■ ノーチラスのサウンドエンジン Polysixが進化したPolysixEX
コルグのワークステーション・シンセサイザー、ノーチラスの探求リポート、エレピ エフェクター遍は終了し、ノーチラスに内蔵されているポリフォニック・シンセサイザーPolysixEXとポリシンセにまつわる思い出を交えながらリポートしていきたいと考えています。
KORG ( コルグ ) / ノーチラス NAUTILUS-61
ノーチラスはコルグのM1から脈々と続くワークステーション機能を有するミュージック・ワークステーション・シンセサイザーです。その母体は2011年にリリースされたクロノス。クロノスはコルグのノウハウが注ぎ込まれたフラッグシップ機です。
バージョンアップを重ねたクロノスはその過程で多くのプロミュージシャンから称賛を受け、プロ御用達とも言える楽器に成長しました。
クロノスから進化したノーチラスはクロノスのインターフェイスを見直し、新たらしいアコースティックピアノ音源を加えるなど、コストパフォーマンス優位のコルグ先端機材としてリリースされました。
サウンドエンジンはクロノス同様、コルグを代表する9つのエンジンが搭載されています。
その1つ、PolysixEXはコルグのポリフォニック・シンセサイザー黎明期の代表機種、 Polysixの機能やそのサウンドをシミュレートしたものです。このPolysixEXはPolysixの名前とは大きく異なり、ポリ数は30倍のポリ180!です。恐るべしです!複数音押さえても音が途切れることは絶対ありません。
■ 熱望されたポリフォニック化と低価格
話は1977年から80年代前半にタイムスリップします。
プロフィット5、ヤマハCS-80、オーバーハイム0B-X、ローランドジュピター8…当時のポリフォニック・シンセサイザーの名機であり、アマチュア垂涎のシンセサイザーでした。プロフィット5、 CS- 80は1977年、もOB- Xは1979年、ジュピター8は1981年にリリースされ、プロ仕様の世界ではシンセサイザーのポリフォニックブームが到来していました。プロフェットは170万円、CS-80は128万円、ジュピター8は98万円、オーバーハイムは確か200万円近く、もしくはそれ以上の価格だったと記憶しています。いずれもアマチュアが購入できるような金額ではありませんでした。
単音しか出すことができないモノフォニック・シンセサイザーしか所有していなかったアマチュアミュージシャンにとって、和音が出るポリフォニック・シンセサイザーはまさにドリームマシン。
そんなドリームマシンからは新しい音楽が生まれていました。TOTO、スティービー・ワンダー、マイルス・デイビス、マイケル・マクドナルド、ホール&オーツ、ハワード・ジョーンズ、YMOなどがポリシンセを導入したのです。
当時の私も喉から手が出るほど欲しがっていました。そんなアマチュアの想いを現実にしたのがコルグのPolysix。コルグのプレスリリースを見た際、心のざわめきは頂点に達しました。そしてポリ数はプロフェット5よりも1音多い、文字通りの6音ポリ!です。アマチュア・シンセサイザーフリークが待ち望んだ機材、それがPolysixでした。
■ 夢がかなった瞬間とPolysixの実際
私は給料とボーナスを全てこの楽器につぎ込みました。憧れの名機よりも格安の248,000円。あのプロフェット5の6分の1以下でした。
また、Polysixは32音色がメモリーできました。私がPolysixを選んだ理由の1つです。
それまで私が使っていたローランドのモノシンセSH-5は音色をメモリーする機能などはなく、演奏中にリアルタイムで音色のセッティングを変えていました。それがボタン1つで音が呼び出せる…Polysixは夢のような楽器だと思いました。
時をほぼ同じくしてローランドからはJUNO-6というポリシンセもリリースされましたが、JUNO-6には音色メモリー機能が付いていませんでした。半年後、JUNO-6は改良されJUNO-60となり、メモリー機能が付帯されます。
私がコルグを選んだ理由はもう1つありました。PolysixのオシレーターはVCO(ボルテージ・コントロール・オシレーター)でローランドのJUNO-6はDCO(デジタル・コントロール・オシレーター)でした。
一般的にVCOはチューニングが不安定という欠点がありました。デジタル制御のDCOはチューニングが狂わないのです。一方で、DCOはVCOに比べて単一的で直線的な音がしました。VCOの方が音にふくよかさがあり、ファット感があります。
今となってはDCOもかなり改善され、エフェクト等でその欠点を消すことができますが、その特性は基本的に変わりありません。適切な表現かは疑問ですが「音の周りに纏わり付いている空気の層」がDCOは少ないのです。
私は今でもシンセサイザーを購入する際にはVCOのシンセサイザーを選択します。音の厚みが違うからです。
■ コルグPolysixの音を聴いて思ったこと
待ちに待ったPolysixの音を出してみました。Polysixから出てきた音は私の想い描いたものとは少し違っていました。
「???…この位のものなのか?意外に音が薄いな」というのが私の最初の印象でした。SH-5の音が和音となって出てくると勘違いをしていたのです。
このポリシンセの「音の薄さ」的呪縛が解消されるのは私がオーバーハイムのExpanderを購入するまで続きます。Polysix購入の数年後にローランドのJupiter-6を購入した時にも同じ感覚に陥りました。Polysixよりは良い音でしたが、音は太くはなく、厚みが感じられないのです。
今、考えてみるとあの音がPolysixの音であり、Jupiter-6の音なのです。厚い薄いの問題ではなく、メーカーが作ったポリシンセの音が楽器に反映されていただけでした。
私は勝手に音楽を聞く中でリー・リトナーのアルバム『RIT』の1曲目にクレジットされた「ミスター・ブリーフケース」のイントロの音がポリシンセの音だと思い込んおり、それ故の勘違いでした。実際その音はオーバーハイムのOB-Xの音なのですが…。
元々、コルグのポリシンセの音は伝統的にあまり太くはありません。私は2年程前にコルグの8音ポリのプロローグを購入しました。当然、音は良くなっていましたが、コルグのポリシンセの音がしていました。
Polysixの話に戻ります。当然、当時のポリシンセにはデジタルリバーブやディレイのエフェクトは搭載されていいません。その音の薄さをカバーするのにPolysixにはアンサンブルというエフェクトが付いていました。このアンサンブルをかけるとフワッとした音になり、厚みを感じることができました。しかし、音的にはまだまだ納得できるもではありませんでした。オーバーハイムの呪縛に関してはこのコラムでまた書くことにします。
Polysixはリード音やブラス音といった厚みのある太い音は苦手でしたが、ストリングスやパッドといった空間的な演出ができるシンセサイザーとしては重宝しました。
このノーチラスのサウンドエンジン、PolysixEXもその要素が強く出ていると私は感じます。次回はPolysixEXの実際に音を出してみることにします。乞うご期待!
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