スピーチ、レッスン、パーティー、DJ、バンドライブなどさまざまな音楽イベントに必要な「PAシステム」。ただ、必要な機器が多く、それぞれ、どのような点に注意して選んでよいかわからないという方は多いのではないでしょうか。ここでは機器ごとに選ぶ際のポイントを紹介していきたいと思います。
PAシステムの基本的な機器構成は下記となります。
「アナログミキサー」:マイクやギター、キーボードなど複数の機器を1つにまとめて出力します。
「パワーアンプ」:スピーカーを鳴らすレベルまで音声信号を増幅します。
「パッシブスピーカー」:パワーアンプで増幅された信号を音に変えて出力します。
ミキサーの選び方
1. マイクを何本使用するか、モノラル出力の機器をいくつ使用するか確認しましょう。
マイクを接続することができる入力端子は、「XLR端子」となります。
ラインレベル(モノラル)で出力される機器を接続する場合は「フォン端子」に接続します。

2. 使用するステレオ機器の数を確認しましょう。
DJミキサー、シンセサイザー、キーボード、CDプレーヤーなど、ステレオ(L/R)出力のある機器は「ステレオ入力チャンネル」に接続します。縦にL、Rとフォン端子が配置されていることが多いです。

3. エフェクターが必要かどうか確認しましょう。
例えばバンドの「ボーカルにリバーブをかけたい」という場合は、エフェクターを搭載しているモデルを選びましょう。

アナログミキサーのページでは、絞り込んで検索する機能がありますのでこちらもご活用ください。
スピーカーとパワーアンプの選び方
1. 観客人数に合わせたW数の目安を調べましょう
W数の目安は、
スピーチ系のイベントで「観客1人=1W」
ライブなど音圧、音量が必要とされるイベントでは「観客1人=3W」と言われています。
野外のイベントでは、屋内と違い、音が拡散するため、それぞれ2倍程度のW数を目安にしてみてください。
ただし、さまざまな条件により音の聴こえ方は変化するため、あくまで目安として参考にしてください。
例)CSP10 2台をCPX1500(500Wx2)で使用する場合は「500W」を目安にします。
100W | 300W | 500W | 1000W |
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2.パッシブスピーカーの許容入力に合わせたパワーアンプを選びましょう。
基本的なW数の考え方はこちらになります。
スピーカーの許容入力(PGM:プログラム) > パワーアンプの定格出力(RMS:実効値)
サウンドハウスでは、小さすぎず、大きすぎずのちょうど良い組み合わせとして「許容入力W数の半分 以上、許容入力W数 未満」を推奨しています。
例)CSP10 許容入力500W(8Ω) → 8Ω時の出力が250~500W程度のパワーアンプ
-
1.スピーカーのインピーダンスと許容入力を確認
例)CLASSIC PRO CSP10
インピーダンス:8Ω、許容入力:500W(PGM) -
2.パワーアンプの定格出力を確認
例)CLASSIC PRO CP1000
8Ω時 340W+340W(RMS)
スピーカーの許容入力より大きい信号を入力すること、またスピーカーの許容入力値に近い出力の大きい信号を長時間入力することは、スピーカーの破損の原因になります。
パワーアンプは最大出力を超える場合、出力信号はクリップします。クリップにより矩形波のように波形が変化した信号は、ドライバーを本来想定されているよりも大きく振幅させてしまったり、焼損の原因となる高調波を発生させてしまったりとスピーカーを破損させる原因になります。よって小さいアンプで大きなスピーカーを鳴らすことはクリップさせやすくし、スピーカー破損の危険性を高める原因になりますので、適切なパワーアンプを選ぶことが重要です。
スピーカー、パワーアンプページでは「スペックで選ぶ」というツールを用意しているのでこちらも参考にしてみてください。
音の違いについて
ここで、よくいただくお問い合わせが「スピーカーによる音の違い」「パワーアンプによる音の違い」についてです。音質に関しては感覚もありますので一概に言うことはできません。ただ、それでは選びようがないので、「サイズ」「素材」「W数」に焦点を当てた選定方法のご紹介記事を用意していますのでご覧いただければと思います。また、このページでは比較用音源を用意していますのでヘッドホン、イヤホンでじっくりと聴いてみてください。スピーカーサイズが大きくなるにつれて低音の迫力、音量感が増していく様子や、同じサイズでもハイエンドクラスになると、よりクリアでバランスが良い「高音質」と言われるサウンドになります。ぜひ検討する際の材料にご使用いただければと思います。
関連記事:【2022年おすすめ】いろんなPA用スピーカーを聴き比べしてみた!!
おすすめPAシステム例



パッシブスピーカーとパワードスピーカーはどちらがおすすめ?
よくあるお問い合わせですが、結論から言うと音質や音量はどちらが優れているということはありません。
それぞれメリット、デメリットがありますので、どのポイントを重視するかで決めていただければと思います。
パッシブスピーカー
- メリット:
- ・設置場所に制限が無く、どこにでも置くことができる
- ・スピーカー追加が簡単(パワーアンプの対応インピーダンス内で)
- ・PAシステムの中でスピーカーのみ変更することが可能
- デメリット
- ・音を鳴らすにはパワーアンプが必要(=配線も必要)
- ・スピーカーの許容入力とパワーアンプのアンプ出力の組み合わせを考慮する必要がある
パワードスピーカー
- メリット:
- ・機材の数、配線の数を減らすことができる
- ・その分、セッティングも簡単
- ・最適なパワーアンプが搭載されているので組み合わせを気にする必要がない
- ・モデルによってはDSP搭載、ワイヤレスコントロール対応のものがある
- デメリット
- ・スピーカーの近くに必ず電源が必要
- ・天井面や壁面設置した場合、スピーカー背面での操作が難しい場合がある
フロアモニターの接続方法について
メインスピーカーとは別に、ステージ上に演者向けのスピーカーが設置されているのを見たことがある人は多いかと思います。
基本的に、メインスピーカーは演者の立ち位置よりも前に設置されるため、自分の音や他の楽器の音を聞くことができないと、本来のパフォーマンスをすることができません。
そこで、登場するのがフロアモニターです。

