偉大なプロデューサーが関わる音楽はブランドになる
前回までのアストラット・ジルベルトの原稿を書いていてプロデューサーという存在を改めて認識することになりました。
私自身が聴いてきた好みのレコード、CDにはクリード・テイラーがプロデュースしたものが多く存在しています。このCDいいなと思い、クレジットを見ると同じ名前のプロデューサーの名が記されている……クリード・テイラーはそんなプロデューサーでした。
ミュージシャンも同様でギターソロが素敵だと思い、クレジットを見ると自分の好きなプレイヤーが弾いている。ピアニストもドラマーもベーシストも同様でした。
バンドだけではなくミュージシャンやプロデューサーの名前を探してレコード、CDを選択するという音楽の聴き方を私はしてきました。それが好きな音楽をできるだけハズレ無しで探す方法だったからです。もちろん、ハズレることもありましたが、当たりの確率を上げる効率的な方法だと長い時間をかけて学びました。
ミュージシャンの名前を辿る方法は音楽的には直接的ではあるものの、アルバム全体を俯瞰した場合はニュアンスが違ってきます。たとえばプロデューサーの存在はアルバム全体のタッチ、ムードを演出する役割が強いのだと思います。
プロデューサーの作り出すムード
江戸川乱歩生誕100周年を記念した映画「RAMPO」の監督であり、プロデューサーである奥山和由監督に以前、話を聞いたことがありました。
「RAMPO」は作品内に実際の映像とは異なるシーンの映像を1コマ挿入させる「サブリミナル」という効果を導入。映画を見ている人の深層心理に訴えるという試みで話題を集めました。
「どうしてサブリミナル効果を使うのか」という質問に対し、奥山監督は「RAMPO」という摩訶不思議な映画のムードを作り出すためだとお答えになりました。
まさに音楽におけるプロデューサーの仕事も同様です。プロデューサーは自分自身で音楽をプレイしないので(例外はありますが…)演奏に直接は関与しません。しかし、アルバム全体のムードを作り出す存在感こそが大きな仕事であり、ブランドになるのです。
トミー・リピューマが作り出すラグジュアリー感
話をトミー・リピューマに戻します。トミー・リピューマは1936年アメリカ生まれの音楽プロデューサー。マイルス・デイビスやジョージ・ベンソン、イエロージャケッツ、ダイアナ・クラールなどのプロデュースで知られています。多くのプロデュースをこなす中で、何度もグラミー賞を獲得しています。
トミー・リピューマのプロデュースした作品にはいつもある種の品格が漂っています。高級ブランド品に接したような感覚がトミーのプロデュース作品にはあるのです。
プロデューサーの見識、アーティストの特性を見極める能力とそれを際立てる「仕掛け」、どのミュージシャンを使うのか、どういう曲を揃えるのかなどがムードに強く関わってきます。アルバムを俯瞰した映像がプロデューサーの頭には描かれているのでしょう。その画をどう描くのかがプロデューサーの腕にかかってきます。
こういった話はクインシー・ジョーンズやクリード・テイラーなどの作品にも感じることではありますが、その味わいは微妙に異なっています。
■ 推薦アルバム:ジョージ・ベンソン『ブリージン』(1976年)

ジョージ・ベンソンのキャリア中、最も商業的に成功した傑作アルバム。ビルボード・チャートでPOP、R&B、ジャズの各部門1位を獲得した。ジャズというカテゴリーにあってポップチャートまで影響を及ぼすという快挙を成し遂げ、1977年、グラミー賞の最優秀インストゥルメンタル・パフォーマンス賞と最優秀アルバム技術賞、楽曲「マスカレード」では最優秀レコード賞を受賞している。 なんといってもプロデューサー、トミー・リピューマの「仕掛け」がアルバムの成功につながった。これまでジャズギタリストとしての括りだったジョージ・ベンソンに歌を歌わせたこと。そしてギターソロに合わせたスキャットも加えた。
ギタリストとしては圧倒的な技術を誇っていたものの、ジャズというカテゴリーにおいてはレコードの売り上げ枚数を稼ぐことはできない。そこにトミーの「仕掛け」が加わる形になった。ギターと同じフレーズを口ずさむことでジョージ・ベンソンのギタープレイに彩を加えた。そしてポップスとジャズ、相反するカテゴリーを融合させるという快挙を成し遂げた。
一方、トラディショナルなジャズを好むリスナーからは顧客に媚びた音楽でこれはジャズではない。ジョージ・ベンソンは本来こういった音楽を演るミュージシャンではない。ジョージ・ベンソンを見損なったという声なども多く聞かれた。
推薦曲:「マスカレード」
グラミー賞を獲得した名曲。ホルヘ・ダルトのアコースティックピアノに導かれジョージ・ベンソンのギターとユニゾンのスキャットから幕を開ける。
楽曲の良さもさることながら、美しい宝石に触れたような味わいを持つ。
ベンソンのくぐもった歌唱も影を帯びた楽曲のレベルを引き上げている。シンプルな楽曲アレンジではあるものの、このシンプルさがベンソンのボーカル、ギターとユニゾンのスキャットを際立たせている。
レオン・ラッセルのオリジナル曲をここまで洗練させた技こそがトミー・リピューマの持ち味であると確信する。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ジョージ・ベンソン、ホルヘ・ダルトなど
- アルバム:「ブリージン」
- 曲名:「マスカレード」
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