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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その47

2021-08-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

1980年に一世を風靡した2枚のアルバム。AORの新機軸「エアプレイ」の1年前のそれを占うジャズボーカルアルバムがあった!共通項は2人のミュージシャン達…パートⅡ「エクステンションズ」編

前回は1980年リリースのAOR名盤、「ロマンチック」を制作したプロデューサーでキーボードプレイヤーのデビッド・フォスターとプロデューサーでギタリストのジェイ・グレイドン、2人によるユニット「エアプレイ」の特集でした。鍵盤狂漂流記のその45で紹介したアース・ウインド&ファイアーの「黙示録」にも関わり、後に大ブレイクする2人です。

名盤「ロマンチック」の1年前にもこのアルバムに勝るとも劣らない名盤が生まれています。パートⅡはジャズボーカルグループのマンハッタン・トランスファーの大名盤、「エクステンションズ」です。

ロックとジャズという異なるフィールドの歴史的アルバムに関わったのは当時、まだ無名だった音楽家、デビッド・フォスター(key)とジェイ・グレイドン(G)でした。

マンハッタン・トランスファーって誰?

当時大学生だった私は友人の勧めでジャズ・ボーカルグループ、マンハッタン・トランスファーのアルバムを購入しました。聴いてみると何だか分からないけど凄くカッコイイのです。マントラはロックしか知らない大学生にもリーチする要素を持っていました。私はシンセサイザー(単音)を弾いていたのでバードランドのイントロの音を聴いただけで、その音にヤラレました。トラディショナルなジャズボーカル曲も素敵でした。アルバム全体にバラエティー感があり、キラキラしていました。未知なる音楽に触れ、気持ちが高揚したのを記憶しています。

■ 推薦アルバム:マンハッタン・トランスファー『エクステンションズ』(1979年)

アメリカのジャズ・コーラス・グループ、マンハッタン・トランスファー5枚目の最高傑作。マンハッタン・トランスファーは男女2人ずつの4人編成で卓越したハーモニーを武器にしたボーカルグループです。ジャズというフィールドでは括り切れない多様な音楽性を持っています。そのジャズボーカル・グループをエアプレイのギタリスト、ジェイ・グレイドンがプロデュースして大ヒットとなりました。レコーディングメンバーも豪華なミュージシャンが揃っています。もう1人のエアプレイ、デビッド・フォスターに加え、TOTOのジェフ・ポーカロ(Dr)スティーブ・ルカサー(G)、デビッド・ハイゲント(B)、LAの売れっ子キーボーディスト、マイケル・オマーティアンなど枚挙に暇がありません。

素晴らしいのはレコーディングメンバーだけでなく、楽曲も同様です。ウエザーリポートの大ヒット曲「バードランド」のボーカル版やエアプレイで取上げた「貴方には何もできない」など秀逸曲が揃い、スタンダード曲も交えた絶妙なアルバム構成になっています。

また、このアルバムはシンセサイザーアルバムとしても際立っています。「バードランド」しかり、シンセサイザーだけでブラスアレンジされた「ワッキーダスト」しかりです。シングルヒットしたディスコ調の「トワイライトゾーン」などバラエティー感に溢れ、時代の寵児となるプロデューサー、ジェイ・グレイドンのセンスの良を思い知らされます。洒落たジャケットデザインは日本人アーティストのペーター佐藤が手掛けています。

推薦曲:『バードランド』

ウエザーリポートの名曲、「バードランド」をボーカル中心にアレンジするという神をも恐れぬチャレンジ精神に脱帽!複雑構成による楽器アンサンブルをボーカルで再現するという目論見は見事成功し、1981年にグラミー賞の最優秀ジャズ・フュージョン・ボーカル賞とボーカル編曲賞を受賞。

冒頭のシンセサイザーベースはクインシー・ジョーンズ御用達のマイケル・ボディガーによるプログラム。アナログシンセサイザー、イイ音の典型。私はバードランドのオリジナルベース音よりも好きです。

私が実際にマントラのライブを聴いた時、ボーカルパートに関しては見事にスタジオ盤を再現していて驚きました。マントラのボーカル技術の高さに脱帽しました。

推薦曲:『ワッキーダスト』

アナログシンセサイザーによるブラスアンサンブルの音色、アレンジが見事。クインシー・ジョーンズのレコーディングなどに参加しているマイケル・ボディカーがプログラミングを担当している。「バードランド」はボーカルでウエザーリポートの楽曲を再現していますが、この曲はブラスアンサンブルを複数のシンセサイザーで見事に再現している。各ホーンの音の立ち上がりと減衰、ディレイビブラートのタイミングなど、ホーンの精緻なシミュレーションが圧巻。サンプリングやデジタルシンセサイザーが無い時代にブラス音を精緻に再現するという試みに脱帽!普通に聴くとブラスによるオケと勘違いしてしまいます。

推薦曲:『貴方には何も出来ない』

エアプレイの「ロマンチック」にクレジットされている同曲をマントラ流に再現している。「ロマンチック」のジェイ・グレイドンによるギターソロパートがシンササイザーソロに変更されている。ラリー・カールトンの音楽監督として知られるグレッグ・マティソンが素晴らしいシンセサイザーソロを披露している。フランク・ザッパバンドのキーボーディスト、イアン・アンダーウッドによるシンセ音も最高。

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:マンハッタン・トランスファー
  • アルバム:「エクステンションズ」
  • 曲名:「バードランド」「貴方には何もできない」(マントラバージョン)
  • 使用機材:アコースティック・ピアノ、フェンダーローズ・エレクトリック・ピアノ、ミニモーグシンセサイザーなど

⇨ SOUND HOUSE ピアノ/シンセサイザー


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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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