに関する名盤の紹介で最終回です。前回で終了予定でしたが、落としてはならない名盤の存在を失念していました。
ハモンドオルガンはポップス、ロック、ジャズなどあらゆる音楽に使われています。 最近のサンプリングをメインにした数多のシンセサイザーでも必ずハモンドオルガンをシミュレートした音は含まれています。
また、ハモンドオルガンの音色に特化した、もしくは中心にしたオルガン機材も多くのメーカーから発売されています。 それだけハモンドオルガンは普遍性を持っている楽器だといえます。 ハモンドオルガンは名機である一方でハモンドB-3、C-3などはかなりの重量があり、気軽に使える楽器ではありません。
それに加え、オルガンサウンドには欠かせない箪笥のようなレスリースピーカーも必要になります。ライブの際、2つの機材を持ち込むことだけでも1人では不可能です。
しかし、各社からリリースされているデジタル技術を駆使したハモンドシミュレートオルガンは一聴して本物と聴き分けられないレベルにまで到達しています。便利な時代になったものだと思います。以下はその機材リストです。
NORD ( ノード ) / NORD ELECTRO 6D 61 コンボキーボード
YAMAHA ( ヤマハ ) / YC61 ステージキーボード
20万円台前半の各社のオルガン系機材の一例ですが、どれも負けず劣らずのイイ音が出ます。各社独自に様々な仕様を提示し、工夫をしています。気になったものを楽器屋さんで弾き比べ、自分に合ったものを選択すればいいと思います。
シンセサイザーは各社音色が異なりますが、オルガン系は全てといっていい程、ハモンドオルガンをシミュレートした楽器です。それだけハモンドオルガンへのニーズがあるということです。
私もノードのオルガンシミュレート楽器を使っています。中音域の豊かさはなかなかのものです。エフェクトとして付加されているレスリーシミュレーターもいい味を出しています。また、重さも10キロ以下で軽量です。
最近リリースされたハモンドシミュレート楽器は素晴らしいレベルに達しています。オルガン系の楽器をお探しの方は各メーカーをチェックしてみて下さい。
さて、今回はハモンドオルガンが奏でるボサノバジャズの名盤、最終回です!
■ 推薦アルバム:ワルター・ワンダレー『サマー・サンバ』(1966年)

私はハモンドオルガンシリーズを前回で最終回にしようと考えていましたが、不覚にもこの大名盤を失念していました。このアルバムも大推薦盤です! ヴァーヴ・レーベルからリリースされたクリード・テイラープロデュースのアルバム。
クリード・テイラーは、あのボサノバの大名盤「ゲッツ・ジルベルト」のプロデューサーでもあり、ボサノバの演出力においては習熟した敏腕プロデューサーです。 ボサノバ・オルガンの名手、ワルダー・ワンダレーの大ヒットアルバム。ハモンドオルガン抜きで、このアルバムを語ることはできません。 そういう意味では超ベタなアルバムではありますが、ボサノバ・オルガンと云えばこのアルバムなのです。
ラインナップされた楽曲もこれまた超ベタですが、それでいいのです。夏にこのアルバムを聴けば、あなたの周囲は直ぐに「レイン・フォレスト」状態になります。 深くリバーブ(残響)がかかった、ティビア系のハモンド・サウンドがあなたを包み込むでしょう。
cf)ティビア(脛骨)は脛骨から作られた古代の長笛の事を云う。ハモンドオルガンのプリセットにフル・テイビアという音色があるが、ワルター・ワンダレーのハモンドの音色はこのティビア系の音が多い。
推薦曲:「サマー・サンバ」
マルコス・ヴァーリの名曲。「ソー・ナイス」という曲名で広く知られています。 「ソー・ナイス」と云えばジョアン・ジルベルトの最初の妻、アストラット・ジルベルトもワルター・ワンダレーのオルガンをバックに唄っています。こちらの方でご存知の方も多くいらっしゃると思います。
「サマー・サンバ」はインスト曲でありながら、全米で26位を記録。アストラット・ジルベルトの他、セルジオ・メンデスやカエターノ・ヴェローゾにもカバーされています。
ワルター・ワンダレーは1つ間違うとエレクトーン音楽的な捉え方をされかねません。バッキングはベタでコードを押さえた白玉です。この曲でもそのアプローチは変わりません。しかし、1966年の空気はそういうことも容認できる時代だったのかも知れません。シンプルなボサノバにシンプルな演奏。特に奇をてらわない普通の演奏が受けたのでしょう。気持ちのイイBGM的アプローチが支持されていたのか、今のオルガンジャズとは一線を画すものです。
■ 推薦アルバム:ラリー・ゴールディングス『カミノス・クルザドス』(1994年)

ここまで渋いボサノバオルガンアルバムは稀有な存在かも知れません。メンバーはピーター・バーンスタイン(G)、ビル・スチュアート(Dr)、ラリー・ゴールディングス(Org)。スペシャルゲストとしてサックスのジョシュア・レッドマンが参加しています。
楽曲はジョビンやカエターノ・ヴェローゾの曲など、ボサノバの有名曲とラリー・ゴールディングスのオリジナル曲で構成されています。抑制された各プレイヤーの演奏が印象に残ります。
推薦曲:「ソ・ダンソ・サンバ」
アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲。とてもポップな曲で私の入っていたバンドでも演奏したことがあります。ジョシュア・レッドマンがサックスでテーマをとっています。
この曲もそうですが、ラリー自身のソロアルバムでありながらラリーが前に出ることなく、バンドの調和を重視している印象が強いアルバム。ラリーによるハモンドのソロパートも秀逸です。
推薦曲:「若い娘」
スタン・ゲッツのアルバムで知られるこの楽曲も非常にポップでメロディアスな名曲です。ゲッツは自身のアルバムで美しいテーマをゲッツ流に奏でているが、ラリーもまた異なる解釈で冒頭のメロディーを演奏している。
メロディーだけでも存在価値があるほどのキャッチーな名曲。ギタリストのバーンスタインもメロディーをとる。途中にゲッツ盤にはない印象的なブリッジがあり、この辺りのアイディアはラリーによるものか?ラリーのアルバム同様、ゲッツ名義のアルバムも必聴!

スタン・ゲッツ(featuringローリンド・アルメイダ)
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、 推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト:ワルター・ワンダレー、ラリー・ゴールディングス、ローリンド・アルメイダ等
- アルバム:「サマー・サンバ」、「カミノス・クルザトス」、「若い娘」(スタン・ゲッツ名義のアルバム)
- 曲名:「サマー・サンバ」、「ソ・ダンソ・サンバ」、「若い娘」
- 使用機材:ハモンドオルガン
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