迷走続くキング・クリムゾン
今回はキング・クリムゾンが生み出した、奇跡の美しさを有する名盤『アイランズ』が誕生するまでの経緯からキング・クリムゾンの音楽を考えていきたいと思います。
旧クリムゾンメンバーからのインタビューによれば「ロバート・フィリップはメンバーを変えることでバンドを刷新していく」という内容のものがありました。
そのインタビュー通り、キング・クリムゾンの迷走はセカンドアルバムリリース以降も続きます。
ベースプレイヤーでありボーカリストのグレッグ・レイクが脱退。キング・クリムゾンの主要メンバーはギタリストのロバート・フィリップ、ホーンプレイヤー、メル・コリンズ、詩を書くピート・シンフィールドの3人になりました。
ロバート・フィリップはベースプレイヤーでありボーカリストのゴードン・ハスケルとドラマーのアンディ・マカロックをメンバーに加え、さらにイエスのボーカリスト、イアン・アンダーソンをゲストに迎え、サードアルバム『リザード』を制作します。直後にゴードン・ハスケルとアンディ・マカロックは脱退。アルバムは出したもののバンドは空中分解します。
その後、ボーカリスト、ベースプレイヤーのボズ・バレルとドラマーのイアン・ウォーレスを加え、紆余曲折を経て4枚目のアルバム『アイランズ』のリリースに至ります。
しかしロバート・フィリップはピート・シンフィールドとの確執により『アイランズ』リリース以降、クリムゾンの頭脳であったシンフィールドを解雇してしまいます。
■ 推薦アルバム:キング・クリムゾン『アイランズ』(1971年)

星雲が3つに割れていることで知られる、いて座に存在する三裂星雲(M20)をアートワークに取り入れたキング・クリムゾン初期の名盤。このジャケットのアイディアはピート・シンフィールドとされる。アルバムジャケットは当時のキング・クリムゾンの状況を反映したもの…と見てしてしまうのは私だけではないはず。
三裂星雲は英語でTrifid Nebula(3つに裂けた星雲)。
このジャケットからはロバート・フィリップ、ピート・シンフィールド、メル・コリンズと3つに裂けてしまったバンドを暗喩する、詩人シンフィールドのメッセージが聞こえてくる。
耽美的な色合いの強いアルバム『アイランズ』からは背景にあるバンドのゴタゴタなどは想像できない。
サウンド的にはピアニストのキース・ティペットや彼のビッグバンドのメンバーがゲストミュージシャンとして参加。アルバムの主軸的役割を担っている印象が強い。このアルバムではオーボエやコルネットといったソロ楽器が楽曲のムードを引き立て、クリムゾンのバンドサウンドを構築している。
推薦曲:「アイランズ」
キース・ティペットのアコースティックピアノが美しく響く。クリムゾンの楽曲の中でもトップクラスに耽美的であり詩的であり美しさを湛えた名曲。
後期のアルバムには「アイランズ」のような美しく透き通ったクリムゾンの世界は無くなってしまう。初期キング・クリムゾンにおけるピート・シンフィールドの存在の大きさはバンドが解体され露見してしまう。クリムゾンの次のアルバム『太陽と戦慄』『レッド』を聴けば自明の理だ。
アルバム『アイランズ』にはロバート・フィリップとシンフィールドとの共作が多い。しかしこの時点でフリップの頭の中にはピート・シンフィールドの耽美的な世界とは別に全く異なる音楽が鳴っていたのだと思う。その断片は他の楽曲から聴くことができる。
サウンド的には音域の異なる木管楽器や金管楽器、弦楽器等を配し、水彩画の様な楽曲を演出している。ボソボソと呟くようなボズのボーカルもこの楽曲にピタリとはまっている。
「アイランズ」はキング・クリムゾンの楽曲の中でも特異な構成を持っている。
実際に演奏をするメンバーの関係でこういった構成になったとも考えられる。特に後半のコルネットのソロは悪いわけではないがとても長い。しかし背景を彩るメロトロンはコルネットの音と相まって得も言えぬ耽美的世界を描き出す。この辺りはシンフィールドとキース・ティペットによるアレンジ力の賜物か?クリムゾンの真骨頂だと思う。
しかしながらメンバー不足によるセッション的要素が強い状況でピアニスト、キース・ティペットとビッグバンドによるサポートは出色。ティペットとそのビッグバンドによる音がバンドサウンドの中枢を担っているからだ。
一方、フィリップは追い込まれる中で次のバンドのことを考えていたのだと思う。
推薦曲:「ザ・レターズ」
アイランズ的な美しいメロディから一転し、ヘビーなリフの上をロバート・フィリップのギターインプロビゼイション(フィリップはアドリブのことをこう表現する)とメル・コリンズのサックスソロが炸裂。その後に冒頭の歌部分をもってくるというサンドイッチ構成。この曲も練られている印象は薄く、セッション的要素が強い。レコーディング時間も潤沢にあったとは思えない演奏内容だ。
歌のコンセプトはピート・シンフィールドが握ってはいるもののフィリップとコリンズのインプロビゼイションパートが楽曲の骨格を担っている。それ以外の演奏はピアニスト、メル・コリンズに委ねた印象が強い。
そしてこのインプロビゼイションパートこそがフィリップがバンドとしてやりたかったことではないかと想像する。そんな新たなクリムゾンミュージックの萌芽をこのインストパートから聴くことができる。この音はアルバム『太陽と旋律』やライブアルバム『USA』とベクトル的には同じ方向だからだ。
キング・クリムゾンが『アイランズ』まで持ち続けたクリムゾンミュージックの神髄はこのアルバムで絶頂を迎え、ピート・シンフィールドの世界は消失する。
後期キング・クリムゾンはギターインプロビゼイションを中心にしたインストミュージックに舵を切ることになる。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ロバート・フィリップ、ピート・シンフィールド、キース・ティペット、メル・コリンズなど
- アルバム:『アイランズ』
- 曲名:「アイランズ」「ザ・レターズ」
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