
全ての会場において、スピーカーのカバレージを考慮する必要があります。例えば、天井の低いクラブではラインアレイシステムを吊るのに十分な垂直スペースが確保できませんし、屋外の音響設備では壁がないため、多くの制約があります。
屋内会場
屋内会場には、スピーカーの有無は別として、部屋の音響特性を考慮して設計された会場と、考慮されていない会場に分類されます。プロが運営するライブ会場でさえも、最大の課題は、観客に快適で、過不足ない適度な残響音を得ることです。残響を管理するための鍵は吸音対策であり、特別に設計された吸音材や大きな家具、厚手のカーテンなどに依存します。スピーカーを分散配置し、必要に応じてフィルやバルコニー用スピーカーを使用することで、観客を適切にカバーすることができます。
屋外会場
室内では残響が大きすぎると音が濁って聞き取りにくくなりますが、屋外では逆に自然な残響が少ないのが難点です。ボーカルや楽器にリバーブ・エフェクトを掛けても、音のカバレージを改善することはできません。そのため、水平方向と垂直方向に十分なカバレージを持つスピーカーを選択し、ディレイをかけたサイドフィル・スピーカーを使用してカバレージを大きくすることが解決策になります。
スピーカーの水平カバレージ
会場の水平方向カバレージを正しく設定するには、中央部に特に音量が大きいホットスポットの範囲を少なくして、いかにして客席の幅全体をカバーするかということです。2台のスピーカーのカバレージが重なった場合の音圧レベルは、1台のスピーカーがカバーするエリアよりも3dB大きくなります。
ステレオかモノラルか
ライブサウンドの場合、必ずしもステレオ再生が最適とは限りません。実際、PAシステムをモノラルで運用する場合も多く、その主な理由は2つあります。
まず、PAシステムの設定によっては、会場のどの位置にいるかでステレオ感が大きく異なります。ミックスの中で左右にはっきりとパニングされた楽器の音は、左右の反対側に座っている観客には伝わりません。
次に、会場全体に位相の問題が生じる危険性が高くなります。これはコームフィルタリングと呼ばれる現象で、会場内の場所によって異なる周波数帯域がブーストまたはカットされます。
水平方向のカバレッジを最適化する
一般的にスピーカーは、マイクや楽器とのハウリングのリスクを減らすため、ステージ、または演奏エリアの前方に、演奏者から離れて客席に向けて設置する必要があります。
まず、ステージの両側にスピーカーを配置し、観客席に向かってまっすぐ設置している、ごく一般的なステレオセットアップ例を考えてみましょう。この例で使用したQSC K10.2スピーカーは、90度のカバレージ(-6dB)を持ち、比較的一般的なパターンで出力します。

1. スピーカーの前方に、2つのスピーカーのカバレージが重ならない部分がかなりあり、リスニングエリアのかなり広い範囲に1つのスピーカーの音しか聞こえないエリアがあります。このため音が偏って聞こえ、臨場感がなくなります。さらに、会場の前方にいる観客に対する立体音響効果(パンニング、リバーブなど)も望めません。
2. 適切なステレオ音響を感じるエリアはステージから離れた場所に限定されます。
3. 近くの側壁からの直接反射(距離a)は、ステレオ音響を感じるリスニングエリアに影響を与え、反射音のレベルを上げ、不要な音色を加え、音源定位をぼかし、明瞭度を低下させます。

スピーカーをわずかに内側に向ける(この場合は25度)ことで、影響を大きく軽減することができます。
1. スピーカーのカバレージ(90度)がより広い範囲に重なり、ステージにより近くなるため、ステージに近い観客もステレオ再生を楽しむことができます(左右の音の時間差が35msより小さいことが条件)。
2. ステレオフィールドは広くなっただけでなく、会場の後方までスムーズに広がっています。ほとんどの聴衆が両方のスピーカーから効果的にカバーされています。また、リスニングポジションが中央から外れた場合でも、遠くの観客はスピーカーのカバレージ範囲内にあり、近くは範囲から外れていることに注意しましょう。ただ、ほとんどのリスニングポジションで、各スピーカーの音量は同じようなレベルにあります(最初の図1では、近い方のスピーカーの音がより大きくなります)。
3. 各スピーカーと両側壁の反射の距離がかなり大きくなっています(最初の図と比較して、左右の距離は2aのように倍になっています)。まず、サイドウォールの反射が弱くなり、よりバランスよく聞こえるということで、サウンドステージのイメージがより安定することにつながります。次に、スピーカーの直接音が初期反射音と比率して大きくなり、室内残響のレベルが下がり、その影響を受けやすい客席エリアが最小化されます。
実際のところ、上図にあるような急激な変化にはなりませんが、それでも全体的な効果はかなり顕著に現れます。最適な内向き角度は、部屋の大きさや形状、使用するスピーカーのカバレージパターンによって異なります。目標は常に、反射音を最小限に抑えるようにすることです。
次回は、、 第1回でスピーカーの放射空間と背面壁のキャンセル現象、第2回で室内音響の基本変数、「臨界距離」と「逆二乗則」、第3回で水平方向のスピーカーカバレージを詳細に検討してきましたが、最終回は特に垂直方向のスピーカーカバレージに焦点を当てて、このシリーズを終えたいと思います。ご期待ください。