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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その282 ~ピンク・フロイド1975年のライブテイクから見えたプログレシブ・ロック、オリジナルトラックの再現性~

2026-01-19

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

ピンク・フロイド50周年記念アルバム『炎~あなたがここにいてほしい~』から見えた意外なライブ・パフォーマンスの高さ

前回 とりあげたピンク・フロイドの『炎~あなたがここにいてほしい』の収録テイクの中に、オリジナルアルバム以外の楽曲が含まれていました。 その中に超名盤『狂気』のライブテイクが含まれていました。アルバム『狂気』はピンク・フロイドが1973年にリリースした歴史的大名盤で、今も多くのピンク・フロイド・ファンから絶大な支持を得ています。その芸術性の高さはプログレッシブ・ロックの枠を超え、ロック史上に燦然と輝き続けています。 どうしてアルバム『炎』にアルバム『狂気』のライブテイクを入れたのかは分かりませんが、私が驚いたのはピンク・フロイド『狂気』のライブテイクの再現性の高さでした。

ピンク・フロイドは技術的には…

プログレッシブ・ロック、特にピンク・フロイドは、ストレートなロックバンドと比較するとアルバムコンセプトが難解な場合が多く、特に『狂気』はサウンド面でもサウンドエフェクトや叫び声、心臓音、駆け回る足音、時計のベルなどのSEがふんだんに使われ、アルバムが構成されています。 更にピンク・フロイドにはアラン・パーソンズという天才的なレコーディングエンジニアが関わっていました。アラン・パーソンズはビートルズの名盤『アビイ・ロード』を手掛けるなど、名の知れたファースト・コールのレコーディングエンジニアでした。 そんな一流エンジニアによって録音された『狂気』は、スタジオワークも駆使されたアルバムでした。 私は凝りに凝ったオリジナルトラックをライブで再現するのは到底無理な話だと考えていましたし、そう考えたのは私だけではなかったはずです。

特に50周年のジャパン・エディションに収められているのは1975年のライブテイク。 『狂気』リリース、2年後のライブ録音です。 技術的に進歩した2000年代ならばいざ知らず、50年前の機材でどこまでそれが再現できるのか、ほぼ不可能だろうと考えていました。

元々、ピンク・フロイドの根底にあったのはフォーキーなポップソングです。 オーケストラと共演して話題を呼んだ『原子心母』のB面を聴くと、ピンク・フロイドが壮大な楽曲とは真逆の、フォーキーな曲やブルースを演奏したトラックが収められています。 アコースティック・ギターがフィーチャーされた楽曲『If』『Fat Old Sun』や『Summer '68』では、生ピアノの弾き語り的なアコースティックタッチの楽曲を聴くことができ、英国風メロディ・ラインの美しさが耳に残ります。 初期の楽曲『See Emily Play』などもサイケな側面が見えるものの、ピンク・フロイドは英国の良質ポップバンドという見立ての一方で、実験的な要素、サイケデリックな要素が入ったキワモノバンドとして捉えられる向きもありました。 それがクラシカルな要素やプログレッシブな要素を取り入れることで、バンドとしての様相が変化していきます。 そしてそれらの要素は楽曲再現の難易度を高めていき、その究極である『狂気』につながります。 さらに英国のデザイン集団「ヒプノシス」による摩訶不思議なアートワークが後押ししたのはいうまでもありません。 元々その手のバンドなのだから、難解な『狂気』の楽曲の再現は「無理」というのが私の考えでした。

■ 推薦アルバム:ピンク・フロイド 『ピンク・フロイド・アット・ポンペイ』(2025年)

1971年リリースのポンペイでのライブアルバム。
驚くべきことはアルバム『おせっかい』からの大曲「エコーズ」をほぼ再現しているということ。
冒頭の「キッ」という何で出したか分からないあの音は、ピアノにリングモジュレーターをかけたのではないか、あるいはシンセサイザーではないかなど、話題となった。 正解はアコースティックピアノにレスリースピーカーを通し、深くリバーブ(残響)をかけてイコライジングした音。 スタジオワークで作っているのだから、ライブであの音を出すのは不可能などと囁かれたが、ポンペイのライブでは完璧にあの音を再現している。 ピンク・フロイドに『エコーズ』を再現できる演奏力があったというのが驚きだった。ボーカルもほぼスタジオ録音版と遜色はない。

■ 推薦アルバム:ピンク・フロイド 『炎~あなたがここにいてほしい』(2025年)

ピンク・フロイド『炎~あなたがここにいてほしい』発売50周年を記念してリリースされた企画盤。この『炎〜あなたがここにいてほしい - 50周年記念盤ジャパン・エディション』には、アルバム『狂気』の1975年のロサンゼルス・スポーツ・アリーナでのブートレグライブが収録されている。このライブテイクを聴くと、『狂気』の楽曲は1975年時点で、ほぼ完全に近い形でライブ再現できていることになる。私の拙い思い込みは見事、彼らに覆されてしまった。

推薦曲:「走り回って」

英国のEMS(エレクトロニック・ミュージック・スタジオ)社によるシンセサイザーを使用し、8音のシーケンスを組んで走り回るというイメージを音楽に転化させたことで知られる名曲。今ではシンセサイザーによる自動演奏は常識だが、1973年当時、「このフレーズは一体なんだ?! 誰が弾いているのか?」と大きな話題になった。ピンク・フロイドはこのEMSをライブに導入し、摩訶不思議な音を実現した。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ピンク・フロイド、デヴィッド・ギルモア、リック・ライト、ロジャー・ウォーターズ、ニック・メイスン
  • アルバム:『ピンク・フロイド・アット・ポンペイ』、『炎~あなたがここにいてほしい 50周年記念盤ジャパン・エディション』
  • 推薦曲:「エコーズ」、「走り回って」

⇒ シンセサイザー一覧


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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等
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