Avicii、本名Tim Bergling、ご存じでしょうか?
28年の生涯、12年の活動の間、エレクトロ・ポップを基調としながらもフォークやアコースティックの要素も持つEDMを多く書いた天才DJは、4年前の4月20日に死去しました。
スウェーデンから全世界を沸かせたその音楽を、いま一度聴いてみましょう。

※著者はアルバムの幾つかを米国やカナダなどで購入、視聴しているため、日本盤と曲目や日時、内容にズレがある可能性があります。ご了承ください。
Aviciiの楽曲は多数あれど、発表されたアルバムはわずかに3枚。活動最初期からは、シングルのリミックス楽曲などをブログで公開していました。
現在はほぼ全てがYouTubeのチャンネルから視聴可能ですが、今回は代表的な曲を多く収録するスタジオアルバムを見ていきます。
https://www.youtube.com/channel/UCPHjpfnnGklkRBBTd0k6aHg
2013年のアルバム、Trueは以下の楽曲を収録しています。
■ Wake Me Up
軽快なアコースティックギターから始まるこの曲は現在でも圧倒的に人気が高く、ライブなどではほぼ毎回演奏されています。
先行シングル発表当時はプラチナディスク認定、全英チャート1位、最速売り上げ記録、ビルボード音楽賞受賞、など非常に話題になりました。
なお、MVで◢ ◤状の痣を持つ女性と少女が世間からは良い目をされないが、最後には行くべき場所を見つける、という意味深長な内容となっており、考察の対象ともなっています。
■ You Make Me
深く強いピアノリフ、繰り返される"You Make Me"=「君がそうしたんだ」の文言。そしてAviciiでは珍しいCGつきバトルアクション風MVの舞台はダンスクラブなのか?
見る限りは恋愛の曲ですが、ライブに一体感を生む独特の歌詞とリズムがあります。なお、スプレー缶などの音を曲にそのまま使用するというのはYou Make Me以外にもシングル楽曲のThe Daysなどで見られます。
■ Hey Brother
家族愛がテーマのこの曲。ブルーグラス系とEDMの融合とでもいうべき曲調ですが、「ベトナム戦争で戦死した父親の代わりを務める兄の姿」という観点からか軍歌の要素も少々持ち、澄んだトランペットの音が印象的に響きます。
勇壮さと独特のせつなさでこの曲に並ぶものはないでしょう。
■ Addicted to You
宇多田ヒカルの"Addicted to You"と同じように狂っていく姿は、そのタイトルが示しています。
Addicted=中毒になっている。退廃的で刺激的、奔放な二人の姿は曲の締めとともにあっけなく消え去ります。
■ Dear Boy
ビリビリした音のシンセに時折入るブレイク、そしてピアノセクション。女性ボーカルのねっとりした声との対比が美しい一曲です。
後のセルフリミックス「True - Avicii by Avicii」では後述のSunset Jesusのメロディが入り、爽やかな楽曲に仕上がっています。
■ Liar Liar
"Liar, liar!"(嘘吐き!)の衝撃的な叫び声、そして特徴的に繰り返されるメロディから始まるこの楽曲は、Aviciiの書く暗い歌詞の例に漏れず、感情の迷いをテーマにしています。
個人的には、その他の明るい曲がこれに対する返歌になっているのではないか?と考えてやみません。
■ Shame on Me
恋愛での過ちに怒る男性視点の曲、ということですが、吐き出すようでありながらどことなく軽妙な歌い方に加えてギターの繰り返すリフ、爽やかなシンセには何か違うものも感じられます。
最近では呪術廻戦でのイメージソングに使用されたという話をききますが………
■ Lay Me Down
スラップというよりチョッパー風なベース、見事な4つ打ちのドラムス。歌詞にはいくつかレパートリーがあり、個人的な意見として、腑に落ちる解釈ができないな、というイメージがあります。
世の音楽系ブログの和訳を覗いてみると恋愛の曲だ、恋人との曲だと言われているようですが、本当にそうかな?と。
■ Hope There's Someone
Anthony and the Johnsonsの同名の曲をリミックスした曲です。
男声にピアノのみだった原曲と比較し、不安な歌詞に対しての女性ボーカルの使い方、不安定な伴奏の味が強く出て不安定さや恐怖感を煽る、少し病的とも思える仕上がりになっています。
以上9曲が(私の把握する中での)Trueの収録曲です。
2年後、Storiesが発表されます。前作と比べ、少々直接的な歌詞が増えている気がします。
■ Waiting for Love
どことなくアンチ・キリスト教の香りを感じるこの曲。「Guess I won't be coming to the church on Sunday, I'll be waiting for love」、つまり「日曜日には教会にいかず、愛を待っている」と述べています。 しかし、MVでは老人が旅に出ています。何にも縛られず、自らの意思に従う、自由に愛する、そういった意味合いを持つ曲なのかもしれません。
■ Talk To Myself
「自分に話しかける」あるいは「独り言を言う」ときは何を話すのだろう?恋人を失ったまま、話せなかった言葉とまとまらない思考をそのままに曲にしています。
まったくそのまま、まっすぐに書かれています。
間奏のマリンバが特徴的。
■ Touch Me
タイトルの通り、そして歌詞の通り「触れて欲しい」と、こちらも直球に感情を伝える曲です。
■ Ten More Days
「あと10日で、全てよくなると分かっている」「10日の闇のあとに、光が見える」という歌詞からはただならぬ苦しみが見受けられます。
Aviciiの引退直前に発表された曲ですが、どのような感情とともにこの曲を書いたのかはもう今となっては分かりません。
