
まず、通常のサブウーファーから放射される低音域の音波エネルギーは、200Hz以下の場合、指向性はありません。音波の波長は低音になるほど長くなるので、音波の長さがサブウーファーのトランスデューサーとエンクロージャーの寸法よりはるかに長い場合、サブウーファーが指向性をコントロールできずに全方向に音波が放射されます。
カーディオイド放射
低音域の指向性を持たない放射は、ハウリングを起こしたり、部屋の一部に低音をこもらせたり、近隣に迷惑をかけたりと問題となります。1950年代後半から、音響技術者はサブウーファーを複数使用し、遅延、極性、出力レベル、ユニット間の距離を慎重に調整し、放射されるエネルギーに指向性を持たせることに成功しました。カーディオイド放射(またはハート型)と呼ばれるこのパターンは、ユニットの前方ほど音量が大きく、後方ほど音量が小さくなる指向性です。
このようなカーディオイド放射を実現するために、2つの方法があります。1つは前方放射と後方放射の両方のドライバーを同じエンクロージャー内に搭載したカーディオイドサブウーファー・ユニットを設計する方法(QSC KS212Cサブウーファーなど)。もう一つは、複数のサブウーファーを使用し、それぞれのユニットに指向性を実現するDSPプリセット(前方用、後方用)を設定する方法です(QSC KS118モデル)。複数のユニットを一緒に使用すると、後方に最大15dB減衰させるカーディオイド放射パターンを生成できます。
カーディオイド放射設置
では、簡単にベストのカーディオイド放射パターンを生成するには、どのように複数のサブウーファーを配置するべきでしょうか。
カーディオイド動作に必要な処理は、各KS118サブウーファーのDSPにすでにプログラムされています。前方(客席側)を向いている各サブウーファーは「Forward」カーディオイドプリセットを選択し、後方に向かせたサブウーファーは「Rear」プリセットにします。そして、同じ音声信号を両方のサブウーファーに送り、それぞれのゲインを同じに設定します。

問題は、サブウーファーをどのように配置するべきかです。3種類の配置が考えられますが、ステージや会場のレイアウト、ステージに対する観客の位置、ステージにあるビデオ・スクリーンの位置などを考慮する必要があります。
解決策1:サイド・バイ・サイド
サブウーファーKS118を横に並べると(図2)、設置スペースを節約でき、観客からの見栄えも悪くありません。精度は高くありませんが、カーディオイドパターンが形成されます。

解決策2:スタック
サブウーファーKS118を2台重ねて設置しても(図3)、横に並べた場合と同じような効果が得られます。この配置は設置面積を小さくできるため、狭い会場では有利になります。

解決策3:バック・トゥ・バック
サブウーファーを背中合わせに配置すると(図4)、後方に15dBの音響減衰が発生し、最高の指向性が得られますが、ある程度の設置面積は必要になります。

サブウーファー3基使用したカーディオイドアレンジ
前方に2個、後方に1個のサブウーファーを配置すると、前方の音響出力は申し分ないですが、後方の減衰効果は十分とは言えません。この場合も設置面積が少ないスタック配置は、バック・トゥ・バック配置よりも最適とは言えません。

まとめ
サブウーファーのカーディオイド配置は非常に有用です。低音域が外に漏れないようにしたり、会場内での低音を抑えたり、ステージ上の低音のフィードバックを最小にできます。大きな会場や屋外でオーディオ・イベントを行う場合、カーディオイドサブウーファーによる後方音響エネルギー低減はサブウーハーの用途と効果を大きく広げます。
複数のQSCサブウーファーを指向性を持たせるようにで配置することは、セットアップの方法を理解すれば簡単です(このテーマについてのビデオもご覧ください)。ではさっそく低音のリスニングをお楽しみください。