
骨まで響くベースライン、胸を打つバス・ドラムの音、振動するベースループのサウンドは何とも例えようがありません。PAシステムにサブウーファーを追加する理由は、低域を強調することだけではありません。サブウーファーをライブに使用するメリットとPAシステムへの最適な追加のしかたについて説明します。
低域を聴く
人の可聴範囲は一般的に20~20,000Hzと言われ、最も良く聴こえる周波数は2,000から5,000Hzです。また、低域の波長は非常に長いため、私達の脳は他の音域のように伝達時間や強度の違いから音源の位置を判別することはできません。年齢を重ねると、高域を聴く能力は衰えていきますが、低域を聴く能力は変わりません。
また、骨は低音を伝達します。これは「骨伝達」と呼ばれ、振動は主に頭蓋骨を通り内耳に伝わります。一般的に、骨を伝わってくる音と外耳を通って耳に入ってくる音を区別することは困難です。

低域とは何でしょう
低域の基本的な定義をするために、音楽理論により音がどのように分類されているのか考えてみましょう。人の可聴範囲は10オクターブをカバーしており、下表のように帯域毎に分割して表せます。
極低域 | 16Hz以下 | 可聴範囲外 |
---|---|---|
超低域 | 16Hz~40Hz 40Hz~80Hz |
最も低い音域 音楽の低域、バスドラム、ベース |
低域 | 80Hz~160Hz 160Hz~320Hz |
グランドピアノの低音域 ピアノの中央C「C3」 |
中域 | 320Hz~1280Hz | 音楽の中域 |
中高域 | 1280Hz~2500Hz 2560Hz~5120Hz |
殆どの楽器の低次倍音 可聴範囲における最も良く聞こえる音域 |
高域 | 5120Hz~10240Hz | 明瞭な高音倍音域 |
超高域 | 10240Hz~20480Hz | 最も高い倍音域 可聴範囲外(20kHz) |
「低音」という言葉は20Hzから200Hzー250Hzの周波数域にある音を表します。
メインスピーカーが80Hzまでの低域を再生できるなら、一般的なサブウーファーはさらに3オクターブ下まで再生可能です。QSCのアクティブサブウーファーをはじめ、他社製を含む多くのモデルがクロスオーバー周波数を80Hz~100Hzに設定しているのはこのためです。
サブウーファーを使用するメリット
適切に設計された高性能サブウーファーは、他のオーディオユニットでは実現できないリスニング体験を提供します。サブウーファーがライブサウンド性能を向上させる理由は様々です。
隠れた音を再生する
2wayスピーカーの周波数特性は50Hzあたりから落ち始め、低域の伝達度や、深みや明瞭さが失われます。高性能サブウーファーは30Hz以下まで再生できるため、大型パイプオルガン、バス・ドラム、6弦ベース、ドラマチックなSEなどの最も低い音まで体感することができます。
メインスピーカーのヘッドルームを広げる
サブウーファーを設置しないPAシステムにおいて、出力がスピーカーの最大SPLに近づくと、メインスピーカーのウーファーは振動変位限界に近づき、歪みが起こります。サブウーファーはそのような低域を容易に再生できる、高い許容入力と振動変位能力を持つ大型ウーファーを搭載しています。メインスピーカーを補うサブウーファーに低域を委ねると、メインスピーカーに余力が生まれ、高い音圧とダイナミックスを実現できます。組み合わせを正確に実現するために、クロスオーバーを使用します。クロスオーバーは、オーディオ信号を2つ以上の周波数域に分割し、別々のスピーカーユニット、またはドライバーに送ります。全てのQSCパワードスピーカーとサブウーファーはクロスオーバーを搭載しています。
低域周波数領域の正確な再生
独自の音質や音色を持つ多くのフルレンジスピーカーと違って、正しく設計されたサブウーファーは、元の信号を色付けすることなく、そのまま出力します。音楽の「忠実な再生能力」というのは、広いダイナミックレンジと豊かな倍音、そして余裕のあるヘッドルームにより実現します。どのフルレンジスピーカーにも統合できるというのがサブウーファーの重要な性能の1つです。そのためには、メインスピーカーとサブウーファーにそれぞれに適合したクロスオーバー周波数を割り当て、スムーズに音をつなげる必要があります。
自由度の高いスピーカーレイアウト
メインスピーカーとサブウーファーを組み合わせたPAシステムの設置や移動は、フルレンジスピーカーのみの大型PAシステムより簡単です。特に高域を担うスピーカーは軽く設置が容易になります。しかし、設置した場所によっては、不要な反射や壁近くに設置したことが原因で低音がブーストされてしまい、再生される音の全体的な音質が損なわれることがあります。メインスピーカーの設置場所は聴衆を十分にカバーし、他の機材の邪魔にならないなど、通常多くの制限がありますが、サブウーファーの設置により自由度が上がります。ただし、守るべきいくつかのルールがあります。サブウーファーの後方にある壁により発生する音のキャンセルに関すること、バスレフポートが正しく働くためのクリアランスがあるかなどです。これを除けば、設置場所について幅広い選択が可能なため、最適なサウンドを容易に実現することができます。(詳細はHow to correctly place a subwoofer in a roomを参照してください)
サブウーファーをPAシステムに組み込む方法
ここ数年、「AUX mix」や「AUX fed subs」と呼ばれるミキシング技術が開発され、フロントオブハウス(客席側ミキサー)から、低域の不明瞭さをコントロールできるようになりました。この技術は幅広い用途に応用され、使用されています。
クロスオーバーの応用
PAシステムにサブウーファーを組み込む一般的な方法は、ミキシングコンソールのメイン出力をクロスオーバー・ネットワークに通し、信号を周波数バンド毎に分離して各バンドの信号を別々のアンプとスピーカーに送るというものです。パワードスピーカーとサブウーファーのシステムでは、ミキシングコンソールの出力はサブウーファーに送られ、ハイパスフィルターを通してメインスピーカーに送られます。
どちらのケースでも、この方法はシンプルであるという利点があります。1度PAシステムが構築されると、ミキシングエンジニアはサブウーファーを管理する必要がありません。しかしながら、低音を強調する必要のないチャンネルに対してハイパスフィルターを正しく設定しないと、ミックスは明瞭さを失います。
AUX MIX手法
サブウーファーをPAシステムに組み込むもう一つの方法は、サブウーファーに専用のAUXミックスを送る方法です。信号は「ポストフェーダー/ポストEQ AUXセンド」から取ります。このAUXミックスにルーティングしている各チャンネルフェーダーの位置を変更すると、クロスオーバー方式と同様に、サブウーファーのレベルも変化します。
AUXミックスは、重要な低音パート(ベース、バス・ドラム、電子ベースサウンドなど)のチャンネルから構成します。この方法の大きな利点は、サブウーファーにより低音を強調する必要があるパートのみを選択して出力できる点であり、メインに低音の濁りが入り込むのを防げることです。
結論
サブウーファーの導入により、音楽に全く新しい次元が加わります。優れたサウンドのサブウーファーは、低音を強調し過ぎることもなく、音に色と深み、インパクトを与えます。魅力的なベースリフや陶酔するドラムビートから非常に複雑なエレクトロベース・サウンドまで、高性能サブウーファーは、サウンドに新たな厚みを追加し、パフォーマンス全体を高めます。
サブウーファーは、通常100Hz以下の周波数を担い、メインスピーカーでは再生できない最も深い低域を出力します。メインの音量ははっきりと分かるほど増えませんが、メインスピーカーとサブウーファーの負荷を分散し、PAシステムのサウンドに高いレベルの明瞭さと豊かさを加えることができます。