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蠱惑の楽器たち 112.u-he Zebralette3 BETA2 レビュー1

2025-05-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

革新的な新しいシンセサイズ方式を備えたu-he Zebralette3ベータ版が、昨年2024年2月にリリースされました。

⇒ 蠱惑の楽器たち 82. u-he Zebralette3 革新的ベクターシンセの到来 緊急レビュー

それから1年以上が過ぎ、ようやく次のベータ版2が2025年4月4日にリリースされました。 目立った機能追加はないものの、CPU負荷は大幅に改善され、より安定したバージョンとなっています。また年内にはベータではない最終版がリリースされると思われます。 このZebralette3 Beta2の現状について、これから数回に分けて紹介していきたいと思います。

概要

u-he社は、Divaなどの優れたソフトシンセの開発で有名ですが、有料版に加えて無料版も提供しています。 Zebralette3は、その無料ソフトシンセのひとつです。 u-heの無料シンセは通常、有料版の機能の一部を切り出したお試し的な位置づけとなっています。 Zebralette3はZebra3のオシレータをひとつだけ切り出したソフトシンセです。 ちなみにZebra3は、まだ未発売で、おそらく来年ぐらいに発売されると予想しています。

Zebralette3 BETA2は、現在以下のKVR掲示板からダウンロードできます。

KVR掲示板

ベジエ曲線を使って波形を描画

Zebralette3は、波形をベクター形式の画像フォーマットSVG(Scalable Vector Graphics)で管理する新しいシンセサイズのおかげで、従来のシンセでは難しかったことが可能となっています。 下動画はZebralette3内部でベジエ曲線を使って波形を描画しているところです。 下段にオシロスコープで出力された音を表示しています。 メリットのひとつは、リアルタイムに音を確認できることです。 これによって微妙なカーブの違いを音の確認をしながら調整できます。 この作業を同レベルで実現しているシンセは他にないと思います。 旧Zebraでもリアルタイム性は実現していましたが、描画の自由度は限定的でした。 今回のバージョンで、線の扱いがSVGになってハンドルが扱えるようなったことで格段に自由度が向上しました。 ソフトウェアジャンルは違いますが、これはアドビ社のイラストレーターと同様の描画方法です。 具体的な音作りでは、積分的なイメージやカーブの角度、もしくはエッジ形状などがポイントになってくると思います。まだ理論化されていない分野ですので、Zebralette3を使って研究するのも楽しいかもしれません。

どんなサウンドが作れる?

新たなシンセサイズならではの音をいくつか作ってみます。

ガラスの割れる音

個人的には、ガラスの割れる音などが象徴的かと思っています。 この音は、アナログ、FM、物理音源などでは難しく、サンプラーに頼ることになりますが、 Zebralette3では純粋なベクターシンセサイズによって実現可能です。

爆発音

通常のシンセでは爆発音も難しい音のひとつです。 Zebralette3であれば、それっぽく作ることが出来ます。

打楽器

打楽器系も強く、様々な打楽器のエミュレートを得意としています。 Zebralette3には打楽器音作成に必須のノイズジェネレータは搭載されていませんが、加算合成をうまく使うことで、ノイズのような効果を作り出すことが可能となっています。 特に高音域の透明感は抜群で、ベクターによるメリットが出ています。

楽器らしい音

通常の楽器らしい音は当然網羅できます。 特徴としてはストレートな理想的特性で、アナログ的ではありません。 下画像はノコギリ波の周波数スペクトルですが、ナイキスト周波数まで、理想的特性となっています。 内部的に可能な限りベクターで管理しているため、音域における様々な問題をスマートに解決しています。

ブラスサウンドのような音を作ってみました。 特性がストレートで癖がないため、濁りが少なく、明確なサウンドになりやすい傾向にあります。

Zebralette3はZebra3の一部を切り出したシンセ

Zebralette3はZebra3からオシレータ(OSC)を1個だけ切り出したシンセです。 Zebra3には同等のオシレータが4個搭載されていて、さらに他のタイプのノイズ、物理、FM等の発振器もあります。 以下が現在開発中のZebra3 Alpha版です。 Zebralette3にはノイズジェネレーターやフィルターはありませんが、簡易的なLFOやエンベロープはあります。 ユニークな点としては、オシレータ内エフェクト(FX)、ベクタータイプのエンベロープ(MSEG)が搭載されています。 他に柔軟な変調マトリクスや、ディレイ、リバーブもあり、簡易シンセとして一通りの機能を備えています。

Zebralette3の構造

Zebralette3の構造は以下のようになっています。 ベクターカーブが各モジュールに提供され処理されます。 ベクターのままではホストに出力できないため、Rendererでサンプルに置き換えられ、VCA、EFFECTを通り出力されます。

Geometry(波形描画)とSpectrum(周波数スペクトル)

少しわかりにくいところですが、Zebralette3は、波形をそのまま描画するGeometryモードと、倍音レベルをカーブで描画するSpectrumモードがあり、切り替えて使用します。 注意点としては単なる表示切替ではなく、合成方法の切り替えという点です。 ゆえにモードを切り替えると、音も全く違うものとなります。 作りたい音に対して、どちらのモードが適しているかを考えてから、モードを選ぶ必要があります。
以下はGeometryモードでサイン波を描いて出力しています。白線が描画線で、青が出力波形となります。 両方ともサイン波になっているのが確認できます。 ただしベジエ曲線なので、純粋なサイン波ではなく、疑似サイン波となります。 そのため、わずかに倍音が含まれます。

以下はSpectrumモードで基音だけを出力するように描いています。 青線が出力波形で、純粋なサイン波となり、倍音は含まれていません。

RendererはWavetableとAdditive Synthがある

Rendererは、ベクターをサンプルに置き換える部分で、2通りの切り替えができます。 Wavetableは、理屈通りなので理解しやすいと思います。 一方Additive Synthは個別のサイン波を最大1024個使って加算方式でレンダリングします。 各サイン波は、徐々に位相が乱れて行くという、独特な振る舞いをします。
下図は、ノコギリ波の周波数スペクトルですが、Wavetableはナイキスト周波数まで倍音がありますが、 Additiveでは64倍音の設定にしているために、高域は出ていません。 一見デメリットに見えるAdditiveですが、各倍音を操作することができるため、Wavetableでは難しい音作りを可能としています。これについては後ほど解説したいと思います。

Zebralette3のオシレータ部は、通常のシンセに比べて特殊なため、学習を必要としますが、その代わり未知の領域が広がっています。 次回はベクターを使った波形作成について解説してみたいと思います。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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