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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その218 ~クリスマスソング考 PartⅡ~

2024-12-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ジャズにおけるクリスマスソング

クリスマスソング考のパートⅡです。
前回はクリスマスソングの背景や過去の楽曲制作を含めてのクリスマスソング考でした。
今回のクリスマスソング特集はジャズにおけるクリスマスソングです。

ジャズとクリスマスソングの親和性の高さはいうまでもありません。
ジャズはテーマとアドリプパートに分かれたシンプルな音楽。中には複雑なものもありますが、テーマとアドリブパートの枠組みを決めれば、曲作りをする必要はありません。
クリスマスソングはテーマであるメロディーラインが優れているので多数にリーチすることができ、たくさんのクリスマス・アルバムも制作されています。

バブル時のクリスマス番組では、ゴールデンの枠でジャズミュージシャンの山下洋輔や渡辺貞夫などが多数出演した音楽番組もみられました。当時はクリスマスソングもネタになり、視聴率が取れた時代でした。

ジャズのクリスマス・アルバムの料理法を聴け!

私はジャズカテゴリーのクリスマス・アルバムを聴くのがとても好きです。素敵なクリスマスのメロディーラインに自分の好きなミュージシャンの歌や演奏がパッケージされれば、寒い季節も楽しく過ごせるというものです。更に工夫されたアレンジであれば完璧です。知った楽曲でしたらアレンジの良し悪しも直ぐに分かります。
例えば私の好きな「ウインター・ワンダーランド」。ポップ仕立ての料理方法もあれば重厚なブラスバンドやオーケストラを設えたアレンジもあります。
スタンダード楽曲をどう料理するのかはアルバムに関わるプロデューサー、ミュージシャンやアレンジャーの腕前によるところなので、ジャズ・クリスマス・アルバムの聴き方としてはその辺りにフォーカスするのも悪くないと思います。

■ 推薦アルバム:『JAZZ TO THE WORLD』 / Meny Artist(1995年)

前回紹介したスペシャル・オリンピックを支援したロックバージョンをジャズカテゴリーにしたアルバム。ジャケットはロックバージョンと同様、キース・へリングである。
参加ミュージシャンはダイアン・リーヴス、ルー・ロウルズ、ホリー・コール、ハーブ・アルパート、ジェフ・ローバー、フォープレイ、ダイアナ・クラール、スタンリー・クラーク、マイケル・フランクス、ブレッカー・ブラザーズ、カサンドラ・ウィルソン、ジョン・マクラフリン、ステップス・アヘッドなど、鬼のようなメンバーが顔を揃えている。

推薦曲:「ウインター・ワンダーランド」 / ハープ・アルバート

打ち込みのビートにベルの音が重なる。ベルは軽めの音ではなく、大きなハンドベルの音。ビートを刻むリズムは軽快に走る「そり」を思わせる。アンサンブルの上をハープ・アルバートのミュート・トランペットがおなじみのメロディを奏でる。
このアンサンブルのアレンジは作曲家でキーボーディストのジェフ・ローバー。ジェフは当時、ハープ・アルバートのアルバムにおけるプロデューサー的な役割を果たしていた。そのタイミングでのこの楽曲ということになる。
聴きどころは後半部分のトランペットとジェフ・ローバーのアコースティックピアノソロの掛け合い。アコピソロをとるジェフ・ローバーはブルージーなスケールも使っているが、何故か黒っぽく聴こえないのはお互いの音楽性によるものだろう。

推薦曲:「ウインター・ワンダーランド」 / デビッド・コーズ

1枚のアルバムに同じ曲が入っているという稀有な例。メローなサックス一本で主旋律を歌い、直後に8ビートを意識したリズムが絡まる。
クリスマスソングはアコースティックピアノの主戦場と思いきや、意外にハモンドオルガンをフィーチャーした曲も多い。
ハモンドオルガンはこの楽曲の骨格を担い、ドン・ワイアットのソロも秀逸だ。
この楽曲はジャズというよりもロック的なアレンジ。更にロック的なキメやリフも多用されている。冒頭の同曲と比較しても面白く、クリスマス・アルバムの面白さはこんなところにもあると思う。

■ 推薦アルバム:『クリスマス・ソングス』 / ダイアナ・クラール(2005年)

ジャズ・ヴォーカルの女王、ダイアナ・クラール初リリースのクリスマス・アルバム。ダイアナ自身が選曲したというクリスマスソング集だ。
クリスマスの定番曲の数々をビッグバンドをバックにハスキーボイスのダイアナが歌う…。
そんな最高のシチュエーションを演出したのが、プロデューサーの巨匠トミー・リピューマだ。アルバムの出来は悪い筈がない。

推薦曲:「ジングルベル」

4ビートを刻むトップシンバルにシンクロするハンドベルにウッドベース、ギターのバッキングが絡む。ジャズど真ん中のアレンジだ。ビッグバンドは小出しにフィーチャーされ中盤から全体を覆う。オケとグルーヴするダイアナの歌唱も聴きどころだ。
途中で端正なダイアナのアコースティックピアノソロも聴ける。
ビックバンドとのコラボだけではなく、ダイアナのアイデンティティもしっかりと盛り込んだアレンジは見事!

推薦曲:「レット・イット・スノー」

ビッグバンドオーケストラがボーカルのバックに回った場合のカッコよさが楽曲冒頭に集約されている。ダイアナが冒頭の一節を歌いブレイクの刹那、ビッグバンドのブラスヒットが響く。この部分だけでアルバムを聴く価値がある筈。
和音を変化させ展開するダイアナのアコースティックピアノソロも聴ける。
アルバムコンセプトであるクリスマスソング集でダイアナ・クラールとビッグバンドを対峙させる方法論は見事に成功したといえる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ハープ・アルバート、デビッド・コーズ、ジェフ・ローバー、ダイアナ・クラールなど
  • アルバム:『JAZZ TO THE WORLD』『クリスマス・ソング』
  • 推薦曲:「ウインター・ワンダー・ランド」「ジングルベル」「レット・イット・スノー」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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