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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その51

2021-10-21

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

■マイケル・フランクスの音世界を演出したロブ・マウンジー 中編

今回の鍵盤狂漂流記はマイケル・フランクス中編をお送りします。マイケルの音楽はジャズやボサノバ等の複雑なコードハーモニーを要素に構築されています。70歳を超えてもインテリジェスに溢れる音楽は多くのファンを魅了し続けています。
マイケル・フランクスの音楽スタイルの基本軸はこれまでにブレたことはありませんが、プロデューサーによってお化粧の仕方が変わります。前回は初期のマイケルのアルバムを取り上げました。プロデューサーはトミー・リピューマです。長い間、トップ・プロデューサーとして音楽界に君臨し続けたザ・プロデューサーでマイケルのアルバムにもその卓越したセンスが反映されていました。
この特集はプロデューサーという切り口でマイケル・フランクスの音楽話を進めています。今回のプロデューサーはロブ・マウンジー。ロブは1952年生まれのミュージシャン、音楽プロデューサーでバークリー音楽大学卒業後、ニューヨークで活動をしています。

■ 推薦アルバム:マイケル・フランクス『愛のオブジェ』(1982年)

アルバムジャケットはニューヨークのメトロポリタン美術館収蔵のポール・ゴーギャンによる「2人のタヒチ女」が使われ、絵画好きらしいマイケルの作品となっている。
プロデューサーはニューヨークでは新進気鋭のキーボードプレイヤーであり、アレンジャー、作曲家だったロブ・マウンジーが務めている。ロブはプロデュースだけでなく、アレンジや鍵盤も担当するなど、八面六臂の活躍を見せている。
鍵盤楽器を生ピアノとフェンダーローズ・エレクトリックピアノしか使わなかったトミー・リピューマとは異なり、オーバーハイムOB-Xa、プロフィット5といったポリフォニックシンセサイザーを導入し、シンセドラムのシモンズを使用するなど、最先端のテクノロジーを駆使したアレンジが施されている。シンセサイザーの使い方もミニモーグシンセサイザーのような野太い音は使わず、マイケルの楽曲に合わせた端正なシンセ音が印象的なアルバムとなっている。
私がロブ・マウンジーを見たのはロブのバンド、「ジョー・クール」が来日した時で、メンバーはロブの他にクリス・パーカー(Dr)、ジェフ・ミロノフ(G)、ウイル・リー(B)のカルテットでした。このメンバーは『愛のオブジェ』以降のマイケルのアルバムでも共演しています。
フェンダー・ローズエレクトリックピアノの上に特注のブレスコントローラーを付けたローランドのジュピター8を使い、端正なキーボードプレイを聴かせていました。

推薦曲:『ジェラシー』

イントロはヤマハエレクトリックグランドCP-80から始まる。生のブラスアンサンブルが大きくフューチャーされ、ゴージャスなアレンジになっている。ブラスアンサンブルのメンバーはトランペット、ランディ・ブレッカー、ルー・ソロフ、テナーサックスはマイケル・ブレッカーといったニューヨークのファーストコールミュージシャン達を揃えている。
Aメロ部分はロブのCP-80、バディ・ウイリアムスのドラム、ニッキー・モロックのギター、フランシスコ・センティーノのベースというシンプルなアンサンブル。Bメロ部分でオーバーハイムのポリシンセOB-Xaが使われ、4ビートを意識したサビなど、マイケルの歌を聴かせるシンプルな構成ではあるもののカラフルなアレンジになっている。
白眉はベーシスト、フランシスコのスラップ・ベースソロと女性コーラス、ブラスアンサンブルが交錯する部分で、そのグルーブ感は秀逸。アレンジャー、ロブ・マウンジーの手腕が光っている。

ヤマハCP-80

グランドピアノの機構をそのまま採用し、電気ピアノとして発売。チック・コリアをはじめとするジャズプレイヤーを始め、八神純子など国内のミュージシャンもこぞって使用した電気ピアノの銘品。生ピアノとはまた違った音色ではあったが、当時のミュージシャンを虜にした。一方、重さが100キロを超えるなど、使いまわし等の問題があった。私もスタジオで使いましたが、キータッチといい、出音といい、重さ以外は文句のつけようのない、素晴らしいエレクトリックピアノでした。

■ 推薦アルバム:マイケル・フランクス『スキン・ダイブ』(1985年)

ロブ・マウンジーがプロデュースしたマイケル・フランクス3枚目のアルバム。以前のロブ流アレンジが更に進み、尖ったアレンジになっています。それに伴ったマイケル・フランクスの楽曲も複雑に入り組んでいる印象があります。マイケル・フランクスの中でもロック色が強いアルバムになっている。

推薦曲:『READ MY LIPS』

ベースがマーカス・ミラー、ギターがハイラム・ブロック、シンセドラムがクリス・パーカーといったニューヨークのトップミュージシャンが名を連ねている。サビ部分にポリフォニックシンセサイザーが効果的に使われている。

推薦曲:『LET ME COUNT THE WAYS』

春の風景のようなイントロをロブの繊細なシンセサイザーが彩っている。ベース、ドラム、ギター、キーボード、コーラスというシンプルなメンバー構成でプロフェット5と思われるポリフォニックシンセサイザーが曲の骨格を担っている。コーラスにはロブ自身も参加している。

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:マイケル・フランクス、ロブ・マウンジー、ジェフ・ミロノフ、ニッキー・モロック等
  • アルバム:「愛のオブジェ」、「スキン・ダイブ」
  • 曲名:「ジェラシー」、「READ MY LIPS」、「LET ME COUNT THE WAYS」
  • 使用機材:ヤマハ/エレクトリックグランドCP80、フェンダーローズ・エレクトリックピアノ、オーバーハイムOB-Xa、プロフィット5等

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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