u-he COLOUR COPYはBBD(Bucket-brigade device)をエミュレートしたディレイ・プラグインですが、u-he社としては比較的素直な作りをしていて、マニアックすぎない扱いやすいディレイを目指したようです。比較的簡単に扱えますが奥が深いという印象です。 ディレイを基本としながらも、コーラス、フランジャー、コムフィルタまでカバーしているため、幅広い使い方が可能になっています。
2018年にリリースされ、2024年もバージョンアップされました。 u-heは20年以上前のプラグインも無償バージョンアップされ続けます! コアのプログラミングはテープエミュレータのSatin、コンプレッサーのPresswerkも手掛けているアナログエミュレートのエキスパートSascha Eversmeierさんです。
ここでは、COLOUR COPYのBBDの音色にクローズアップしたいと思います。
BBD(Bucket-brigade device)とは?
実物のBBDは下記のようにIC化されています。 80年代はアナログディレイなどのエフェクトや電子楽器等に広く使われていました。 下写真は所有している1980年代の電子ピアノで使われていた松下電器のMN3204とMN3102です。 デュアルで使用することでクロックノイズをキャンセルさせ、スムーズな音を実現しています。MN3200シリーズはバケツに相当するステージ数は512個です。

内部的には名前の通りバケツリレー式となっています。 バケツの実態はコンデンサーで、ここに電位を蓄え、それを次のコンデンサーに渡します。 バケツは離散的であり、次のコンデンサーに渡すたびに品質も劣化して行きます。 そして全てのバケツを通ってから出力されます。 品質の劣化は欠点とされていましたが、現在では、わざわざこれを再現して使うという流れになっています。 特にディレイにおいては、適度に劣化すると音が丸くなって利用しやすくなります。

MN3200シリーズの回路は以下のようになっています。

※松下MN3000シリーズ データシートから抜粋
COLOUR COPYでは以下のようにステージ長さを設定し、出力ポイントを任意に設定できます。 以下の設定は500msのステージ長で、Lは250msで出力、Rは500msで出力となっています。 ステージから出た音は、フィードバック設定によって、またステージ最初に戻されます。 u-heとしては珍しく、とても分かりやすいUIだと思いました。 波形表示、音符表示などもあり直感的です。

ディレイのウェット
ディレイは、ウェットの音色がとても重要です。 原音(ドライ)に対して、影(ウェット)を薄くするというイメージです。 影の色が原音と同じだと、まるで2重奏みたいになりますし、気が付かないぐらい影が薄いと、原音が少し浮いているようなイメージになります。 絵にすると下のような感じです。同じ絵がズレているだけだと気持ち悪いですね。影のようにすると一番前の絵が少し浮くようになり自然な感じがします。

次の音サンプルは、ウェットにフィルターなし、ローパスフィルターありの違いです。 フィルターがないと、トランジェントの高域成分が耳に付きます。複雑な音の場合は邪魔になることが多い成分です。ローパスフィルタで高域成分を削ると、ドライのみが目立ち、他は影のように後ろに引っ込むようになります。
カラー別サンプル
COLOUR COPYという名前からしてもBBDならではの色を主張していますが、完全なエミュレートを目指しているわけではなく、汎用性の高い調整がされています。 あらかじめ5個の色が設定されていて、それらをシームレスにモーフィングすることが出来るようになっています。 また明るさ、サチュレーション、変調等も可能で、音作りのパラメータは豊富です。 調整次第でテープディレイ的な音から、かなり特殊な音まで作れます。

以下にカラー別の音サンプルを2個ずつ作りました。 はじめに無音からフィードバック最大にした場合の音で、これはハウリングが起こり飽和します。これらの特徴が、そのままウェット音に反映されます。 周波数スペクトルはハウリングが最大になったときの状態です。
2個目のサンプルはエレピを通した時のウェット音で、250msのディレイで徐々に劣化して行きます。それぞれ微妙な差からスタートですが、積み重なることで大きな差になって行くのが理解できます。
1. RESO
緩やかなローパスとマイルドな歪みがあり、 5kHzまでのレゾナンスで高域が確保されます。

2. SPARKLE
ローパス、ハイパスがあり、レスポンスが遅い傾向にあり、フィードバック・ノイズが蓄積しやすいです。

3. FUZZ
強いレゾナンスがあり、フィルターのカットオフ周波数はレートに依存します。 u-heのシンセ Reproに搭載されているディレイに近いカラーです。

4. SNAP
ハイパス、ローパスが急カーブに設定されていて、広くフラットな特性があります。 コンプレッションとエクスパンションのタイミング・オフセットにより、信号の過渡現象が強調されます。

5. DUSK
低域にフォーカスしたカラーで早く高域を失いトランジェントを和らげ、歪も少な目のカラーです。

リアルタイム性
BBD以外の機能にも少し触れておきたいと思います。 このプラグインのコンセプトとしては、リアルタイム性も重視していて、操作系が工夫されています。 特にリアルタイムにRateを変更したり、出力ヘッドを動かしたりしても、気持ちよく音が追従します。 そんなリアルタイム性を使った簡単なサンプルを作ってみました。
下サンプルは通常のディレイから外れた使い方です。 音程を持たないスネアの音を無限ディレイして、強引に音程をいじったものです。
COLOUR COPYは、一般的なディレイとして扱いやすく作られていて、ダッキングなど実用的な機能も搭載しています。さらに、はみ出した使い方もいろいろ出来ますが、詳細は個人のホームページで解説して行きたいと思います。
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