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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~その37 

2021-05-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

渡辺貞夫電気ジャズ考 PARTⅠ

渡辺貞夫さん(以下敬称略)は日本のジャズ界の重鎮であり、世界にその名を知られているジャズレジェンドです。その温かな音色と親しみやすい楽曲でジャズというカテゴリーに限定されることなく、多くのファンを獲得しています。勿論、バークリー音楽大学を出ているので背景に絶対的なジャズのメソッドがあるのは云うまでもありません。渡辺貞夫の自叙伝を読むとバークリー時代はかなりの優等生だったことが分かります。生まれながらの才能とたゆまない努力が今の渡辺貞夫を作っているのでしょう。私が貞夫さんを取材した時にはフレンドリーな方である反面、音楽への厳しい視点を持つ方という印象を持ちました。その時はオーチャードホール公演の打ち合わせとリハーサルで自身のバンドを電気ジャズバンドとおっしゃっていたのが記憶に残っています。

1970年後半から80年代の渡辺貞夫ミーツ、キーボーディスト&ミュージシャン

私は80年代に渡辺貞夫のライブに数多く足を運びました。面白いのは渡辺貞夫の音楽の本質は変わらないものの、参加しているミュージシャンによって曲のニュアンスが変わることです。演奏者によってリズムのノリが変わったり、各ソロのアプローチが変わるのは聴き手にとって興味深いところであり、それこそがライブの醍醐味とも云えます。特に渡辺貞夫のライブではプレイヤー各自のソロ回しが聴きどころになります。今回は渡辺貞夫の代表的アルバムと、代表曲のライブリポートを交えて進めます。
当時の渡辺貞夫の音楽に貢献したのはキーボーディストではデイブ・グルーシンです。デイブはウエストコーストを代表するキーボーディストであり、アレンジャーであり、プロデューサーです。デイブは1977年の渡辺貞夫の「マイ・ディア・ライフ」に参加以来、長い間に渡り、渡辺貞夫の音楽に関わり、難しかったジャズを幅広い聴き手にリーチする親しみ易い音楽に変えました。そのアルバムが「カリフォルニア・シャワー」であり「オレンジ・エクスプレス」だったのです。デイブは独自のレーベル「GRP」を創設し、ジャズ・フュージョンという新しいジャズの形を提示しました。

■ 推薦アルバム: カリフォルニア・シャワー(1978年)

渡辺貞夫の大ヒットアルバム。デイブ・グルーシンを音楽監督に迎え、分かりやすく、親しみやすいジャズの形を提示した。メンバーにはウエストコーストの名手、リー・リトナー (g)デイヴ・グルーシン (kbds)アーニー・ワッツ (sax)チャック・レイニー (b) ポーリーニョ・ダコスタ (perc) 等が参加。ジャズといえば、難しい、分かりにくいという先入観があるが、イディオムとしてのジャズは存在するものの音楽表現の間口の広さで多くのリスナーを獲得した。

推薦曲:『カリフォルニア・シャワー』

フェンダー・ローズピアノ(電気ピアノ)のカリプソ的なイントロからしてこれまでのジャズとは違う印象を受ける。渡辺貞人の親しみやすいメロディーと温かな音色が聴き手をリラックスさせてくれる。ライブのマストアイテムとして定着している曲。私もライブで何度も耳にしている。一番近々に聴いたのは2019年の静岡でのライブです。メンバーはキーボードがデイブ・グルーシン、ギターがリー・リトナーなどの当時のメンバー達です。面白かったのがドラマーのピーター・アースキン。ピーター・アースキンはウエザーリポートにジャコ・パストリアスと共に参加した名ドラマーです。カリフォルニア・シャワーのサビのドラミングがこれまで聞いたライブとは異なっていました。トップシンバルのニュアンスが4ビートを感じるノリで、とても素敵だったのを記憶しています。

■ 推薦アルバム:渡辺貞夫『オレンジ・エクスプレス』(1981年)

前作のカリフォルニア・シャワーの次作は音楽監督のデイブ・グルーシンは変わらないものの、西海岸系のミュージシャンではなく、東海岸系のRICHARD TEE (kb), ERIC GALE (g) GEORGE BENSON (g)JEFF MIRONOV (g) MARCUS MILLER (el-b) BUDDY WILLIAMS (ds)等のミュージシャンを起用。前作とは異なるニュアンスの音がアルバムに反映されている。

推薦曲:『ライド・オン』

『ライド・オン』も80年代の渡辺貞夫のライブには欠くことのできない楽曲でした。この曲も様々なライブで聴きましたが、印象深かったのはキーボードプレイヤーがフィリップ・セスでフィリップが楽曲のキメの部分を当時流行っていたオケ・ヒットのサンプリング音で弾いていたことでした。当時新進気鋭のキーボードとして飛ぶ鳥を落とす勢いだったフィリプ・セスらしいアプローチであると感心した記憶があります。

■ 推薦アルバム:渡辺貞夫『オータム・ブロー』(1977年)

リー・リトナーとジェントルソウツのメンバーを招いた新宿厚生年金会館でのライブ。キーボーディストはパトリース・ラッシェン。パトリースのピアノプレイは素晴らしく、ノリノリのグルーブをバントにもたらしています。ベースはアンソニー・ジャクソンとドラマーのハービー・メイソン。最強のリズム隊です。『ラプチャー』の冒頭でハービーらしいドラムソロも聴くことができます。2019年にホノルルに出かけた時にブルーノートでハービー・メイソンバンドを観る機会がありました。ハービーはご高齢だとは思いますが、その時のドラムソロがオータム・ブローのドラムソロとそっくりそのままで笑ってしまいました。

推薦曲:『チェイサー』

チェイサーはフレーズに勢いのあるキャッチーな曲です。渡辺貞夫のソプラノサックスソロも冴えわたっています。この曲はデイブ・グルーシンの弟であるドン・グルーシンが2004年のソロアルバム「The Hang」で取り上げています。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • 渡辺貞夫 など
  • アルバム:「カリフォルニア・シャワー」「オレンジ・エクスプレス」「オータム・ブロー」
  • 曲名:「カリフォルニア・シャワー」「ライド・オン」「チェイサー」
  • 使用機材:フェンダー・ローズピアノ、アコースティックピアノなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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