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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~ボサノバのジャズ名曲、名盤特集~その106

2022-11-16

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

ボサノバジャズパートⅥ

ボサノバジャズをテーマに取り上げた前回に続いて、お薦めのボサノバ楽曲を切り口にしたジャズを取り上げますが、今回は完全なボサノバジャズパートⅥです。

ジャズをイディオムとしたピアニストからのジョビン音楽への回答

前回はブラジル人ミュージシャンがジョビンの楽曲をどう料理するのかというのをテーマにジョビンに近いミュージシャン、マリオ・アジネをご紹介しました。
今回もアントニオ・カルロス・ジョビンと親交があり、ジョビンを心酔するブラジル人ピアニスト、イリアーヌ・イリアスにスポットを当てます。

典型的ジャズピアニスト、イリアーヌ・イリアス

イリアーヌ・イリアスはブラジル出身のジャズピアニストでボーカリスト。透明感を醸し出す高度なピアノテクニックが持ち味。
一方、ボサノバを歌わせれば右に出るものが無い程の歌声と歌唱力を持つ。これはブラジルに生まれた彼女の「血」なのではないかと思う程、ボサノバとの親和性は高い。

パリのツアー中にビル・エバンスとの共演歴があるベーシスト、エディ・ゴメスに見出され、ジャズバンド「ステップス・アヘッド」へ参加する。
83年にブレッカー・ブラザースの片割れ、トランペッターのランディ・ブレッカーと結婚。ランディのプロデュースでソロアルバム『アマンダ』を発表する。アマンダはイリアーヌとランディ・ブレッカーの間に生まれた実の娘の名。
後に離婚し、ベーシストのマーク・ジョンソンと結婚。ジャズベーシスト、マークの影響もあり、演奏面でもさらにジャズに接近している。

イリアーヌとの出会い

私が最初にイリアーヌの音楽を聴いたのは「ステップス」というエディ・ゴメスのバンド。
CDで聴いたのではなく、どこかのお城の中でむさくるしい男たちに交じってプレイするイリアーヌのDVD映像でした。
ジャズをベースにしているものの、メインストリームのジャズとは少し毛色の異なる音楽で、新しいジャズを思わせる内容でした。特に若くて美しいピアニストがバリバリとピアノを弾く姿が記憶に残っています。それがイリアーヌでした。

■ 推薦アルバム:イリアーヌ・イリアス『風はジョビンのように』(1989年)

イリアーヌがジョビンに挑んだ初のアルバム。
イリアーヌのジャズピアニストとしてのスキルがジョビンの曲をフォーマットにして提示されている。彼女の持つ高度なピアノ技術はジョビンの楽曲を表現するにはストライクであり、ワンアンドオンリーであり、こういったピアノの表現はイリアーヌ以外には考えられない。このアルバムリリースはイリアーヌが20代だったということも含め、その才能に言葉を失う。

推薦曲:「ディサフィナ―ド」

名盤ゲッツ=ジルベルト フューチャーリングアントニオ・カルロス・ジョビンの重要曲の1つ。
楽曲としてのディサフィナードは完全な素材であり、バリバリの4ビートジャズでイリアーヌのピアノがスイングしまくる。
ディサフィナードは音痴、調子はずれの意味であるが、このトリオ演奏からは微塵もそういった要素は感じない。アウトロ部分はイリアーヌ節全開でまさにジョビン・ジャズの一言!

推薦曲:「ジンジ」

言わずと知れたジョビンの名曲。楽曲冒頭部は空間を生かしたイリアーヌの淡水画を思わせるピアノプレイが続く。ジンジはアントニオ・カルロス・ジョビンがブラジルの歌姫シルビア・テリスに名付けた愛称。67年にジョビンとフランク・シナトラがリリースしたデュオアルバムが英語だったため、ジャズシンガー達がこの「ジンジ」を取り上げたことでも知られている。
楽曲途中の渋いベースソロにピアノが絡み楽曲に広がりが出た刹那、テーマに移行する部分は必聴。直後にリズムが変わり、ブルースタッチのピアノプレイが展開する。この辺りはアレンジの妙味であり、ジョビンミュージックへの新たな解釈として特筆される。

■ 推薦アルバム:イリアーヌ・イリアス『私の中の風と海と空』(1992年)

イリアーヌのアントニオ・カルロス・ジョビンジャズの続編。全てがジョビンの曲ではなく、変化を付けるためか、バイーアのミュージシャン、ミルトン・ナシメントの楽曲メドレーも取上げている。ボーカル入りでアルバムのいいアクセントになっている。

推薦曲:「イパネマの娘」

このイントロからイパネマの娘だと分る人はいないだろう…という複雑なイントロからイパネマの娘はスタートする。イリアーヌのピアノがイパネマを歌えば一気にイリアーヌ・ワールドに突入する。メロディ解釈の仕方が独特で隙間を生かした演奏はボサノバ本来の空気感を拡大させている。
非常に美しいジャズの「イパネマの娘」。

推薦曲:「WAVE」

ウエイブをピアノトリオで演奏すればこうなるというお手本的なトラック。4ビートというよりも「チュニジアの夜」的なラテンリズムで展開する。
軽やかなピアノタッチはイリアーヌの特徴でベタベタとした湿度を感じることはない。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:イリアーヌ・イリアス
  • アルバム:「風はジョビンのように」「私の中の風と海と空」
  • 曲名:「ディサフィナード」「ジンジ」「イパネマの娘」「WAVE」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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