私が普段レコーディング等で使用しているプリアンプ "Darkglass Microtubes X7"
このペダルは、非常に使い勝手の良いベース用ドライブ/プリアンプなのですが、私の周りにいるベーシストを見渡すと、B7K や Alpha Omega といった定番モデルの方を使っている人のほうが多い印象があります。初めて触れる人にとっては、操作系がやや複雑で「どこをどういじればいいのか分かりにくい」という面もあるのでしょう。
そこで今回は、X7の特徴や操作方法、実際のサウンドメイクのコツをご紹介します。
ペダルの特徴:低域と高域を分けて処理するユニークな設計
X7の最大の特徴は、入力された信号を「高域」と「低域」の2系統に分けて処理する点です。
一般的な歪みペダルはフルレンジでベース信号をまとめて歪ませるのが普通ですが、X7では低域と高域を独立して処理する仕組みになっています。
- 低域側はコンプレッサーで整えられ、タイトでクリーンな土台となるサウンドに。
- 高域側は歪みを付加して、煌びやかな倍音やエッジを付け加える。
この2つの信号をブレンドすることで、ベースに必要な「芯のあるロー」を残しつつ、存在感のある歪みサウンドを作ることができます。
結果として、アンサンブルに埋もれず、それでいて低域がスカスカにならない理想的なバランスが得られるのです。これはバンド演奏において大きなアドバンテージとなります。
ベーシストに嬉しい4バンドGEQ
X7のもうひとつの魅力は、搭載されている4バンドのグラフィックイコライザー(GEQ)です。
X7の4バンドGEQはベーシストが触りたいであろう周波数帯を調整できるよう設計されています。
- Low Shelf(80Hz)
- ベースの基礎となる低域を調整。存在感を増したければブースト、バスドラムとぶつかるようならカット。まさに土台作りに欠かせない帯域です。
- 500Hz
- 「いわゆるモコモコした帯域」。ここをカットすることでドンシャリサウンドに。特にスラップをする人にとって調整したいであろう帯域で、チョッパー御用達の バルトリーニのXTCTプリアンプ でもこの500Hzを削る仕様が採用されています。
- 1kHz
- 人間の耳が最も敏感に反応する帯域。ボーカルやギターが密集するため、通常は少し抑えるのがセオリーですが、ソロやリードベースを弾く際には積極的にブーストすると一気に前に出ます。
- High Shelf(5kHz付近)
- ピッキングやスラップのアタック感をコントロールするのに最適。
この4つの帯域を自在に扱うことで、シンプルながら非常に幅広いサウンドメイクが可能です。
High Passフィルターの使いこなし
X7を使いこなす上で、特に重要なのが High Passフィルター です。
このフィルターは「どの帯域から上を歪ませるか」を決めるパラメータで、設定次第で歪みのキャラクターが劇的に変化します。
- 100Hz付近に設定 → 低域から歪ませるため、ファズのように分厚く荒々しいサウンドに。
- 1kHz付近に設定 → 低域はクリーンのまま残り、高域だけ歪むため、シャープでエッジの効いたサウンドに。
このように、単に「歪み量」を調整するだけでなく、どの帯域に歪みをかけるかを指定できるのがX7の真骨頂といえます。
Low Passフィルターでキャラクターを補正
High Passが「歪ませる帯域」を決めるのに対し、Low Passフィルター は「どこまで低域を残すか」を調整します。
- 500Hz寄りに設定 → ルーズでヴィンテージ感のあるサウンドに。
- 50Hz寄りに設定 → 現代的でタイトなサウンドに。
つまり、High PassとLow Passの組み合わせ次第で、「ファジー/シャープ」「ルーズ/タイト」といったキャラクターを自在に切り替えられるのです。
おすすめセッティング例
1. スラップ向けドンシャリサウンド

- High Passをやや高めに設定してアタックを強調。
- 500Hzと1kHzを少しカット、80Hzをブーストして低域を厚くする。
- 使用ベースがアッシュ×メイプルのジャズベの場合はHigh Shelfを上げすぎない方が自然。アルダー×ローズやプレベではHigh Shelfを少しプッシュしても良い。
この設定は、ドンシャリでアタック感のある抜けの良いモダンなサウンドを得られます。
2. ソロ向けリードベースサウンド

- コンプレッサーとドライブをMAX近くまで上げる。
- 500Hzと1kHzをブーストして中域を前に出す。
- Low ShelfとHigh Shelfを軽くカットして、帯域を整理。
この設定は過激に見えますが、X7は極端なセッティングでも破綻しにくく、存在感あるリードサウンドが作れます。バンド内でソロを取るときや、インスト曲で前に出たいときに効果的です。
まとめ
他のDarkglassペダルと比べても「玄人好み」「マニアック」と思われがちですが、むしろ一台で幅広いジャンルに対応できる万能機種だと思います。ロック、メタル、ファンク、ポップスといった多様な楽曲で活躍するでしょう。
初めて触れると少し操作が難しく感じるかもしれませんが、High PassとLow Passの関係を理解すれば、思い通りのサウンドを作れるようになります。
Darkglass Microtubes X7は、ただの歪みペダルではなく「低域と高域を自在に操れるマルチツール」としての魅力を持った一台です。既存のベースサウンドに行き詰まりを感じている方、バンドの中で自分の音をもっと主張したい方にとって、強力な武器になるでしょう。
おまけ
私がレコーディングで参加している小林信一さんのアルバム"Neckties from Hell"に収録されている[Guitar Legend]という楽曲でX7を使用したベースソロが収録されております。
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