ついにストラトキャスター発表から2024年で70周年を迎えた。そして10年に一度のANNIVERSARY YEARでもある。毎回、ストラトフリークはどんな仕様が発表されるかお祭りの如くワクワクする。

Fender USA 2005年 カタログ裏表紙 大勢のアーティスト写真は世界中にFenderユーザーがいる証。
Fender社初のANNIVERSARYモデルは25周年1979年のラージヘッド、メイプルネック、白系のボディのストラトだった。しかし塗装方法のトラブルでボディにクラックが入り、シルバーに変更された。今でも市場でよく見かけるストラトである。
ストラトの一般オーダーが始まったのは1954年10月といわれるが、Fenderセールスを通して市場に発表されたのは1954年5月からだから、ちょうど70年前。日本はまだまだ成長過程の昭和29年。1950年代のアメリカの黄金期を象徴した楽器である。
1954年製ファーストモデルは今でも、現代のミュージックシーンにおいて充分通用する音色を奏でる。
スタイリッシュな デザイン、ネジで容易に製作できる作業方法、リペアしやすい構造、厳選されたマテリアルは奇跡としか言い様のない完成度である。
今ではヴィンテージ楽器店でガラスケース越しに鎮座されており、高級車が買える程の高額の表示がされたプライスタグをネックに挟んである。
レスポール・スタンダード・モデルと並んでこれからも音楽シーンを牽引してゆくことだろう。
サウンドハウスでは70周年アニバーサリーストラトを 4機種販売しているが、一番オリジナルに近いこのモデルをピックアップしたいと思う。
FENDER ( フェンダー ) / 70th Anniversary American Vintage II 1954 Stratocaster
今回レビューするアニバーサリー・ストラトキャスター(以下ST54)は、結論から言えば過去のアニバーサリーモデルと比較して価格も仕様もスペシャルである。
20年前の2004年には、CUSTOM SHOPの各マスタービルダーがそれぞれの解釈で記念モデルを製作したのが脚光を浴びた。現在は値段が高騰しており、市場にも滅多に出ない。
10年前の2014年はレリック加工の激しいモデルがフラッグシップモデルとなり、その下にサンバーストのモデルを中心に価格帯を分けて幾つかバリエーションをもって発表された。
この70周年ST54は本格的にオリジナルに迫りながら、価格を抑えている感じがする。30万円台と決して安くはないが、歴代のアニバーサリーストラトと比べても完成度が高いのではないか。
では1954年製オリジナルモデルと比較しながら見てゆこう。

Fender JAPAN1991年カタログ 近年、プレミアがついているEXTRAD。ベーシックモデルのローズ指板は¥110000、右の54年モデルは¥120000。状態が良ければ今なら中古市場でST54 と同じ位の価格がする......。貴方は左右どちらのストラトが好みだろうか?
ヘッド
1990年代のCUSTOM SHOP製1954ストラトキャスターはオリジナルと大きく違っていて、一回り大きいカーブを描いていた。今回のST54は54年製のように面取りが大きく、忠実に再現している。この一回り小さなヘッド形状は54年製だけに見られる物である。(54年製はほとんどが手作業のため個体差がある。)
ネック
通常のアニバーサリーモデルはネックのラジアスをフラットにしてより現代的なテクニカルな奏法に適する様に仕上げたモデルが多いが、ST54はオリジナルの7.25ラジアスである。
ハイエンドストラトタイプに慣れたプレイヤーなら平らな指板を好むが、ノーマルなストラトに慣れたギタリストにとって、オリジナルのラジアスはそれほど気にならないと思う。チョーキングで音が詰まりやすいなどウィークポイントも懸念されるが、私個人的には今までオリジナルで困った事は無い。ストレスなく弾けるだろう。
ネックの形状
Cシェイプでやや太めながらしっかり握れる。スリムシェイプを使うプレイヤーなら慣れが必要かもしれないが、確実に握れるのでコードが押さえやすい。私は手が小さめだが、単音弾きでも、コードを押さえる際のストレッチも全く問題がない。
ナット
牛骨。主に樹脂を使う同社であるが、ここもオリジナルに忠実。
ドット・ポジション
これは見逃しがちな細かい箇所であるが、2000年前後のCUSTOM SHOP製1954年モデルのストラトポジションマークの12フレットの間隔はオリジナルと違っていた。この点も忠実に再現されている。
ボディ
ST54で一番のセールスポイント。なぜならボディ材のAshは近年絶滅危惧種になりつつあるからだ。私は一昨年、楽器関係者からその噂を聞き、最近インターネットでも同様の事を述べている動画を見て確信した。
主要産地である、アメリカ合衆国での洪水でAshが被害にあっているそうである。また害虫が木を食い荒らしているとの情報も聞く。
ちなみにコピーモデルに使われる事の多い「セン材」は木目は似ているが音色が異なる。
Ash材はストラトキャスター生産開始から数年しか使用されず、以後20年程アルダー材に変更する。ちなみに70年代から80年代のAsh材は50年代のAsh材とは違う。
アルダー材の方が軽くて、加工がしやすく、値段も安くて、音も評判が上々と良い所ずくめであったが、Fender社サイドはAsh材をトーンや木目の点で推奨していた。
はっきりと際立つ木目は一本一本違うのでルックスに個性があり、ST54はアルダー材と異なり、ボディがより楽器らしい高級感あるオーラを醸し出しているだろう。
Ash材とアルダー材の音の違いは、パンチ力と音の輪郭の際立ちが主な違いだ。硬質でクリスタルなトーンは、アルダーボディ・ローズ指板ストラト特有のメローなトーンとは一味違う。
輪郭のある、それでいてダイナミックでドンシャリ傾向のAsh材が私は大好きだ。Gibson社で使われる事の多いマホガニー材とは対局にある材と言える。
また総重量はアルダー材ストラトより重めであるケースが多々あるが、その分、低域はよりアウトプットされる。
世界各国で物価高であり、限りある天然資源の木材も価格が急高騰している。今後、価格が上がる事はあっても下がる事はないだろう。つまり「木材が命」のギターの価格も今まで以上に高くなる可能性があるといえる。
写真はFender JAPANの22年前のカタログであるが値段をご覧いただくと納得できるだろうか。

