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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その119 ~追悼 高橋幸宏さんきらめきの断片~

2023-01-26

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

高橋幸宏さんの訃報を受けて

2023年1月16日の朝刊には高橋幸宏さん死去。YMO「ライディーン」作曲…と記されていました。やはりこう書かれますね。TVのニュースやワイドショウのリードでも同様でした。
高橋幸宏さんはイエロー・マジック・オーケストラのドラマーであり、YMOとしての活躍は世界中が知るところだと思います。新聞の見出しの後には世界にテクノブームを巻き起こしたミュージシャン高橋幸宏さんが11日に脳腫瘍により併発した誤嚥(ごえん)性肺炎のため亡くなった、享年70歳と続く。ミュージシャンの訃報としては大きく扱われていました。YMOの世間への影響力を思うとそれが正しいのでしょう。
しかし、高橋幸宏さんはYMOとしての活躍は勿論ですが、「ドラマー」として紹介されるよりも、1人の音楽家としての要素の方が強い人だと私は考えています。そして音楽家ではあるものの、もっと多岐にわたる洗練性をそなえたクリエイターであったのだと思います。彼の持つセンスはピカイチで、所属していた幾つかのバンドでもその才能の発露は楽曲からバンドのプロモーション、ステージ衣装に至るまで多岐にわたっていました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

私は若い頃に高橋幸宏さんの音楽を聴いて育った1人です。彼の音楽にちりばめられた洒落たスパイスは楽曲のなかでそこはかとない光を放ち、そっと我々に届きます。今聴き直してみても古くならないある種の普遍性を持っています。
今回はYMO前夜も含め、高橋幸宏さんが制作した音楽をご紹介し、ぜひ皆さんにその音楽に触れて欲しいと思います。

■ 推薦アルバム:サディスティック・ミカ・バンド『黒船』(1974年)

サディスティック・ミカ・バンドは日本のロックバンドの中では異色の存在だった。加藤和彦(Vo, G)ミカ(Vo)小原礼(B)高橋幸宏(Dr)今井裕 (Key)高中正義(G)。国内のトップミュージシャンを配し、演奏力にも長けていた。後に小原さんに替わり後藤次利さん(B)が参加している。異色と書いたのは70年代当時、ロックと言えば不良がやる音楽だという要素が強い時代。そんな時代にあってサディスティック・ミカ・バンドは全く位相の異なるバンドとしてデビューした。
加藤和彦さんはご承知の通りインテリジェンス溢れる音楽家であり洒脱なセンスを売り物にしていた。高橋幸宏さんも同様でミカバンドにセンス溢れる音楽の息吹を散りばめていた。
このアルバムには様々な点で新たな音楽への試みがあり、各メンバーが楽曲に磨きを掛けている。
オープニングから熟慮されたコンセプトアルバムで冒頭の「墨絵の国へ」~「なにかが海をやってくる」~「タイムマシンにおねがい」から「黒船」に至る構成力、展開力に圧倒される。知的センスに溢れている。

推薦曲:「どんたく」

B面頭からの「よろしく どうぞ」からのチンドン屋的楽曲からフェードインする高橋さんのドラムから楽曲が始まる。楽曲としても良くできているし、この曲は高橋幸宏さん無しでは考えられない。ジャストでありスクエアなビートが出すグルーブ感は唯一無二であり、楽曲の持つ楽しさをドラムが演出している。

推薦曲:「黒船(嘉永六年六月二日、三日、四日)」

ご存知のミカバンドの名曲「タイムマシンにおねがい」~♬のリフレインを受け、楽曲が始まる。
「タイムマシンにおねがい」~♬「タイ」~♬でブレイクし、高橋幸宏さんのドラムのフィルインから「黒船」という壮大な物語が展開する。「黒船」は組曲形式になっており、1974年に日本のバンドで組曲とポップスを混在させたアルバムが存在したことは驚愕すべき事実である。
高橋幸宏さんというドラマーを想うとき、私はこの「黒船」冒頭のドラムのフィルインが1番最初に頭に浮かぶ。どこが頭なのか解らないのだ。またそれがたまらなく洒落ていて1度聴いたら忘れることができない。まさに彼を象徴するフレーズであると思う。また冒頭以降も白眉としか言えないプレイが溢れている。

