ニューヨーク音楽よもやま話
アメリカ南部に飛んだ鍵盤狂漂流記は今回、東海岸、ニューヨークです。
1980年、僕は卒業制作を撮影する為にアメリカを訪れました。ニューヨークからグレイハウンドバスに乗り、アメリカを横断する貧乏撮影旅行です。卒制のタイトルは「ニューヨーク&ニューオーリンズ」でした。先進的なニューヨークと田舎街ニューオーリンズの対比がテーマ。大きな衝撃を受けたニューオーリンズを冒頭にした為、今回のテーマはニューヨークで体験した音楽の話です。
私はこれまでに3度ニューヨークを訪れています。最初は卒業制作の撮影旅行、2度目は妻との旅行、3度目はアトランタで元大統領ジミー・カーターとロナルド・レーガンを撮影したTV取材。取材の最終日に系列のニューヨーク支局に立寄りました。
ニューヨークの色
アメリカ滞在の初回は下宿をしていた大家さんの友人、Kさんにお世話になりました。
Kさんのお宅はニューヨーク近郊の街、ロズリンにありました。Kさんのお宅から撮影に出かける毎日でした。ニューヨークのマンハッタンにある大規模駅、ペンシルべニア駅(ペン・ステーション)地下から地上に出る際、感じたことがありました。階段を駆け上がった時に見える早朝のマンハッタンの街色は「紫」でした。確かにここは「パープルタウンだ」と思いました。パープルタウンと云えば八神純子さんが歌ったヒット曲です。マンハッタンは高層ビルが乱立しています。昇ったばかりの太陽が高層ビル全体を照らし出すには少し時間が必要です。だから斜光によってコンクリートの街が紫に見えたのだと思います。
八神さんのバックバンド、「メルティング・ポット」のベーシストは僕の友人の義理のお兄様でした。プロベーシスト経由の先端音楽を友人から教えてもらいました。マンハッタン・トランスファー の「エクステンションズ」やエアプレイなどヒットする前から聴いていました。それらは時が流れた今も、僕の音楽的背骨を形成しています。
ところで「パープルタウン」という曲にはオリジナルがあることをご存じでしょうか?
レイ・ケネディというボーカリストのソロ・アルバム、「ロンリー・ガイ」の「You Oughta Know by Now」がオリジナルと思われます。訴訟問題にもなりました。話のネタにどうぞ。
■ レイ・ケネディ『ロンリー・ガイ』(1980年)

マイク・ブルームフィールドやカーマイン・アピスらを擁したスーパーループ、「KGB」からソロに転じたレイ・ケネディのソロアルバム。プロデューサーはデビッド・フォスター(KEY)。TOTOのスティーブ・ルカサーなど、当時の西海岸の腕利き達が顔を揃えた快作です。至る所にD・フォスターアレンジが散りばめられていいます。当時、このアルバムを聴き「何これ?」って思ったのは僕だけではない筈です。
推薦曲:「You Oughta Know by Now」
八神バージョンよりもギターが全面にでたロックっぽいアレンジ。八神の♪~パープルタウン、 パープルタウンのサビ部分はありません。イントロなどはマンマです。(^^♪
2度目のニューヨーク
2度目のニューヨークで触れた音楽は1989年に妻と聴いたギル・エバンス・マンデーナイトオーケストラです。ギル・エバンスはマイルス・デイビスが楽曲アレンジの際、頼りにしたミュージシャンでマイルス自伝にも、その辺りの事が書かれています。
『スケッチ・オブ・スペイン』や『クワイエット・ナイト』など、マイルスはギルとの共作をリリースしています。
私がニューヨークを訪れたときにギル・エバンスは既に亡くなっていましたが、ギルの思想を受け継いだ音楽は健在でした。
ニューヨーク名門ジャズクラブ、スイートベイジルのチャージはミッドナイトのショーで15ドル!位だったと記憶しています。何故か日本にあるアメリカ発のジャズクラブはワンドリンクで8,000円、1万円のチャージ。ラグジュアリー感を演出しています。ジャズはもっと身近な音楽だと思うのですが…。
我々は最前列でギルの音楽を聴きました。ピアニストはデルマー・ブラウン。生ピアノの上にローランドシンセサイザーD-50を載せ、弾く姿が印象的でした。(ローランドシンセサイザーD-50の関連記事はこちら)

ローランドD-50
ベーシストはフレットレス・ベースのマーク・イーガン、パットメセニーグループのベーシストです。ドラムはバークリー音大教授のケンウッド・デナード、イギリスのハイテクジャズフュージョンバンド、ブランドXにも参加しています。ギタリストは24丁目バンドのハイラム・ブロックなど、超豪華メンバーでした。マンデーナイトオーケストラはジャズのバンドですが、音楽がアメーバの様に変化します。4ビートを演っていたのかと思えば、知らないうちにダイアストレイツの「マネー・フォー・ナッシング」になり、ハイラムがそれを唄います。ハイラムはステージ脇の柱に片足を乗せギターを弾いていました。2時間以上の素晴らしいステージでした。
■ ギル・エバンスオーケストラ『プレイズ・ジミ・ヘンドリックス』(1974年)

音の魔術師と云われるギル・エバンスがジミ・ヘンドリックスを取り上げた名盤。パーカッションやシンセサイザーが入り乱れ、ギルの世界が繰り広げられる。ギルはこのアルバムからも分かりますが、音楽に対し貴賤のないニュートラルなミュージシャンだったと云えます。ジャズミュージシャンはロックを馬鹿にしがちで4ビート以外は演やない人もいますが、ギルは音楽に線を引くことはありませんでした。マイルスがギルと相通じたのはそういう部分だったのかも知れません。日本人ギタリスト、川崎燎氏も参加。
推薦曲:「リトル・ウイング」
ジミヘンの名曲、リトル・ウイングのカバー。印象的なパーカッションのイントロからスタートする。比較的、オリジナルを忠実にカバーしていますが、アドリブ部分では一気にギルの音世界にもっていかれます。ギルの音楽は何時も、そこはかとないインテリジェンスを纏っています。
3回目のニューヨークよもやま話は次会に・・・。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、 推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト:レイ・ケネディ、ギル・エバンスオーケストラ
- アルバム:「ロンリー・ガイ」「プレイズ・ジミ・ヘンドリックス」
- 曲名:「You Oughta Know by Now」「リトル・ウイング」
- 使用機材:アコースティック・ピアノ、ローランドD-50
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