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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その158 ~隠れ名盤探索 洗練のバラードミュージックの極致~

2023-10-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

不定期の隠れ名盤探検隊2

今回の鍵盤狂漂流記はジム・メッシーナの音楽を取り上げます。

私がジム・メッシーナの音楽に触れたのは、ひょんなキッカケからでした。
そのキッカケとは、1980年に大ブレイクした田中康夫さんの小説「なんとなくクリスタル」です。この小説にはお金持ちでブランド志向な女子大生の日常が描かれていました。バッグはグッチ、ディナーは青山の高級レストラン、住まいは都内の高級マンション……。若者はこの小説に憧れを抱き、物語を自身に重ねました。当時の日本は高度成長期の真っただ中。世間はそんな志向を持つ若者達をクリスタル族と揶揄しました。
一方、クリスタルという言葉自体も社会を席巻。グローバー・ワシントンJr.の大ヒット曲「JUST TWO OF US」の邦題に「クリスタルの恋人達」というタイトルまで付けられたほどでした。
「なんとなくクリスタル」は映画化、サントラ盤もリリースされましたが、その内容はと言えばポール・デイビス「I Go Crazy」、ボズ・スキャッグス「We Are All Alone」、トト「99」など、お洒落なAORがずらり。
そんな中、当時の私は映画のワンシーンを観ていて流れてきた美しいバラードに耳を奪われました。そのバラードを書いたのがジム・メッシーナでした。

ジム・メッシーナとは

ジム・メッシーナは1947年生まれの75歳。カリフォルニア州出身のアメリカ人シンガーソングライター、ギタリスト、音楽プロデューサーでもあります。
アメリカの伝説的バンドであるバッファロー・スプリングフィールドやポコに在籍。コロンビアレコードの時にケニー・ロギンスのデュオ、ロギンス&メッシーナを結成し、その名が知られるようになります。このアメリカンポップを中心にしたデュオでは2,000万枚にのぼるアルバムセールスを記録。名実共にトップスターに登りつめています。

■ 推薦アルバム:ジム・メッシーナ『オアシス』(1979年)

ロギンス&メッシーナ解散から3年後に発表したソロ・デビュー作。まさに隠れ名盤と言っていい素晴らしいアルバム。アルバムジャケットは白い麻シャツを着こなしたご本人のポートレート。メキシコのカンクンビーチ辺りで撮影されたものか?半端ないリゾート感が漂っている。
ロギンス&メッシーナ路線とは全く異なる味付け。この人がラテンをベースにしたジャズフュージョンを展開するとは夢にも思わなかった。というかこんなことができる素養がこのミュージシャンにあったのかというのが正直なところ。しかし歌に入ると紛れもなくあのジム・メッシーナなのだ。
収録曲はどれも優れていてジャケット同様、リゾート感に溢れている。私はこのジム・メッシーナの側面を断然気に入ってしまった。ホーンセクションを使った16ビートの音楽は技術的にもアメリカンポップスよりも高度なスキルが求められる。意外という言葉を通り越したメッシーナの音楽は奇をてらったものではなく、メッシーナのハイレベルな一面を物語っている。

推薦曲:「ニュー・アンド・ディファレント・ウェイ」

ファンキーなラテンフージョンタッチの名曲。リゾート感を全面に出した小気味良い演奏の上にジム・メッシーナのボーカルが乗る。どちらかと言えばカントリータッチのミュージシャンとお見受けしたがこういった楽曲を演らせても違和感はない。リラックス感漂う16ビート。オープニング・ミュージックとして申し分ない内容だ。
この曲はシングルカットされ、全米チャートの43位を記録している。

推薦曲:「シーイング・ユー(フォー・ザ・ファースト・タイム)」

私が「なんとなくクリスタル」の1シーンで虜になった名曲。ベースのオープニングにジム・メッシーナのテレキャスターが紡ぐメロディが絶妙に絡む。イントロのメッシーナによるギターソロを聴けば彼が並みのギタリストではないということが分かる。短い小節でドラマチックに歌い上げる構成は見事としか言いようがない。フェンダーローズ・ピアノのバッキングもツボを押さえている。
Aメロからサビへ展開するメロディラインも秀逸。コーラスの使い方も上手い。この辺りはメッシーナがレコード会社でプロデューサーを務めた影響もあるのではないかと思う。様々な音楽を熟知した上での引き出しが豊富なのだろう。

アウトロを演奏するクレイグ・トーマスのサックスソロも楽曲のムードを際立たせている、AORの歴史に残る名曲だ。「なんとなくクリスタル」のサントラ盤ではもう1曲、ボズ・スキャッグスのアルバム『シルク・ディグリース』に収録された「We are all alone」というバラードの名曲があるが、こちらは表舞台の大名曲。ジム・メッシーナの「Seeing you」は「We are all alone」と双璧をなすものであり、裏舞台の大名曲といってもいいかもしれない。

■ 推薦アルバム:ジム・メッシーナ『メッシーナ』(1981年)

アルバム『オアシス』で高度な音楽路線を突っ走ったジム・メッシーナだったが、このアルバムではその要素は影を潜めシックなアメリカンロックに回帰している。メッシーナはこの後のアルバム『ワン・モア・マイル』でも同様な路線を継続しており、本来の姿はこういったアメリカンポップスだと認識させられた。

推薦曲:「ムービング・ユア・ハート」

ジム・メッシーナが本来の姿に戻って書いた(というよりもレコード会社の意向だったのかもしれない)アメリカンポップスのバラード。
美しいアコースティックピアノのイントロから始まり、カントリータッチのメッシーナメロディが展開される。「ブルージーンとセーターを着た君が好き…」という日常を描くアメリカンポップの典型。ブレイクの使い方も上手い。ジム・メッシーナ印のテレキャスターによるパキパキ音のギターソロは彼ならでは。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ジム・メッシーナ、ボズ・スキャッグスなど
  • アルバム:『オアシス』『メッシーナ』
  • 曲名:「ニュー・アンド・ディファレント・ウェイ」「シーイング・ユー」「ムービング・ユア・ハート」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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