■ 推薦アルバム:サディスティックス『サディスティクス』(1977年)

1975年のサディスティック・ミカ・バンド解散を機に高橋幸宏(Dr)、高中正義(G)、後藤次利(B)、今井裕(Key)によって結成されたサディスティックスの名盤。
このアルバムA面も楽曲「黒船」と同様、世界を一周、海賊などをイメージした組曲風に仕立てられている。その設えは見事の一言。高橋幸宏さんがアルバムコンセプトに「海賊」を設定したアルバムジャケットも洒落たアートワークになっている。
サディスティック・ミカ・バンド時代には制作クレジットに高橋幸宏さんの名前は無いが、このアルバムでは殆どの作詞を手掛けている。また、作曲にも名前を連ねていて、この楽曲がまた素晴らしい。
当時ファーストコールだったメンバーのため、その洒落たサウンドは多くのファンを獲得した。
アルバムB面では洒落たJポップが並び、お洒落ポップスの先鞭をつけている。
高橋さんは音楽を俯瞰した視線で捉えることができた。楽曲に限らずビジュアル的視点なども総合的に演出できる稀有な音楽人であったと想像される。
それがYMOや後に自身が関わるバンドにも影響を及ぼし、高橋幸宏さんのセンスがJポップ界に散りばめられていく。

推薦曲:「Tokyo Taste」

Jポップ史上に残る隠れた名曲。ラジとアレックスのデュエット冒頭のあのメロディ、後に続くラインは当時のポップスでは考えられない。高橋幸宏さんのお洒落感が前面にでた名曲。当時のJポップにとっては洗練され過ぎていたとも考えられる。
高橋さんの居住いや志向、生き方が反映されている。この時期に彼が撒いた種はこの後、Jポップ界に大きな花を咲かせることになる。この楽曲は後に南佳孝さんによってもカバーされており、曲中のシンセサイザーソロもかなり洒落ている。

推薦曲:「今頃君は……」

作曲は高中正義、作詞は高橋幸宏。ポップなメロディを持つ佳曲。高橋さんの優しい一面を窺い知ることができる。今井裕さんによるハモンドオルガンソロがいい味を出している。

■ 推薦アルバム:YMO『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(1979年)

人間の作り出す音楽がコンピューターに拘束されるという音楽のアンチテーゼを売り物にしたYMOのセカンドアルバム。コンピューターに同期をしたテクノミュージックの中核を担ったのは高橋幸宏さん。彼の作りだすスクエアなビートはこの音楽にどうしても必要な要素でバンドには無くてはならない存在だった。国内ドラマーの誰よりも彼のビートがYMOに適していたと思う。そしてその先進性を体現できる技術とメンタリティを持ち合わせていた。
麻雀卓を囲むメンバー3人が着ているチャイナテイストの衣装は高橋幸宏さんによるもの。高橋さんはYMOの音楽制作だけでなくビジュアル的にも演出をしていた。そしてその演出力がロンドンでも花開くことになる。

推薦曲:「ライディーン」

YMO最大のヒット曲。雷神をモチーフとしたこの作曲者は高橋幸宏。洒脱なサディスティックスのTokyo Tasteも高橋幸宏さんの一面であり、ライディーンの様なストレートでポップ、人を喰ったかのようなサビのメロディラインも高橋さんの抽斗によるもの。そこに自身のビートが加わり、子供も大人も魅了される名曲が仕上がった。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:高橋幸宏、サディスティック・ミカ・バンド、サディスティックス
  • アルバム:「黒船」「サディスティックス」「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」
  • 曲名:「どんたく」「黒船」「Tokyo Taste」「今頃君は」「ライディーン」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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