■ For a Better Day
心地よい太さのベースに清涼なキーボード、ではあるのですが、歌詞自体は男性の失恋の曲。そしてMVではなんと、人身売買の関係者に対して復讐する女性の姿が描かれます。
衝撃的な組み合わせですが、おそらくは曲名の「よりよい明日のために」というのが全てを物語っているのではないかと。
■ Broken Arrows
ブロークン・アローとはオクラホマ州の都市の名、あるいは米軍の符丁(合言葉)のうち核兵器の紛失を意味します。しかしこの曲では矢はおそらく関係性、あるいは心の支えを暗示しているのでしょうか。
MV中ではスポーツに挫折した、過去には優秀だった男性が、娘とともに再起してゆくさまを描きます。
途中に挟まれる新聞記事、そして最初の「Inspired by a True Story」は現実の出来事であったことを示し、不屈をテーマにした明るい楽曲です。
のちに公開された音楽ゲーム「Avicii Gravity」ではメインテーマに採用されています。
■ True Believer
Aviciiの楽曲にはときどき「普通の片思いの曲」が出てきて、それはたいていあまり明るく聞こえなかったりします。
この曲も少しダークな印象のボーカルとシンセが鳴り響き、しかし歌詞をしっかり読むと「挑戦し続ければ」と希望を持っているようで、持っていないようで、そんな曲です。
■ City Lights
嘘と虚構をテーマにした楽曲、とでもいえばいいでしょうか。 いつものAviciiといってしまって差し支えのない明るいシンセ・サウンドですが、歌詞には街の明かりと夜の不安さがにじみ出ています。
■ Pure Grinding
MVでは最初に「TRUE STORIES OF AVĪCI」(AVICIの最初のIは長音記号付き)とあります。
曲調はブラックミュージックに近く、EDMというよりR&Bやヒップホップといった方が正しいと思います。
Grindingは口語・スラングの表現で地味な努力、着実な働き、といった意味を持ちます。Pureが付くので、純粋な働きぶり、とでも訳しましょう。
MVの半分では鉱山で働く男性が少しずつ借金を返したり、車を買ったりしていく一方、もう半分は強盗をし最後には一人が捕まる、という対比は、Aviciiの努力を強く印象付けるとともに、勧善懲悪的な意味合いもあるのでしょうか。
■ Sunset Jesus
爽快なギター、リズミカルなキーボードが組み合わさった通常のポップスに近い楽曲。カリフォルニアの夕日を舞台に、大きな夢を追いかける男性の姿が歌詞に現れています。
"Breath for minute, I'll be okay"と、「少し息を整えて、俺は大丈夫だ」と、余り他にはない言葉遣いとなっています。
もともとコーラスに"Yeah!"という声が入っていたのに加えてライブでは管楽器隊が追加され、ファンクで希望的な曲調になりました。
■ Can't Catch Me
フォークテイストの強いイントロに、ディレイがかった澄んだピアノの音。ハイチからアメリカへの移民の歌ですので、時代は違えどアメリカンドリームを体現する曲と言っていいでしょう。
ブラックミュージック的な叫ぶような歌い方や軽くスウィングがかったリズムもそのような雰囲気を演出しています。
■ Somewhere in Stockholm
スウェーデン、ストックホルムの何処かで。生まれ故郷に自分の気概(Backbone)を置いてきてしまった、という感情を描くこの曲ですが、EDM寄りの曲調でありながら4つ打ちのバスドラムに加えてスネアドラムが行進曲風の勇壮さを演出します。
終盤の"Hemma I Stockholm"とはスウェーデン語で、「ストックホルムの我が家で」とでも訳しましょうか。英語では"At home, in Stockholm"となります。
■ Trouble
「困りごと」という曲名からは想像できないほど明るい雰囲気は、成否はともかく何かをやり切った後の爽快感ゆえでしょうか。
歌詞をそのまま読めば、Sunset Jesusの後日談、と捉えることもできます。
■ Gonna Love Ya
Avicii楽曲には少ない、口語体をそのまま文字にしたものが歌詞になっています。
歌唱パートの裏ではゆったりとして甘いシンセ&キーボードサウンドが、間奏ではいつの間にか重くしっかりとしてメロディの主軸を担います。
以上14曲、合計23曲が生前にスタジオアルバムとして発表されたものになります。
Aviciiの死後、2019年には、彼の遺族と、共に仕事をしていたミュージシャンたちは未発表音源などから新アルバムを発表します。
名は、「Tim」。
このアルバムには、確かな名曲がそろっています。
当然ですが、Avicii自身が作り上げることができなかった部分を関係者それぞれが補完しているという理由により、Aviciiの抱える感情を書き上げた過去作に比べ、周辺の人からのAviciiへの感情を描く歌詞が多くなっています。
とくに、「Heaven」や「Tough Love」、「Heart Upon My Sleeve」には、強烈な情念が籠っていると思うそれゆえ、手前勝手な解説は控えますが、ひとまず曲目は紹介させていただきます。
■ Peace of Mind
■ Heaven
■ SOS
■ Tough Love
■ Bad Reputation
■ Ain't a Thing
■ Hold the Line
■ Freak
■ Excuse Me Mr.Sir
■ Heart Upon My Sleeve
■ Never Leave Me
■ Fades Away
以上12曲。
■ R.I.P. Avicii
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