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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その164 ~日本のフォーク名盤探索 フォークの名盤を支えた鍵盤楽器 かぐや姫編~

2023-12-08

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

日本のフォーク名盤探索 最終章

今回の名盤特集のパートⅢ最終回は、前回に続き日本のフォークソングの名盤や名曲を取り上げ、鍵盤楽器がフォークソングにどのような形で機能したのかを考えます。
70年代は日本のフォークソングにとって一番いい時代でした。音楽家のある種の熱が若者のニーズと相まって日本特有の音楽文化を築きました。
その音楽の裏側には今では重鎮となったキーボード・プレイヤーや私が好きだったドラマーなど、数多のミュージシャンの活躍がありました。
彼らがフォークソングのサポートを務めていた時代にスポットをあて、かぐや姫の音楽を別角度から検証したいと思います。

ある種最もフォークソング的だったユニット

かぐや姫は伊勢正三さん(ギター)と山田パンダさん(ウッドベース)、南こうせつさん(ギター・以下敬称略)によって結成されたフォークグループ。吉田拓郎や井上陽水が提示したフォークソングとは位相が異なり、情緒的要素の強い音楽志向を持ち合わせていました。
かぐや姫と言えばやはり「神田川」です。昭和という時代の若者文化の断片を切り取り、ワンシーンを描き出したこの楽曲は「同棲」というブームを作り出し、「四畳半フォーク」という新しいジャンルを生みだしました。

トラディショナルな鍵盤楽器の活躍

井上陽水、吉田拓郎と同様、かぐや姫もギター1本でも歌える楽曲が多い一方で、様々な鍵盤楽器がフィーチャーされています。
ハモンドオルガンやフェンダーローズ・エレクトリックピアノ、アコースティック・ピアノなど、今でもミュージシャンから支持され続けるエバーグリーンなサウンドがかぐや姫の音楽にも息づいているのです。

■ 推薦アルバム:『かぐや姫LIVE』(1974年)

かぐや姫にとって2枚目のライブアルバム。1974年7月に京都会館と大阪厚生年金会館でライブレコーディングされた。アコースティックギターやフラットマンドリン、3人のコーラスワークなどが中心となったアンサンブルが聴けて、フォークソングファンにとって親しみやすいアルバムとなった。
一方、「ペテン師」などエレクトリック楽器を取り入れたバンドアンサンブルも収録されており、かぐや姫の懐の深さを知る演奏が楽しめる。

推薦曲:「ペテン師」

楽曲は伊勢正三。「ペテン師」はハモンドオルガンが重要な役割を担っている。イントロからのスピード感のあるフレーズはフォークソングとは思えない。サビからレスリースピーカーを高速回転に切り替え、グリッサンドからコードバッキングするのはハモンドオルガンの典型的スタイル。
ドラムは若き村上ポンタ秀一が務めていて、ハモンドを交えてのイントロにおけるハイハットワークはポンタお得意のフレーズ。2人によるアンサンブルは楽曲最大の聴きどころだ。

■ 推薦アルバム:『かぐや姫フォーエバー』(1975年)

かぐや姫の解散に伴いリリースされた2枚組のベストアルバム。かぐや姫のヒット曲やライブ録音された楽曲など、バラエティ豊かなラインナップになっている。
このアルバムのエポックは「この秋に」「おもかげ色の空」「今はちがう季節」「あの人の手紙」など、5曲が新録音で聴けることだ。松任谷正隆氏がアレンジや演奏に関わっている。アコースティック・ピアノソロやシンセサイザーソロなど、彼の演奏も聴きどころの1つだ。

推薦曲:「僕の胸でおやすみ」

かぐや姫の4枚目のシングル。この楽曲はオリコンシングル売上ベスト100に初めてランクインした。作詞・作曲は山田パンダ(つぐと)。リード・ボーカルは南こうせつが務める。
フェンダーローズ・エレクトリックピアノの爽やかなイントロが耳に残る。楽曲全体の骨組みをフェンダーローズが支えている。
特筆すべき点はチェロ、フルート、ストリングスの音色。アレンジャー、石川鷹彦氏がメロトロンによるアンサンブルを担っている。楽曲終盤のメロトロンによるストリングス音はキング・クリムゾンの名曲「エピタフ」のストリングスと同じ音がしている!
シングルB面の「アビーロードの街」では売れない頃にコーラスで稼いでいた山下達郎の声を聴くことができる。

メロトロン, CC BY-SA 2.0 DEED (Wikipediaより引用)

メロトロンは鍵盤の数だけテープレコーダーが付いているキーボード。鍵盤を押したときにそれがスイッチとなり、テープが走り、弦やフルートなどの音が出る仕組み。テープの長さは決まっている為、鍵盤を押した8秒間しか音は出ない。
キング・クリムゾンやムーディ・ブルースなどプログレシブ・ロック系のミュージシャが好んで使用した。実際の楽器とは異なるが独特の音がする。高音部が微妙に擦り切れたように聴こえるのはメロトロンの特徴で、この音に惹かれるミュージシャンも多い。

推薦曲:「おもかげ色の空」

『かぐや姫フォーエバー』のために新しく録音されたトラック。新録音の「この秋に」でピアノを松任谷正隆が弾いていることから、この「おもかげ色の空」も松任谷が弾いていると考えられる。『かぐや姫おんすてーじ』のアレンジとは異なり、スティールギターが大きくフィーチャーされたウエスタン調になっている。このトラックでの最大の聴きどころは松任谷正隆によるアコースティック・ピアノのソロ。当時の音楽的志向を垣間見ることができる。

推薦曲:「今はちがう季節」

松任谷正隆によるアレンジ。上記同様『かぐや姫フォーエバー』の為に新しく録音されたトラック。ミニモーグシンセサイサーとハモンドオルガンによる印象的なイントロはいかにも彼らしい。中盤のミニモーグによる素朴なソロもポルタメントの使い方が上手い。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:かぐや姫、松任谷正隆、村上ポンタ秀一など
  • アルバム:『かぐや姫LIVE』『かぐや姫フォーエバー』
  • 推薦曲:「ペテン師」「僕の胸でおやすみ」「おもかげ色の空」「今は違う季節」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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