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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その18

2020-10-29

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

プロフェット5の機能と特徴

プロフェット5は5音ポリフォニックシンセサイザーです。5音までの和音を同時に発音できます。価格は170万円と高価でしたが音色を40種メモリーできました(後に120種に拡張)。ミニモーグなど、アナログモノフォニック(単音)シンセ全盛の頃、シンセサイザーにメモリー機能は存在しません。ミュージシャンは音色変更の際に楽器を演奏しながらシンセサイザーパネルのツマミやスライダーを動かし、音色を変えていました。その為、似た音はあっても全く同じ音は存在しません。そういう時代でした。自作の音を記憶し、ボタン1つで同じ音を出せるという音色メモリー機能は画期的であり、ミュージシャンの演奏負担を緩和することにも寄与しました。また、複雑なモジュレーション(ポリモジュレーション)がかけられる為、倍音を多く含んだ金属的音色を作り出すこともできました。ポリシンセに不可欠なアナログ特有のパッド音も多用されました。ソロ演奏の時には多くのミュージシャンがプロフェット特有な音色を使用していたことも耳に残っています。
プロフェット5は2VCO+VCF+VCA+LFOのベーシックな構成。バージョンが4種類存在し、フィルターなどのチップが異なることから、安定性が高い後期モデル、出音がいい前期モデルなど好みが分かれています。80年代を中心に多くのミュージシャンに愛用され、YMOや坂本龍一(敬称略)が最も好んだポリシンセとして知られています。

シーケンシャルサーキット プロフィット5


世界の坂本龍一が愛したプロフェット5

坂本龍一はYMOで最初にプロフェット5を使用しました。YMO初期にはコルグのポリシンセやポリモーグ、ローランドのジュピター4などを使用していました。その後、プロフェット5が発売されたことからプロフェット5がメインシンセとなりました。坂本龍一はモーグ系の野太い音よりも、スマートでプラスチックなアープ系の音色を好みました。彼曰く「ペラペラしたプラスチックな音に色気を感じる」ということです。コルグのポリシンセもポリモーグ両者共、音的には太いというよりも細めの音に特徴がありました。YMO最初のワールドツアーではポリモーグやアープオデッセイをメインにプレイしていましたが、2度目のワールドツアーではプロフェットがメイン機材となり、現在でもプロフェットは坂本龍一のメインシンセの1つとして使われています。
キーボードマガジンのインタビューでは、坂本のプロフェット5の好きな点は①多くの音色は作れないが核となる音が良いこと②フィルターのレゾナンスが不安定な為、レゾナンス(上げて)で音階を作ったときに平均律でない変な音になり、その不安定さがイイ。しかも、刻々と音が変わると話しています。不満な点は①発音数が5音と少ない為、多くの鍵盤を押さえると途中で音が切れてしまうこと②ピッチホイールのクリックが曖昧でホイール設定をメモリーできないこと③鍵盤が軽くて深いことなどを挙げています。しかし、それをもってしてもプロフェット5が彼のメインシンセであったことは出音の良さ以外の何ものでもなかったと想像されます。

■ 推薦アルバム:『戦場のメリークリスマス 』(1983年)

英国アカデミー賞作曲賞受賞の名盤。出演者がサウンドトラックも制作するという快挙を坂本龍一は成し遂げました。

推薦曲:「メリークリスマス・ミスターローレンス」

冒頭部からのサブテーマを唄う弦やパッドはプロフェット5。アンビエントミュージック的な展開だが一度聴くと忘れられない旋律が印象的。テーマ部のガムランを想起するメロディーの背景を彩るバッキングもプロフェット5の代表的な音色です。


チキンシャック / キーボードプレイヤー:続木 徹

チキンシャックはサックス奏者の土岐英史(山下達郎初期のサックスプレイヤー)、ギタリストの山岸潤史、キーボードの続木 徹を中心とするクインテットのバンドです。ライブハウス、六本木ピットインをホームとするバンドで私も数回足を運びました。土岐さんの艶っぽいソプラノサックスが素晴らしく、ジャズフュージョンとブルースを混合したオシャレなサウンドが特徴でした。続木 徹(敬称略)はピアノをメインにプレイするジャズ系のミュージシャン。チキンシャックではフェンダーローズピアノにプロフェット5を乗せてプレイ。プロフェット5を上手くバンドに溶け込ませていました。

■ 推薦アルバム:『チキンシャック』(1986年)

推薦曲:「TOFU」

ベイシスト、デレク・ジャクソンの曲。複雑なサックステーマの後に来るのが続木 徹のプロフェット5によるシンセソロ。フィルターのレゾナンス上げ気味のプロフェットの存在感ある音色は多くのミュージシャンが好んで使用した。

推薦曲:「STINKY SNAKE」

ラップから始まるギタリスト、山岸潤史の曲。印象的なテーマの後にギターソロを思わせるプロフェットのソロが秀逸。最初はギターソロと勘違いするほど。プロフェットのベンドとホイールの操作が見事!


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:坂本龍一、続木 徹(チキンシャック)
  • アルバム:「戦場のメリークリスマス 」「チキンシャック」
  • 曲名:「メリークリスマス・ミスター・ローレンス」「TOFU」「STINKY SNAKE」
  • 使用楽器:シーケンシャル・サーキット プロフェット5
 

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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