こんにちは、夜型DTMerのリミトです。
日本各地の大型コンサートホールに設置されている音響機材を紹介し、なぜそれが採用されたのか、どの様なこだわりが感じられるか、などの筆者独自の考察をしていく企画。題して「大型コンサートホールのPA機材を調べてみた」の第一弾として、実際に先週行ってきたTOKYO DOME CITY HALLの音響設備について触れていきます。
音響設備といっても幅が広すぎるので、メインとなる機材のミキシングコンソール、エフェクター、アンプリファイア、スピーカーに絞って解説していきます。
掲載内容は2023年2月2日現在の情報です。
TOKYO DOME CITY HALL

まずはホールの基本情報から。
TOKYO DOME CITY HALLは2008年にオープンした、株式会社東京ドームが運営する東京都文京区にある最大3,190人のキャパシティを誇る多目的ホールです。すべての客席がステージから30m以内に設置されていて、臨場感の高い空間を造れることが最大の売りです。目的に応じてステージ・アリーナの形を自在に変えることができるため、コンサートやミュージカルだけでなく、ビジネス会議などの様々なイベントにも対応可能という優れたカスタマイズ性も有しています。
本記事では東京ドーム公式が公開している情報をもとに機材をご紹介していきます。照明やレンタル料金、備品などについて詳しく書かれているリンクを貼っておきますのでご興味のある方はぜひご覧ください。こういう普段目にしないのは裏事情みたいで面白いですよ。
公開情報(https://www.tokyo-dome.co.jp/tdc-hall/organizer/download.html)
音響引用(https://www.tokyo-dome.co.jp/tdc-hall/organizer/pdf/hall_onkyo_bihin.pdf)
では、早速見ていきましょう。
F.O.H.
「FOH」はPA用語で、Front of Houseの略です。コンサート会場の客席側を指します。客席側に置いてある機材についてですね。
〜FOH CONSOLE SYSTEM〜
ミキシングコンソール。「ミキサー」や「卓」とも呼ばれている、客席後方中央に鎮座している音の総合的な管理をする機材です。
こちらでミキサーについて詳しく解説されています。
Avid VENUE | S6L

Stage 16

Stage 64

アビッド・テクノロジーから発売されているミキサー、オーディオインターフェースです。S6Lは強力なプロセッサーを搭載していて重たい作業もでき、カスタマイズ性が高く、クリアで温かみのある音質が特徴です。サイズが5段階で発売されていて機材の量に合わせて適切なものを選んで導入することができます。
ミキシングコンソールはホールの顔となる最も大事な機材です。
コンサートホール用のミキサーはいろいろなメーカーからさまざまな種類が出ていてS6Lと似ているものであれば、例えば、日本の大手楽器メーカーROLANDのデジタルミキサーや、
ROLAND ( ローランド ) / M-5000 デジタルミキサー

40年以上の歴史を誇るMIDASのデジタルミキサーを2台併用するなど、
MIDAS ( マイダス ) / M32-LIVE デジタルミキサー
有名、人気なモデルが多く悩ましいところですが、コンサートやミュージカル、ビジネス会議など、どんなイベントにでも対応するというホールのコンセプトに合わせた結果、アビッドのS6Lを選んだのだと思います。
〜DIGITAL DELAY〜
続いてはディレイについてです。ディレイは遅延という意味で、入力された音を繰り返し再生することで山びこ効果を再現することができます。その活用方法は多種多様で、音のサステインを稼ぐことでギターソロをゴージャスにしたり、和音に厚みを出したり、とにかくコンサートを華やかにしてくれる機材です。
TC ELECTRONIC ( ティーシーエレクトロニック ) / D-TWO

TC ELECTRONICという有名メーカーの、ディレイがリズムパターンを刻むという新しいコンセプトのもと開発されたマルチタップディレイです。ディレイタイムは0.1ms単位で調整可能で、ミリ単位、マイクロ単位での時間設定が可能。また、多数のプリセットを搭載していて、ボタン1つで設定を切り替えることも、プリセットをカスタムすることも可能です。さらに、シンクロ機能を搭載しており、MIDIやS/PDIFでのクロック同期が可能で、ビート検出にも対応しています。この機能のおかげでディレイがリズムパターンを刻むという、特徴的なディレイをかけることが可能になったのです。他にも、2つのエフェクトを同時に使用することができたり、エフェクトの順序を入れ替えたりすることも可能で、多機能で高性能な点を売りとしているディレイプロセッサです。
音それぞれにマッチした楽しげな躍動感を生むことができ、観客も思わずリズムを刻んでしまう。そんなディレイだからこそ、採用されたのだと私は考察します。
サウンドハウスでも以前販売していましたが、残念ながら生産完了となってしまった様です。
〜DIGITAL MULTI EFFECT〜
続いて解説するのはマルチエフェクターです。ここでいうエフェクトは電気的に音に変化を与えることです。マルチエフェクターは1台でいろんなエフェクトをかけることができます。
こちらでエフェクターやプロセッサーについて詳しく解説されています。
YAMAHA ( ヤマハ ) / SPX2000 マルチエフェクトプロセッサー

