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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~私が取材したミュージシャン備忘録・感動の一言!~ その67

2022-02-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

私が取材した偉大なミュージシャン穐吉敏子さん。感動の一言!

前回は私の知合いミュージシャンが所属したサルサバンド、オルケスタ・デル・ソルを取り上げました。今回はニュース番組で取材した素晴らしいミュージシャンをご紹介します。そのミュージシャンは穐吉敏子さんです。
穐吉さんは言わずと知れた世界屈指のジャズピアニストです。
浜松は「音楽の街」として知られ、毎年ジャズフェスティバルが開かれます。そこに穐吉敏子オーケストラが招待され、その様子を取材させていただきました。穐吉さんがお話になった「感動の一言」が今も私の座右の銘となっています。

穐吉敏子さんの歴史

穐吉敏子さんは1929年満州生まれ。駐留米軍用のダンスホールでジャズと出会い、ピアニストの道を歩みます。1951年、21歳のときに渡辺貞夫さんらとコージー・カルテットを結成。1956年、26歳で単身渡米、バークリー音楽院でジャズを学びます。1962年、チャールズ・ミンガスのバンドに参加。1967年にルー・タバキンと結婚し、穐吉敏子・ルー・タバキンビッグバンドを結成します。グラミー賞に14回もノミネートされています。1999年に日本人初の「国際ジャズ名誉の殿堂入り」、2006年にジャズ界最高名誉である全米芸術基金「ジャズ・マスター賞」受賞。まさにジャズの巨人です。

穐吉敏子オーケストラ

浜松で毎年、開催されるヤマハジャズフェスティバルは2021年で29回を数えます。私は浜松ジャズフェスティバルを数回取材していますが、ミュージシャンにインタビューして一番、心に残っているのが穐吉さんの言葉でした。
浜松ジャズフェスティバルでの穐吉敏子オーケストラには国内の腕利きミュージシャンが集められました。そのメンバーの中に静岡県出身のトロンボーン奏者であり、アレンジャーの村田陽一さんの名前がありました。私は村田さんをヤマハ・サイレントブラスで取材した事があり、村田陽一さんの視点から穐吉敏子さんを表現できればと考えました。

穐吉敏子さんの背景

穐吉さんは先述の通り、1956年に単身渡米しています。
アメリカは人種差別が激しい国です。1980年に私が渡米し写真撮影をしていた際、車に乗っている若い白人男性から「HEY,YOU…GET A YOUR JOB!」(おいお前、仕事しろよ~)と嘲笑されました。当時、お世話になっていた叔父さん、叔母さんに話したところ、
「そういう輩には、お前の知った事か!NOT YOUR BUSINESS!と言っておやりなさい」と教えてもらった記憶があります。マイルス・デイビス流に言うなら「SO WHAT!」でしょうか?(笑)
アメリカには黒人は東洋人を差別したり、女性蔑視をする文化が根強くあります。今のアメリカでも東洋人への差別や暴力がニュースで取り上げられています。
穐吉さんが渡米した1950年代であれば、その状況は推して知るべしです。
当時、極東から来た黄色人種である日本人女性がアメリカ社会で生きていくことは想像を絶するものがあったと考えられます。穐吉さんが掴んだ栄光の影には我々の考えが遠く及ばない過酷な状況が横たわっていた筈です。

■ 推薦アルバム:穐吉敏子 / ロング・イエロー・ロード(1975年)

穐吉敏子=ルー・タバキン・ビッグ・バンドの傑作。ジャズピアニストで単身アメリカに渡り、日本人としてのアイデンティティを表現。アメリカのジャズ界で穐吉敏子の名を知らしめた。トラディショナルなジャズとしての語法に加え、日本固有のメロディがそこかしこに散りばめられている。

推薦曲:『ロング・イエロー・ロード』

アメリカでの自身の歩みや想いがこの曲に凝縮されている。穐吉敏子の代表曲であり、傑作曲の1つ。美しい日本情緒を感じさせるテーマが心に残る。穐吉さんの人生に重ね、聴く事でより深い感動が得られる筈。

穐吉敏子さんへのインタビュー 返ってきた答えは・・・

穐吉さんは取材にはとても協力的でした。当時、右も左も分からぬ若造にも丁寧に対応して下さいました。佇まいが凛とし、本当に素敵な女性でした。
私の取材意図は穐吉敏子オーケストラに呼ばれた静岡出身の若いトロンボーン奏者、村田陽一さんを通した穐吉敏子像でした。
私はインタビューの最後に穐吉さんに質問をしました。
「若手音楽家、村田陽一さんに伝えたいことがあれば教えてください」
その答えに私は感動しました。
「音楽家として一番大切な事は社会を見る事です。社会を見なさい!」

私は音楽的な答えが返ってくることを想像していましたが、穐吉さんの答えはシンプルで強烈でした。
音楽家は音楽を演奏するだけの存在ではなく、自分の音楽に社会を通してのメッセージを込める事が肝要であると私は理解しましたし、穐吉さんはそう仰っていました。そこには長い間アメリカ社会に属し、生き抜いてきた日本人として女性としての強いメッセージが込められていました。
「ロング・イエロー・ロード」が作られた穐吉さんの人生に想いを馳せる時、また違った響きが聴こえてきます。
取材者冥利に尽きる瞬間を穐吉さんと共有できたことは私のかけがえのない財産となりました。


■今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用機材

  • アーティスト:穐吉敏子、ルー・タバキン 
  • アルバム:「ロング・イエロー・ロード」
  • 曲名:「ロング・イエロー・ロード」
  • 使用機材:アコースティック・ピアノ

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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