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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~私が取材した素晴らしいミュージシャン~ その68

2022-03-17

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

■ 静岡県浜松市出身、上原ひろみさんのドキュメンタリーを提案。しかし…

前回はアメリアで殿堂入りを果たした素晴らしいミュージシャン、穐吉敏子さんを取り上げました。今回はグラミー賞も受賞している、静岡県出身の凄腕ミュージシャン上原ひろみさん取材記です。
上原ひろみさんは1979年浜松市生まれの静岡県が誇るミュージシャンです。バークリー音楽大学を卒業し、多くのアルバムをリリースしています。
上原さんはデビューアルバム「アナザー・マインド」が世界的にヒット。CDショップでは上原さんのCDが山積みにされていました。
私は静岡県浜松市の出身で世界的ミュージシャンのドキュメンタリー番組を制作すべく、企画書を書き、社内ルートを通してヤマハにプレゼンをしました。タイトルは「ファーイーストからの風」。当時、上原さんの知名度は全国レベル。残念ながら地方局の企画書は相手にされることなく、消滅しました(涙)。
その後、某国営放送局で上原さんの番組が放送されました。上原さんのライブ映像はカメラの台数が20台以上あったと思います。国営放送の物流作戦の凄まじさに圧倒されました。そこまでやるか!という程のレベルでした。

以前、奥尻島で地震があった際、私は奥尻へ取材に出ました。我々ニュースネットワークのカメラ台数は数台、某国営放送局は150台以上!でした。お金のかけ方が桁違いでした。私は上原さんのライブ映像を見て、奥尻島の事を思い出しました。地方局がまともに勝負できる相手ではありません。
私の書いた企画書はライブ映像も勿論ですが、上原さんの人となり等をしっかり撮影していくドキュメンタリー番組でしたので、その辺りでの食い違いがあったのかもしれません。

■ 上原ひろみさんの取材チャンス到来!

どの位の時間が流れたか…記憶にはありません。上原さんが静岡市でライブをやることになり、その主催か後援が私の勤務する放送局でした。これはチャンスです。取材を申し入れOKがでました。尺が7~8分程のカメラマンリポートです。
オープニング映像は上原さんが車から降り、エレベーターに乗るまでをカットを切らずにファーストカットとして使いました。ライブ直前のリアル感と緊張感を強調するためでした。
上原さんはダイナミックな演奏とは裏腹に、とても神経の細やかな方でした。
私はカメラを回している時、上原さんが神経質そうにピアノの位置決めをしているのです。数センチ単位でピアノの位置を探っていました。
「ピアノの位置が気になるのですか?」私は質問しました。
「ユニティーが大切なのです」と彼女。
私は「???」でした。
詳しく尋ねると、ライブ会場において3人で演奏する場合は演奏位置も含めての統一感が大切で、ピアノの位置にもこだわる必要があるというのが彼女の答えでした。
多分、ステージのボリューム感に対してのピアノやドラム、ベースの位置関係が演奏にも影響するのだろうと私は思いました。

■ インタビューで出た印象深いフレーズとは?

上原さんの発した言葉にミュージシャンとしてのスタンスを学びました。
私:「演奏する上で注意している事を教えてください」
上原:「メンバーにいつも言っていることは危険を冒せ!ということです」
「常に演奏で心がけていること、それが『Take a RISK 』です」

私:「どういうことですか?」
上原:「ジャズはアドリブの音楽。毎回、同じ気持ちで演奏すればつまらないソロになってしまう。だから自分も含め、メンバーには常に危険を冒して演奏に臨むように話している。
そういう気持ちから、いい音楽が生まれる…」
私は上原ひろみの音楽が、この気持ちから生まれるものだと知りました。
音楽をする我々にとっても大変勉強になる言葉です。

■ 推薦アルバム:上原ひろみ 『アナザー・マインド』(2003年)

上原ひろみの世界デビューを果たした記念すべきファースト・アルバム。上原のジャズマインドが結実したアルバムでピアニストとしてのアイデンティティーを表現できるトリオ編成となった。ジャズといっても4ビートジャズに固執する訳でもなく、様々な音楽の要素が提示されている。
マイルス・デイビスが敬愛したピアニスト、アーマッド・ジャマルも共同制作者としてクレジットされている。

推薦曲:『XYZ』

アルバム1曲目は4ビートジャズからは離れた印象のある楽曲。上原ひろみは影響を受けたミュージシャンにフランク・ザッパを挙げている。この曲はエマーソン・レイク&パーマーの有名曲「タルカス」を思わせる。粒立ちの良いアタッキーなテーマフレーズはピアニスト上原の真骨頂。変拍子なリズムとベースソロの後に可愛らしいピアノソロがある。目まぐるしく変わる楽曲展開にフランク・サッパを思わせる部分も多い。

上原さんを取材した数年後、上原さんは弊社の夕方の番組にゲスト出演されました。その時に上原さんの指を拝見して驚きました。小指の下側の筋肉が盛り上がっているのです。触らせてもらいましたが見事な筋肉でした。全ての音に対して、強力な粒立ちで演奏される音の秘密を知りました。

■ 推薦アルバム:上原ひろみ『スパイラル』(2006年)

私が静岡で取材した当時にリリースされたアルバム。表題曲はプログレシブロックを思わせる展開。バップジャズとは異なる美しく、クラシカルなメロディに心を奪われる。

推薦曲:『スパイラル』

表題曲はプログレシブロックを思わせる展開。クラシカルで美しいメロディに心を奪われる。組曲風に仕立てられたこの曲を聴いた時、上原ひろみの音世界にはこんな抽斗もあるのかと驚きました。

推薦曲:『カンフー・ワールドチャンピオンの逆襲』

上原はピアノの上に赤いノードリードのデジタルシンセサイザーを乗せている。TV番組「情熱大陸」で小さな体にこのシンセサイザーを背負って移動する姿が目に焼き付いている。
この曲は前編、ノードのシンセサイザーで構築されており、パラディドル奏法による複雑なリフが印象的。この曲にもフランク・ザッパの影響を感じる。とにかく楽しい曲なのです。
ノードの赤いシンセサイザーはアナログシンセサイザーをデジタル処理して再現したものでアナログ・モデリングシンセとして世界中で大ヒットした。
この楽曲ではアナログシンセサイザーの一番おいしい音がノードのアナログ・モデリングシンセで再現されている。


■今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用機材

  • アーティスト:上原ひろみ
  • アルバム:「アナザー・マインド」「スパイラル」
  • 曲名:「XYZ」「スパイラル」「カンフー・ワールドチャンピオンの逆襲」
  • 使用機材:アコースティックピアノ、ノードリードシンセサイザー

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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