Fender JAPAN 2002年カタログ ライトウェイト・アッシュ ボディ、米国製ピックアップ搭載、鉄製トレモロブロック。当時¥80000。今では信じられない値段の54年仕様。今回のST54も20年後には「買っておけば良かった。」とため息をもらす事だろう。
塗装はネックと同じくラッカー塗装。ヴィンテージ愛好家には定番の仕様。
電装系まわり
ST54が最高にこだわっている所。長年、ハイグレードタイプにしか採用されなかったピックアップカバーの形状、コントロールノブ、セレクターチップまで!デザインが可能な限り忠実に作られているのには驚いた。この白いレプリカパーツを揃えるだけでも高額なのに。
ピックアップ
ST54仕様にあわせて作られた物で、同価格帯のシグネチャーモデルエリック・ジョンソン・ストラトなどと同じようにオリジナルで、このST54 のために綿密に設計された物だ。購入したプレイヤーだけが体験できる極上のトーンを醸し出すだろう。
PUセレクタースイッチ
オリジナルと同じく三点式。五点式でハーフトーンを容易に求めるなら音色を変えず僅かな改造で可能。昔のプレーヤーは三点式でハーフトーンを出していたが。
ボディ・バック
限りなく完全コピーに迫る箇所がある。トレモロバックプレートだ。弦を通す穴が楕円形ではなく丸い。ここまで再現するか?と、また思ってしまう。
発売当初、シンクロナイズド・トレモロ・ユニットはフローティング状態で出荷されていた。
きちんとトレモロブロックがどの位置に「傾くか」オーナーズ・マニュアルまで付属してあったので、弦を通す位置もぴったり合う設計であった。そのため、同社の設計の意向によりぴったりトレモロブロックが位置するためバックプレートの弦を通す穴が、楕円形ではなく丸形であったのだ。
現代においては苦笑してしまう。プレイヤーにとっては「困った仕様」だ。おそらく、ほとんどの人はバックプレートカバーを楕円形の穴のタイプに交換するか、外してしまうと思うが、この価格帯でここまで再現するFender社の意気込みが感じられる。
トレモロ・バック・カバーは使わなくても大事に保管しておこう。再び入手するのに国内外パーツメーカー探して数社で買えるか否かだ。多分、入手できない可能性があるから。
なお、極初期はバックプレート上部にシリアルナンバーが刻印されていた。本機はネック・ジョイント・プレートにシリアルナンバーが入っている。これは恐らくバックプレートにナンバーを刻印したモデルが001~200番に満たなかったので避けた処置と思われる。
以上、ST54の特徴を述べてきた。30万円台のギターと決して安くはないが毎回のアニバーサリーモデルと負けず劣らず素晴らしい。
2024年現在、1970年代後半のラージヘッドストラトキャスターと同じ価格帯だ。
貴方は70年代と70周年どちらが好みだろうか?
特にギター歴が長く、オリジナル・ストラトキャスターにこだわりを持つギタリストには自信を持っておすすめする。
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