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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その52

2021-10-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

■マイケル・フランクスの音世界を彩る複数プロデューサー 後編

今回の鍵盤狂漂流記はマイケル・フランクス後編をお送りします。プロデューサーを切り口としてこの特集は書いています。マイケルのアルバムはトミー・リピューマ、ジョン・サイモン、ロブ・マウンジーというプロデューサー変遷の中で、アルバム「ブルー・パシフィック」(プロデューサーはジェフ・ローバー)を挟み、後半は複数プロデューサーが関わる制作にシフトしていきます。

※アルバム、「ブルー・パシフィック」に関してはジェフ・ローバー(Kb)をテーマにした鍵盤狂漂流記その40をご覧下さい。
シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~その40

マイケルの音楽スタイルの底流にはジャズやボサノバがあり、アルバムのタッチはプロデューサーで変わりますが基本路線に変更はありません。それがマイケル・フランクス・ミュージックの安心感につながっています。老舗の味がいつも変わらないのと同じです。
後編で取上げる2枚のアルバムにはジェフ・ローバー、イエロージャケッツ、マット・ピアソン、チャック・ローブ、ギル・ゴールドスタインなど複数のプロデューサーが名を連ねています。複数のプロデューサーでありながら、音楽に1本筋が通っているのがマイケル・フランクスの優れたところで、彼のバランス感覚の良さがアルバムを通し伝わってきます。

■推薦アルバム:マイケル・フランクス『ドラゴンフライ・サマー』(1993年)

トンボの夏をタイトルにしたアルバム。プロデューサーはジェフ・ローバーとイエロージャケッツ、ギル・ゴールドスタインが手掛けている。
イエロージャケッツは渡辺貞夫とも親交が深いキーボーディスト、ラッセル・フェランテのバンドでストレートアヘッドなジャズを演奏。ウエザーリポート無き後のジャズ界希望のバンドです。ベーシストのジミー・ハスリップもフェランテ同様、プロデュースには深く関わっています。次作の「アバンダント・ガーデン」ではプロデュースがイエロージャケッツ名義からラッセル・フェランテ&ジミー・ハスリップに変更されています。当然、イエロージャケッツがプロデュースした曲はジャズ色が濃く、ジェフ・ローバーのプロデュース曲はポップ色が強くなっています。

推薦曲:『ドラゴンフライ・サマー』

スティーブ・カーン演奏のナイロン弦のアコースティックギターから始まるボサノバタッチの名曲。ジミー・ハスリップによるフレットレスベースプレイも効いている。曲間のリフの作り方も上手い。ボブ・ミンツァーのソプラノサックスソロもドラゴンフライ・サマー(トンボの夏)というタイトル通り、トンボが舞っているムードを演出しています。

推薦曲:『ザ・ドリーム』

イエロージャケッツのライブアルバム「ライブ・ワイヤーズ」でも取り上げられている曲。マイケルの曲にしては珍しく、ほぼロックなポップチューン。私はこの曲を聴き、ポリスのヒット曲「見つめていたい」を想起しました。
後半、スティーブ・カーンのギターソロはポップな曲調と相反し、音色、フレージング共、ジャジーで素敵です。スティーブ・カーンらしく、トレブリーなテレキャスターの音ですね。

■推薦アルバム:マイケル・フランクス『アバンダンド・ガーデン』(1995年)

ボサノバの巨匠であるアントニオ・カルロス・ジョビンへのトリビュートアルバムとしてリリース。マイケル・フランクスは3rdアルバム「スリーピング・ジプシー」でアントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた名曲「アントニオの歌」を制作するなど、ジョビンとの関係も深く、彼を深くリスペクトしていました。マイケルは楽曲制作の中でジョビンからインスパイアーされた部分は少なくなかった筈です。
アントニオ・カルロス・ジョビンはボサノバ永遠の名盤、「ゲッツ・ジルベルト」に参加したコンポーザー、ピアニスト、シンガーであり、ボサノバの超スタンダード「イパネマの娘」「WAVE」「コルコバード」など、多くの名曲を世に出したブラジルの作曲家です。リオデジャネロ国際空港はその偉業を反映し、アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港と名付けられています。
ジョビンは1994年12月に逝去しますが、ジョビンへトリビュートしたアルバムはマイケル・フランクスの中で一番ジャズ色が濃く、ロブ・マウンジーの派手なアレンジとは異なる、シンプルでマットなジャズテイストなアルバムとなりました。

推薦曲:『This must be paradise』

マイケルお得意のボサノバ曲。曲のバース部分が同じようで同じではなく、簡単そうに聴こえるが、実際は入り組んでいる。ボブ・ジェームスのバンド、フォープレイに在籍前夜のチャック・ローブのギターソロが素敵です。

推薦曲:『ア・フールズ・エランド』

マイケル・フランクスの楽曲の中でもジャズ色の濃い名曲。アコースティックピアノはイリアーヌが弾いている。イリアーヌはマイケル・ブレッカー(Sax)、ピーター・アースキン(Dr)、エディ・ゴメスらで作ったバンド、「ステップス」の女性ピアニスト。ブラジル出身で夫がマイケル・ブレッカーの兄、ランディー・ブレッカーだったという女傑。淡水画のような美しいピアノを弾きます。私は焼津市のライブ会場で彼女を観て驚きました。繊細なピアノを弾くことから華奢な体つきを想像していましたが、かなりの巨漢だったからです(笑)。勿論、演奏は繊細でボサノバからジャズまで素晴らしいプレイをしていました。

■今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:マイケル・フランクス、ラッセル・フェランテ、イリアーヌ、ジミー・ハスリップ等
  • アルバム:「ドラゴン・フライ・サマー」、「アバンダンド・ガーデン」
  • 曲名:「ドラゴン・フライ・サマー」、「ドリーム」、「This must be paradise」、「ア・フェールズ・エランド」
  • 使用機材:アコースティック・ピアノ、フェンダーローズ・エレクトリックピアノ等

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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