「最近、紙の書籍読んだことがありますか?」
電子書籍やインターネット、YouTube 等を見る機会が大幅に増えて、日頃、紙の書籍を読む機会が無い人が大幅に増えた。
そのような調査結果をテレビのニュースが報じて久しい。
時代が変われば、メディアが変わるのは当然だ。
今回取り上げる『VINTAGE GUITAR MAGAZINE』誌(以下VG誌)も、スタートは紙媒体の雑誌であったが現在は電子書籍である。
VG誌のペーパー版はすでに古本扱いで発行されていない。音楽書籍を扱う古書店、実際に米国から楽器を輸入していた楽器店などで手に入る可能性がある。現在、ネットで検索すれば個人間で売買しているようだが、細かく選ぶことは困難な様だ。
ある楽器店では沢山のVG誌を高級ギターアンプの周りにちりばめてディスプレイしていた事も過去にあった。日本でほとんど見かけないから映えたのだろう。このような楽器店なら今でも資料として持っている可能性があるので、常連になればわけてくれるかも。
創刊当初は雑誌と言うより分厚い新聞紙のような感じ。全米楽器店のギター在庫がびっしり載っていた。インターネットがまだ普及していなかったので楽器のモデル名と値段の掲載が中心で、雑誌とは趣が異なった。日本で例えればメンバー募集の充実していたPlayer誌がイメージ。

初めてオンタイムで買ったVG。素敵なオーラがあった。
かなり昔に米誌『GUITAR PLAYER』もVINTAGE GUITARの在庫リストを載せていたが、楽器情報をここまで知ることは稀有だったのだろう。着実に部数を増やしていった。
やがて数年が経つと、表紙のカラー部分が鮮やかになった。ギター機材雑誌という感じが増し、カラー写真、とりわけカラー広告がじわじわ掲載され始めた。楽器の価格だけでなく、アーティストの機材紹介や、珍しいギターの記事も目立つ様になった。特に目立ったのはコンパクトエフェクター、ケンタウルスの大きな広告。楽器業界から絶賛の声が頻繁に掲載された。
Centavoのクローンモデル
WARM AUDIO ( ウォームオーディオ ) / Centavo オーバードライブ
WARM AUDIO ( ウォームオーディオ ) / Silver Centavo
ZENDRIVEのクローンモデル
WARM AUDIO ( ウォームオーディオ ) / Warmdrive
この3台はコスパが良すぎる。
Fenderジミ・ヘンドリックスモデル
FENDER ( フェンダー ) / Jimi Hendrix Stratocaster Olympic White

中古で入手。カラーページが増えたが、まだ紙の質は新聞紙に近い。
数年後、同じ大きさの紙面でカラーページが多数のバージョンとなった。欧米らしく、我が国の雑誌より表紙の紙質が薄かったが、当初の『新聞紙に近い紙質』とは内容も含めて雲泥の差であった。特にリーマンショック時の2008年前後のVG誌は記事もギターの価格だけでなく広告の質も高く、読みごたえ、眺めごたえがあり、15年以上経て今読んでみてもワクワクする。どこかで見つけたら千載一遇!!
2010年代に入ってから、VG誌の電子書籍も平行して普及し、紙面のサイズが小さくなった。
その形態がしばらく続き、三年ほど前、通信販売で購入していた日本の代理店から、紙媒体が無くなった事を知った。
では私がVG誌をどの様に愛読してきたか?今回はあえてフルカラーの表紙で大型の紙面で発行していた時代にフォーカスを当てたい。
初めてVGを見たのは、1994年春、ハンズ渋谷店横にあったTOWER RECORDS2階であった。何時ものように海外の雑誌コーナーに立ち寄ったら、何やら見たこともないGibsonタイプのブリッジをつけた、赤いストラトキャスターを表紙にした本が陳列してあった。薄い透明の袋に入れられてあった。
写真の周りには細かい英文字が書かれ、何やら興味の湧くオーラが漂っていた。英文を読むとリック・デリンジャーがレコードアルバムカバーに使用したギターと判明した。値段は800円程度。安くもなく高くもなく・・・。分厚い雑誌の中身には何が書いてあるか興味津々であった。

この写真がVG誌を購入しようとした動機である。当時このようなストラトを見たこと無かった。
店員に思いきって「開封出来ますか?」と尋ねたが、もちろん苦笑してNGだった。
しかし雑誌のオーラにしばし見惚れ、表紙の見たこと無いストラトの写真に欲望を抑えきれず、CD数枚と共に購入した。そう、私はストラトには目がないから。(苦笑)
もし、トラディショナルなアコースティックギターが表紙だったなら出逢いは無かったかもしれない。
帰宅して、封を開けたらギターの名称と価格のドル表記がびっしり。カルチャーショック!様々な店名の文字のフォントの使い方はアメリカの楽器店を覗いたような状態だった。在庫リストはエレキギターだけでも軽く1000本の情報があった。
VG誌が日本の雑誌になかった特徴が5点ある。
① 雑誌が大きかったため、機材写真が大きい。リアル。
リットーミュージック『ギターマガジン』2024年12月号のエディ・ヴァン・ヘイレンのシグネチャーモデルの写真は見開きで迫力があったが、VG誌の裏表紙広告写真はさらに大きく原寸大と思われた。ド迫力だった。