フロアモニターの基本的な接続方法について紹介します。
「ミキサーのAUX SEND(MON SENDなど)」
↓
「パワーアンプ+パッシブスピーカー」or 「パワードスピーカー」
各chのAUXつまみを回す=AUX SENDから出力される というシンプルな構造になっています。

ポイントとしては
- ・メインスピーカーとは別のバランスで出力することが可能
- ch1のマイクは大きめに返してほしいなど、演者に合わせた調整をすることができます。
- ・AUX SENDから出力される信号レベルは、各chのボリューム変動に左右されません。
- メインスピーカーから出力される音の調整に合わせてモニタースピーカーの音も変わってしまうと正しくモニターすることができないため、プリフェーダー仕様となっています。
- ・AUX SENDから出力される信号レベルは、「パワーアンプ増幅前」
- AUX SENDからパッシブスピーカーを接続しても音を鳴らすことはできませんのでご注意ください。
サブウーファーの接続について
サブウーファーとは、フルレンジスピーカーでは十分に鳴らすことができない低域(約100Hz以下)を補い、サウンドに新たな厚み、躍動感を追加し、パフォーマンス全体を高めることができます。
サブウーファーの接続方法はいくつかありますが、ここでは基本パターンをご紹介します。
アナログミキサーのメイン出力
↓
クロスオーバー(チャンネルデバイダー)
↓
高域用パワーアンプ → パッシブ・フルレンジスピーカー
低域用パワーアンプ → パッシブ・サブウーファー

サブウーファーを選ぶ際のポイントは…
クロスオーバー(チャンネルデバイダー)を使用する
使用しなくても音を鳴らすことはできますが、ミキサーからのフルレンジ信号をそれぞれのパワーアンプへ入力することになるため、フルレンジスピーカーが鳴らす低域側とサブウーファー側が鳴らす高域側が重なってしまう帯域が発生します。これにより、明瞭度が損なわれてしまう場合があるため、それぞれのユニットのパフォーマンスを最大限に引き出すために、しっかりと適材適所に音声信号を振り分けてあげることが大事です。
ステレオ2ウェイの場合、基本的なパラメーターは下記になります。
- XOVER FREQ:低域と高域の境目となる周波数
- LOW OUTPUT GAIN:低域の音量
- HIGH OUTPUT GAIN:高域の音量

特定の設定値は無いため、例えばサブウーファーの仕様に推奨クロスオーバー周波数があれば、まずはそこからスタートして、あとは耳で実際に確認しながらバランスを調整していくのが良いでしょう。
フルレンジスピーカーより、ウーファーユニット径が大きなサブウーファーを選ぶ
- フルレンジ:8インチ、10インチ → サブウーファー:12インチ
- フルレンジ:10インチ、12インチ → サブウーファー:15インチ
- フルレンジ:12インチ、15インチ → サブウーファー:18インチ
ユニット径が大きいほうが、より低い、より音圧のある低音が得られる
シンプルにサイズが大きいほうが音量、音圧、低域再生面で有利となります。
12インチx2と18インチx1を比較した場合、どちらが良いか?というのがありますが、前者はやや重心が高めのアタック感を感じる重低音、後者は、ぐっと低い重心に構えた厚み、深みのある重低音になります。

左:CLASSIC PRO/CSX212S、右:QSC/E118SW
PAシステムを考える上でおすすめしたいこと
1. 普段から音楽イベントがあったらスピーカーをチェックしてみよう
例えば、ショッピングモールではトークイベントからライブイベントまでさまざまなタイプのイベントが開催されています。これはチャンスです!どんなスピーカーが使用されているか、どのサイズのスピーカーが使用されているか、スピーカーの数はいくつで、どのように設置されているかなどチェックしてみてください。
2. 知り合いに聞いてみよう
周りにイベントPAをしている知り合いがいる場合は、直接、相談してみるのもありです。現場に出ている方の実経験に勝る情報はありません。このスピーカーはどんな音?使ったことありますか?おすすめはどれですか?と疑問に思ったことを聞いてみましょう。
3. レビューや動画、SNSをチェックしてみよう
商品レビューは実際に購入した方が書いてくれた有益な情報です。中には「〇〇人くらいの場所で使ってみて〇〇だった。」など、具体的な数字で感想を書いてくださっている方もいらっしゃいますし、「定番の〇〇と比べて□□は~だった」と比較情報もたくさんあります。またYouTube、Facebook、InstagramなどSNSでは、日本だけではなく、世界中のユーザーが投稿してくれている動画を見ることができます。例えば、ライブイベントの様子を見ながら、スピーカーをチェックしたり、観客目安を想像したりして、PAシステムの参考にしてみてください。
4. カタログやメーカーサイトに記載されているPAシステム例を参考にしてみましょう。
定番ブランドYAMAHAでは観客数に合わせたPAシステム例が紹介されていますのでチェックしてみてください。ここで使用されているスピーカーのサイズや、パワーアンプのW数などを参考にしてみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は「アナログミキサー」「パワーアンプ」「パッシブスピーカー」で構成されるシンプルなPAシステムを例に、構成を決める際の考え方について紹介させていただきました。さまざまなメーカー、シリーズ、モデルがありますが、基本的なチェック項目は共通になります。各機材の仕様を確認していただき、インターネット上にある有益な情報と合わせてご検討いただければと思います。