特殊なエフェクターの紹介も3度目になりました。
今回は幾つかまとめて同時に執筆していますが、Twitterやメールでリクエストを頂ければ随時ブログに仕立てていきますよ。
というわけで今回は真空管を搭載したエフェクター、ストンプボックスについてです。
真空管といえばやはりアンプをイメージすることが多いでしょうか?
確かにMarshallやFenderなど名だたるアンプメーカーが多種多様な真空管アンプを製作しているのですが、ごく一部には真空管をエフェクターに内蔵したものもあります。
前回、前々回までの2つと比べると遥かに数が多いですが、それでもストンプボックス全体のシェアとしてはごく一部です。
いくつか紹介していきましょう。
TC ELECTRONIC ( ティーシーエレクトロニック ) / TUBE PILOT OVERDRIVE
容易に手に入る真空管搭載オーバードライブの中で最も安価なのがこちら。
なんと7,000円を切る値段ながら、Electro-Harmonix製12AX7真空管を搭載し、シンプルなオーバードライブペダルとして仕立てています。
裏蓋を開けることにより管が交換できるため、好みの真空管に交換して楽しむことも可能です。
MAXON ( マクソン ) / TOD9 True Tube Overdrive
「世界最小」を名乗るストンプボックス、TOD9です。
おそらく現在はIbanezのNTS NU TUBESCREAMERと並んで最小なのですが、発売当初には画期的な小ささだったことは間違いありません。
真空管の交換ができないというレビューが散見されますが、対策として管の寿命を延ばすシステムを搭載しています。
Ibanez ( アイバニーズ ) / NTS NU TUBESCREAMER

Korg製極小真空管「Nutube」を搭載したチューブスクリーマー(TS)です。
通常のTSシリーズと異なり、入力音と歪みをミックスすることが可能です。
白地に緑の線、キャラメルスイッチという特徴的な見た目はTSらしさを持ちながら、それ以外とは一線を画すスタイルとなっています。
BLACKSTAR ( ブラックスター ) / HT-DISTX DX-1
アンプメーカーであるBLACKSTARから、シンプルな見た目の真空管オーバードライブです。
オーバードライブというよりディストーションに近いハイゲインが特徴で、専用のパワーサプライが必要なほどの凶暴なストンプボックスです。
大きすぎてエフェクターボードに組み込むのは少々難しいですが...
ALBIT ( アルビット ) / A1FD pro
とにかくでかいALBITのプリアンプシリーズ。
proには真空管を2本搭載し、「究極のサウンド」を謳っています。
プリアンプを名乗りつつも、フットスイッチを搭載せずにイコライザー/DIに注力するもの、歪みを積極的に作るものなど数種類あり、音作りによって適合するストンプボックスも変わってきます。
HT-DISTXと同じく専用パワーサプライが必要です。
VOX ( ヴォックス ) / VALVENERGY SILK DRIVE
Ibanez NTS NU TUBESCREAMERと同じNutubeを搭載したオーバードライブです。
アンプシミュレーターに近い機能を持ち、シリーズ展開されている4種それぞれで違うサウンドを持ちます。
歪みが可視化されるディスプレイが付いていることも特徴。
Beyond ( ビヨンド ) / Beyond Tube Over Drive
最後に紹介するのは日本製の真空管ペダルです。
オーバードライブ以外にもディストーション、プリアンプ、バッファ、ブースターなど数種類を真空管搭載ストンプボックスとして製作しています。
また、非常に珍しい真空管搭載アコースティックプリアンプも製作しているなど、幅広いシリーズ展開で多様な楽器に対応しています。
■ 余談:真空管の話
ELECTRO-HARMONIX ( エレクトロハーモニックス ) / 12AX7EH 真空管 ミニチュア/mT
真空管というものは、見たことがあれば分かりますが、管の中に幾つかの端子がある構造をしています。
参考として画像を置いたのはElectro-Harmonix 12AX7プリ管ですが、楽器用ではこれ以外にパワー管、整流管の3つがあり、それぞれ使用法と効果が違います。
とは言ってもただの電子パーツですから、説明するのはそう難しくはありません。
真空管には2極管、3極管など数種類あり、2極のものは「陰極(カソード)を加熱し、熱電子を放出させたものを陽極(アノード)から回収する」、3極は「陰極から出た熱電子の一部を途中で回収する(電気的な)網を設け、最終的に通り抜けた熱電子を陽極で回収する」というのが基本的な使い方になります。
より具体的には、それぞれ「電流を1方向のみに通す」「入力を増幅して別系統から出力する」というものです。
これらは半導体のダイオード、トランジスタの元になった機能であり、そちらを採用したアンプは真空管アンプと区別してソリッドアンプなどと呼ばれていますね。
ダイオードやトランジスタを採用した方がはるかに駆動電圧も低く、発熱もなく、小型化でき、しかも安くて信頼性も高い、と良いことずくめなのですが、なぜ音楽系にはよく真空管が用いられるのか?という問題がありますが、それは浪漫の一言に尽きる格好良さがあるからです。
話が逸れました。
真空管の駆動電圧の高さと発熱は製品開発における最大の課題であり、昇圧回路の組み込みや給電部の強化、放熱板の設置などを必須としていたがゆえに、大型化してもそこまで問題ないアンプヘッドには現在もよく搭載されています。
しかし、エフェクターボックスに組み込む際にはこれらの問題は既存の真空管では深刻であり、それらを解決するとなると大型化や専用パワーサプライの採用は避けられません。
これらをすべて解決すると目されているのがVALVENERGYやNU TUBESCREAMERに搭載されているNutube。
ノリタケ電子が設計&製造、KORGが企画&販売するこの小型真空管は、安価でありながら信頼性が高く、超長寿命ながら既存の真空管の2%程度の電力消費しかないという利点があります。
ちなみに既存の真空管は赤熱し発光するところ、Nutubeはフィラメントを赤熱せず、青緑色に光るという特徴もあります。
Maker Faire Tokyoという技術博覧会にもKORGとして出店し、Nutube使用エフェクタのみならずヘッドホンアンプなども開発、紹介するなど、ただの楽器用ではないNutubeのポテンシャルが窺い知れます。
そんなNutubeですが、なんとSoundhouseにはエフェクター自作キットが販売されています。
KORG ( コルグ ) / Nu:tekt OD-S オーバードライブ組み立てキット
通常の真空管は通常複雑な回路を必要としますが、このキットでは基盤はすべて加工済みで製作できます。
カスタムのための回路図も同梱されています。
ケースも塗装済みといたり尽くせりのキットですし、真空管オーバードライブを自作してみるのもいいかもしれませんよ。
それでは今回はこの辺で。 次回はシンセサイザーとキーボードマシンの話です。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら