今回のテーマはシンセサイザーの名器、アープ・オデッセイのパート2です。前回はアープ・オデッセイを使う、海外ミュージシャンを取り上げましたが、今回は国内ミュージシャンのオデッセイの使い手をご紹介します。
アープ・オデッセイ資料
■ 初期のモノフォニック(単音)シンセサイザーの名機といえば、ミニ・モーグとアープ・オデッセイです。オデッセイは1972年に発表され、改良を重ねながら1981年まで販売され、多くのミュージシャンに愛されました。
アープ・オデッセイは白いパネルにスライダーが並ぶ洗練されたデザイン。無骨なモーグに対し、洗練された未来的デザインパネルを持っていました。
音の太さが売りのモーグに対し、オデッセイはシャープで切れのイイ音が特徴でした。

アープ・オデッセイ Rev1(初期型)| パネルの左下に付いているツマミがピッチベンド時に使用するもの

アープ・オデッセイ Rev3 | パネル左下にあるのがPPC。長方形の白いゴム製のボタンでピッチベンドとモジュレーションをかける。
アープ・オデッセイが使われている推薦アルバム
■ 推薦アルバム:『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』YMO(1979年)

YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のセカンド・アルバム。1980年オリコン週間及び年間アルバムランキングで1位。日本レコード大賞でベスト・アルバム賞を受賞、ミリオンセラーも獲得と燦然と輝く歴史的アルバムです。「ライディーン」「テクノポリス」「ビハインド・ザ・マスク」など名曲が揃い、メンバーの赤い人民服的衣装、テクノカットは日本だけでなく海外でも注目され、テクノポップは音楽だけでなくファッションなどの起点ともなった日本のロック、ポップス史に残る名盤。細野が最初に声を掛けたのはドラムが林立夫、キーボードは佐藤博だったといわれています。この2人も凄いメンバーだが、コンピューターのリズムに合わせるという発想にグルーブを重んじる林は難色を示したが、高橋幸宏はそれを面白いと感じたとのこと。当時、学生でシンセサイザーに傾倒していた坂本が加わり、YMOの誕生となった。
推薦曲:「ライディーン」
YMOはベースを細野晴臣が担当し、アープ・オデッセイを使用していた。オデッセイについてのエピソードがある。YMOの曲にオデッセイのサイン波で録音をし、ごく普通の音だったが録音を聴き返した時にオデッセイの音の太さ、存在感に2人が驚いたというのは有名な話だ。オデッセイの音はミニ・モーグよりも細めであるが、実は音の存在感はかなりのものでモーグにも負けていなかったということがこのエピソードで知ることができる。細野のオデッセイによるベースはこういった背景もあり、初期のYMOにとって欠かすことのできない存在だった。
■ 推薦アルバム:『SOUTH OF THE BORDER』(1978年)南佳孝

南佳孝の78年3rdアルバムにして南佳孝の最高傑作。ブラジル音楽であるボサノバやサンバをベースに日本の架空リゾートを見事に演出している。
「夏の女優」「プールサイド」、荒井由実が詩を書いた「日付変更線」など名曲が揃っている。サポートミュージシャンも鈴木茂、林立夫、高橋幸弘、細野晴臣、大貫妙子などJポップ前夜のスター達が揃う。演奏はどこを切り取っても流石の一言で、素晴らしいバッキングをしている。アレンジは坂本龍一が担当し、コルグの初期ポリフォニック(和音)シンセサイザーでブラス・アンサンブルを見事にシミュレーションしている。
推薦曲:「夜間飛行」
このアルバムの「夜間飛行」でアープ・オデッセイが活躍する。口笛を思わせるオデッセイ特有の音でメロディアスな分かりやすいソロをとっている。最後にフェードアウトしてしまうのが惜しいほどの名演奏だ。坂本龍一のソロは一癖あるという方も多いかもしれませんが、このアルバムでは事前に用意してきたのではないかと思うほどの覚えやすく、完成されたメロディが展開されている。
■ 推薦アルバム:『IT'S A POPPiN' TiME』(1978年)山下達郎

山下達郎1978年の超傑作ライヴ。アルバム制作の予算がとれず、泣く泣く出したライヴ作品であるものの素晴らしいアルバム(数曲スタジオ録音あり)となる。その要因は達郎のボーカルの素晴らしさに加え、技巧派揃うメンバーによるところが大きな要素だ。村上ポンタ秀一(ドラム)、松木恒秀(ギター)、岡沢章(ベース)、坂本龍一(ピアノ、アープ・オデッセイ)、土岐英史(サックス)、吉田美奈子(コーラス)など凄すぎるメンバーが揃っている。 曲中での各楽器パートのアドリブ・スペースも大きくとってあり、高いテクニックを背景とした演奏が楽しめる。
推薦曲:「ピンク・シャドウ」
ブレッド&バターの名曲「ピンク・シャドウ」のカバー。ギター、ベース、ドラムの切れの良さは秀逸以外の何物でもない。曲中で坂本龍一によるオデッセイ(初期の白いパネル)のソロが聴ける。最初にポルタメントをかけた上昇する音からのソロ展開はシンセサイザーならではのもので、鋸歯状波によるアープ・オデッセイの存在感ある音が堪能できる。この頃の坂本龍一のソロは非常にメロディアスでかなり練られている印象を持つ。
今回取り上げたシンセサイザー、ミュージシャン 推薦アルバム、推薦曲
- 使用楽器:アープ・オデッセイ
- ミュージシャン:細野晴臣 / 坂本龍一
- アルバム:「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」/ YMO、「SOUTH OF THE BORDER」/ 南佳孝、「IT'S A POPPiN' TiME」/ 山下達郎
- 推薦曲:ライディーン / 夜間飛行 / ピンク・シャドウ