REVERB 6000

誰もが知るYAMAHAのSPX2000。プロ用途にも十分に対応できる高品位なREV-Xリバーブやエフェクトを多数内蔵していて、エフェクトのパラメーターを細かく調整できるため、幅広い音作りが可能となっています。また、24bit/96kHzの高音質に対応していて、モニターが大きく見やすく、操作がしやすいという特徴もあります。実はオーディオインターフェースの機能を搭載しているため、コンピューターと接続し、DAWでのレコーディングにも使えてしまいます。切り替え機能により、スタジオやライブでのセットアップやシーンチェンジをスムーズに行える点も採用されたポイントだと思います。
そしてREVERB 6000。デンマークのTC ELECTRONICが開発した高品質なリバーブ・アルゴリズムを搭載しており、自然で豊かな響きを生み出すことができます。また、様々な種類のリバーブを内蔵しており、様々な音楽ジャンルに対応することが可能。リバーブ以外にも、ディレイ、コーラス、フランジャー、エコーなど、多種多様なエフェクトが内蔵されていて、タッチスクリーンにより、直感的な操作が可能です。また、オプションのリモートコントローラーも用意されており、より細かい調整が遠隔で実現できるのです。オプションのエキスパンションカードを追加することで、新たなリバーブ・アルゴリズムやエフェクトを追加することができ、さらに、デジタル入出力やMIDI、Ethernetなど、さまざまなインターフェースを備えており、システムの拡張が容易となっているのです。採用されているのを知った時は、「そりゃぁこれを使いたくなるよな」と思ってしまいましたね。何せ機能が豊富で高音質、拡張性に優れていて、コンサートにうってつけの最高級品ですから。TOKYO DOME CITY HALLに限らず、世界中の多くのスタジオやライブ会場など、音楽制作現場などで広く使用されています。
メインスピーカーシステム
お次はスピーカーシステムをご紹介します。ミキシング、エフェクトなどの結果を観客に届ける音響的にもインテリア的にも重要な機材です。
〜アレイスピーカー〜
こちらでスピーカーについて詳しく解説されています。
VTX V20

VTX V25

〜サブウーファー〜
メインスピーカーでは足りない低音域を補うためのウーファーです。
こちらでサブウーファーについて詳しく解説されています。
VTX S28

〜パワーアンプリファイア〜
ミキサーから出力される音を増幅してスピーカーやサブウーファーで鳴らせるようにする機材です。
こちらでパワーアンプリファイアについて詳しく解説されています。
IT12000HD

IT4x3500HD

〜システムイコライザー〜
音質の補正や改善、音作りに使用される特定の周波数帯域を強調または減衰させることができる音響機器です。EQとも言います。
LM44

アンプリファイアのIT12000HDやIT4x3500HDは一台200万円する最上位モデルです。それを合わせて42台。単純計算でも8,400万円です。スピーカーなども合わせるとスピーカーシステムだけで2億円ほど費用がかかっています。
先日、TOKYO DOME CITY HALLの第二バルコニー2列9番というアレイスピーカーから10mも離れていない席で低音好きなロックミュージシャンのコンサートを聞いたのですが、胸元が振動する大迫力な低域、音圧では想像できないほど鮮明な高域、低音に負けない力強い中域。演出でモデルガンを撃った時はキーンという耳鳴りで1秒間失聴するほど大音量。しかしうるさいとは感じないほど綺麗な音でした。あれ、2億円の音だったのか…。
最高級品をとことん大量に導入して圧倒的な、超圧倒的なコンサートを観客に届ける。正直に言って、3000人規模のホールの割にはやりすぎだと思うほどスピーカーにこだわっています。大好きなアーティストの歌声をこのホールで聴けるとは光栄でした。
ちなみにスピーカーは参考画像の様に連結して上からぶら下げて使っていました。左右に12台繋げてぶら下げていたのでとてもカッコよかったです。こうすることで近距離も中距離も長距離も満足のいく音を届けることができます。アレイスピーカーと言います。
TOA ( ティーオーエー ) / HX-5B コンパクトアレイスピーカー
PAについてより詳しく
PA機材についてより詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめです。
著者の私はよく家でスピーカーにミキサーを繋げて遊んでいます。楽しいですよ。ちなみに使っているミキサーはこれです。カラオケするには申し分のない機能と使いやすさで色々なところで使えます。おすすめです。
CLASSIC PRO ( クラシックプロ ) / AM802FX コンパクト・アナログミキサー
TOKYO DOME CITY HALL編はここまで。
最後までご覧いただきありがとうございました。次回の投稿をお楽しみに。
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