ここから本文です

シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その120 ~Jポップの女王 大橋純子さん パートⅠ~

2023-02-13

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

稀代のシンガー 大橋純子

大橋純子さんは北海道出身のヴォーカリストで日本人離れした歌唱力はセンセーションを巻き起こしました。これまでに聴いたことの無い高音域まで伸びる歌声に多くの人が魅了されました。
日本の女性ヴォーカリストのスタイルは高い音を出す場合はシャウトした音圧で聴かせるスタイルが多かったように思います。
しかし、大橋純子さんは違いました。シャウトをしなくては出ないような高音域をいとも簡単にすんなりと出していました。聴く側も息苦しさを感じないのです。
そして、その声質を生かした音楽が日本のポップスに誕生したのです。

理解されなかった高度な音楽性

今ではJポップは立派なカテゴリーとして市民権を獲得したジャンルですが、1970年代にはそんな言葉は存在していませんでした。当時はフォークソングやロックとの中間に「ニューミュージック」というカテゴリーがありました。
大橋純子さんの音楽は「ニューミュージック」なのか、はたまた「歌謡曲」なのか…今はJポップという言葉がフィットするのかもしれませんが、当時は「歌謡曲」として捉えられていたミュージシャンでした。

ロックが中心だった当時の音楽シーン

当時の日本では8ビートを中心としたハードロック的音楽がシーンを席巻していました。関西には上田正樹さんが演っているファンキーなブルースをベースにした音楽もありました。こちらはアメリカ南部の音楽にインスパイアされた、泥臭いのですがうねるリズムが心地よく、腕利きの演奏者が揃っていました。
一方、東京では大橋純子さんの様な洗練されたリズムとコードワーク、洒落た歌詞を有した楽曲はまだ珍しかったのです。
大橋純子さんの音楽は作家性の強い種類のものでした。作曲や作詞にプロフェショナルを使い、音楽にはロックとジャズの融合したクロスオーバー的要素を取り入れた作品を前面に打ち出していました。
しかし、そういった音楽的志向と演奏技術を持ち合わせたバンドは見当たらず、結果としてアルバム制作では一流のスタジオミュージシャンが集められる形になりました。

私の友人達も後述の「ペイパー・ムーン」や「サファリ・ナイト」をコピーしていましたが「サファリ・ナイト」のギターソロを完全に弾ける人間は誰もいませんでしたし、「ペイパー・ムーン」のコードカッティングなども同様でした。

大橋純子さんの音楽ジャンルは歌謡曲!?

大橋純子さんは稀代の歌唱力を持つヴォーカリスト。洗練された演奏技術を背景に生まれるハイスペックな音楽は歌謡界にとってはある種のエポックでした。
しかし当時の日本では大橋純子さんの音楽的コンセプトを捉える力がまだまだ希薄だったため、TV番組出演の際には「歌謡曲」として扱われていました。
この「歌謡曲」で括られることが、後の大橋純子という音楽家に微妙に影響を与え、時代に翻弄されていくきっかけになったのではと私は考えています。

■ 推薦アルバム:大橋純子『PAPER MOON』(1976年)

カバーアルバムだった前作と著名作家陣による楽曲をカップリングさせた大橋純子のセカンドアルバム。作家陣は筒美京平、松本隆、林哲司といったヒットメイカーが務め、演奏者はドラム村上ポンタ秀一、ベース岡沢章、後藤次利、ギター松木恒秀、鈴木茂、杉本喜代志、キーボード深町純、羽田健太郎、ミッキー吉野など、ファーストコールミュージシャンの名前が並ぶ。
大橋純子の高度な音楽性や世界観を現実するにはこれだけの作家陣と演奏者を投入することが必要だったのだろう。
楽曲的にもペイパー・ムーンやキャシーの噂、砂時計など、初期の代表作がクレジットされた重要アルバムになっている。

推薦曲:「ペイパー・ムーン」

大橋純子の楽曲で一番のお薦めはこのペイパー・ムーン。作曲は筒美京平、作詞が松本隆だ。当時としても最高の作家に加え、村上ポンタ秀一、松木恒秀、岡沢章、深町純という超強力面子だ(深町純を除けば前期の山下達郎バンド)。楽曲もさることながら演奏が素晴らしい。特に松木恒秀のギターカッティングは白眉だ。アウトロ部分でのカッティングによるメロディラインの構成は、どうしたらあのようにできるのかをどなたか教えて欲しい(笑)。ギタリスト必聴!
また、村上ポンタ秀一の曲間におけるフィル・インもセンスに溢れている。
ペイパー・ムーンは下北沢の線路脇にあるパブで、チキンのクリーム煮などの料理が美味かった。洒落たパブやレストランを舞台した歌詞は横浜のドルフィン(海を見ていた午後/松任谷由美)や、原宿のペニーレイン(ペニーレインでバーボン/吉田拓郎)など、ミュージシャンが好む素材となった。

推薦曲:「キャシーの噂」

作曲:林哲司、作詞:松本隆という黄金コンビによる楽曲。今聴くと「5番街のマリー」を思わせるが、林哲司の哀愁のあるメロディラインが秀逸。大橋純子の歌唱も抑制され彼女の良さが出ている。ピアニスト、羽田健太郎が弾くのは電気チェンバロ、ホーナー社のクラビネットだ。このクラビネットが楽曲全体の雰囲気を演出している。

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:大橋純子、村上ポンタ秀一、松木恒秀、岡沢章、深町純など
  • アルバム:「PAPER MOON」
  • 曲名:「ペイパー・ムーン」「キャシーの噂」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
サウンドマートスキル出品を探す サウンドナビアフィリエイト記事を書く

カテゴリーから探す

翻訳記事

ブログカレンダー

2025年4月

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30

ブランドから探す

ブランド一覧を見る
FACEBOOK LINE YouTube X Instagram TikTok