裏表紙一杯にボディを載せた広告。ほぼ原寸大。迫力満点。
EVH ( イーブイエイチ ) / EVH Striped Series 5150 Red/Black/White
これはVG誌のお家芸であり、エフェクターなども積極的に原寸大か より大きく取り上げることが多く、紙媒体ながら現物を手に取っている錯覚を覚えるほどインパクトがあった。
② 機材、特にアンプの内部基板の紹介が興味深い。
日本では真空管アンプの内部配線を詳しく紹介する機会は少ない。VG誌は主にVINTAGE AMPを取り上げて、カラーで原則毎号アンプ一台を載せていた。各アンプメーカーの個性がわかって、自作アンプの参考にもなるはずである。ほとんどがポイント・ トウ ・ポイント配線で、古き良き時代のモデルを見ていると時間が経つのを忘れる。
③ 広告費が安かったため、様々な楽器の詳細な情報が得られる。
PRSなど有名ギターメーカー、ギターセンターなど大型ギター店から個人レベルの売りたし情報まで。日本ではお目にかかれないギター、アンプ、エフェクター、小物、アクセサリー、パーツなどが写真入りで目白押しである。
Paul Reed Smith (PRS) ( ポールリードスミス ) / SE CUSTOM 24 Black Gold Sunburst
これを見たり読んだりする時間は
「アメリカ合衆国に浸れる」時間だ。
大手ギターメーカーからガレージエフェクター、アイデア商品みたいな小物までいつまでも飽きずに読んだり、眺めたりできる。
④ 楽器紹介に使われる英語のセンスが良く個性的で、将来楽器業界で仕事をしたい人にはうってつけのテキスト。
YouTubeでも海外のサイトの生の英語に触れる事が出来るが、文章を読むと日本ではまず触れない発見がある。例えば、ストラトのPUザグリ『弁当箱』をアメリカでは何と言うか?このような事もわかる。(答えは最後に。)
広告に使うキャッチフレーズもセンスが良く分かりやすい。『貴方は61年製のストラトに何故わずか千円のストラップを使うのですか?』などは核心を突いている。
『電装系まわりは任せて下さい』と言う趣旨は『TONE WE CAN HELP』だ。簡潔でおしゃれな一面広告。

ストラトタイプの電装系の広告。キャツチコピーのセンスが良く、業界用語も学べる。
ギター製作学校の広告も素晴らしい『SHAPE YOUR FUTURE 』ギターのボディをシェイプするのと、学生の未来を切り開く、二つを掛けている。

この学校は数パターンの同広告を載せていた。
⑤ 米国内におけるエレキギターの立ち位置が理解出来る。
アメリカの歴史は250年あまりで我が国より浅い。その中でギターはアメリカの職人気質と自由な精神を象徴する文化遺産の位置にあり、日本の楽器に例えると三味線、琴と同じくアメリカの『伝統楽器』と言っても過言でない。ギターよりバンジョーの歴史はさらに古く、これらはまとめて『フレット楽器』というカテゴライズがなされている。
毎年、父の日には親子の仲睦まじい写真を掲載しているが、軍人だった祖父、父親、孫の親子3代がエレキギターを構えて演奏している写真は日本ではなかなか見られないショットである。生活に根付いた楽器文化を知ることが出来る。
その他にも、父親と子供が居間で一緒にギターを弾いている写真を機材広告に使うなど、楽器が生活の一部である事が垣間見れる。
この様に魅力たっぷりの雑誌だが「入手困難でしかも英語じゃん!」と言われるかも知れない。
実は日本にも「機材の奥深い世界」を紹介する書籍がある。しかもサウンドハウスで入手可能なのだ。2025年3月現在20冊在庫がある。その名も『THE EFFECTER BOOK』(シンコーミュージック刊)
エフェクター専門誌だがVG誌にベクトルが近く、おすすめ。全シリーズ色褪せること無く永久保存版であり、内容が濃い。
例えばVol.59 はマーシャル製エフェクターについては日本で一番詳しい情報を得られるだろう。
詳しくは私のコラム【THE EFFECTER BOOK 】に書いてあるので書籍の特徴をつかんでくれればと思う。
サウンドハウスのホームページで全てのシリーズは入手出来ないが、教養を得たいギタリストなら、いくつか購入しても損はないだろう。
自分の機材について、さらに自分の知らない名機の歴史や構造の深みを得ることになり、エフェクターならず楽器の購入の仕方、使い方も変わってくるはずだ。
VINTAGE GUITAR MAGAZINEは、アメリカ文化の空気を読み取れる貴重な音楽機材文化雑誌であると言うことだ。
【答】
ストラトのPUの弁当箱はアメリカでは一般に『スイミングプール』と言われている。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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