ジャズ・クリスマス・アルバムの隠れた傑作!
クリスマスソング考のパートⅢです。
前回のクリスマスソング特集はジャズで括り、その聴き方などをテーマにしました。
今回はクリスマス・アルバムの中でもハモンドオルガンが大フィーチャーされたアルバムをご紹介したいと思います。
前回も書かせてもらいましたが、クリスマスソングをテーマにしたジャスの中でオルガンを使ったものは数多く存在します。クリスマスはキリスト教の祭日ですから、クリスマス→教会→讃美歌→オルガン…という公式のど真ん中ある楽器だということになります。
またハモンドオルガンの音色の持つ独特の暖かさも要因の1つかもしれません。様々な理由があるとは思いますが、ハモンドオルガンを使ったクリスマスソングはとてもいいものだと思います。
今年のクリスマス・アルバムの最後はそんなハモンドオルガンを中心としたサックス奏者のアルバムにフォーカスをあて、代表的なクリスマスソングの沿革もご紹介します。
サックス奏者、ハリー・アレンのジャズのクリスマス・アルバム
ハリー・アレンは、ワシントンD.C.で生まれのテナー・サックス奏者。
過去にはピアニストの巨匠であるトミー・フラナガンとクリスマスソングで共演歴もありますが、全編クリスマスソングというのは以下に紹介するアルバムが初めてです。
私は2000年前後にハリー・アレンの作品を多く聴いていました。その中でも印象的だったのはハリーが2000年にリリースしたクリスマス・アルバムでした。
■ 推薦アルバム:『Christmas in swingtime』 / Harry Allen(2000年)

2000年にリリースされた、ハリー・アレン初の全編クリスマスソングのアルバム。ジャケット写真に使われているのはハリーが幼少の頃、クリスマス・シーズンにスキー旅行に出かけた際に撮影されたもの。ハリー自身にも楽しいクリスマスの思い出があるようだ。
しかし単なるクリスマス・アルバムと侮ってはいけない。『クリスマス・イン・スイングタイム』というタイトルにあるよう、クリスマスソングの衣を纏ったバリバリのスイング・ジャズアルバムである。
ハリーがパートナーに選んだのはオルガニストのラリー・ゴールディングス。ラリーはピアノも弾くがオルガニストの腕の高さが知られているファースト・コールのミュージシャンだ。
ギタリストはラリーのアルバムにも多く参加している、若手トップのバップギタリスト、ピーター・バーンスタイン。当然、2人のオルガンとギターのコンビネーションは抜群だ。ドラマーはスイング系の第一人者ジェイク・ハナ。
オルガニストはジャズを演奏する場合、自身がベースラインを弾く為、ベーシストの参加はない。この機会にオルガニスが弾くベースラインにも注目してほしい。その他にボーカリストとしてジョン・ピザレリが参加している。
推薦曲:「オー・クリスマス・ツリー(樅の木)」
原題の「オー・タネンバウム」としても知られるドイツ民謡でドイツに古くから伝わるクリスマス・キャロル。ヴィクトリア女王の夫であるアルバート公がドイツ生まれの為、100年程前に英国に伝わり歌われるようになったという。この楽曲はインストであるが、樅の木(もみの木)の緑が豊かな恵みや楽しみを与えてくれるという内容。
テナー・サックス、ハモンドオルガン、ギター、ドラムのカルテット演奏。リラックスした演奏がクリスマス感を演出する。ラリー・ゴールディングスの弾く、ツボを押さえたハモンドソロは必聴だ。
推薦曲:「サンタが街にやってきた」
ヘイブン・ガレスビーとJフレッド・クーツによる1934年の楽曲。
「いい子にしていないとサンタさんが来てくれないという」子供じみた内容からセールスは期待されなかったが、ラジオ番組で放送され大ブレイクとなった。
ビング・クロスビーやペリー・コモのレコード売り上げが400万枚を記録し、クリスマスソングの定番となった。
冒頭部は楽曲のコンセプトを理解しているのか、まるでトイピアノを演奏しているかのような感情を意識的に排除したラリー・ゴールディングスのハモンドオルガン一発の長い演奏。オルガンの回転系のエフェクトも使わず、ほとんど素のハモンド音によるものだ。
全員が加わることで通常の仕様に戻る。そのコントラストが鮮やかで冒頭のハモンドソロを引き立てる効果をあげている。
推薦曲:「メリー・リトル・クリスマス」
ラフル・ブレイン、ヒュー・マーティンの共作。1943年、ミュージカル映画「ミート・ミー・イン・セントルイス」の為に書かれた楽曲。主演したジュディ・ガーランドが歌い広く知られることになった。
ラリー・ゴールディングスによるハモンドオルガンのイントロからハリー・アレンとラリーのデュオが繰り広げられる。ハモンドオルガンとテナー・サックスの共演はしっとりとしたクリスマス・ムードを盛り上げる。更に力量も推し量ることができ、腕利きプレイヤー同士のレベルの高い演奏を楽しめる。
推薦曲:「レット・イット・スノー」
ジュール・スタイン、サミー・カーンによる1945年の作品。ウディ・ハーマン楽団などで演奏されたクリスマスソングの定番。ブルース・ウイルス主演の映画「ダイ・ハード」のエンディングにも使用された。
4ビート上に繰り広げられるラリーのハモンドソロはブロックコードを交えたスピード感溢れるものになっている。またそのビート感を支えるハモンドによるランニングするベースラインも聴きモノだ。
推薦曲:「ホワイト・クリスマス」
1942年の映画「ホリデイ・イン」の挿入歌として、ビング・クロスビーが歌い、フランク・シナトラもカバーをした。楽曲はミリオンヒットを記録。クリスマスの超定番曲となった。
冒頭部、ギター1本のバッキングで演奏するハリーの音色が素晴らしい。
クリスマス・ムードを盛り込んだラリー・ゴールディングスのハモンドソロも秀逸。
ラリーはこういったスローテンポの曲でソロを弾かせるととても上手い。タメを効かせたソロはオルガンを弾く方に是非、聴いてほしい。
推薦曲:「ブルー・クリスマス」
1957年にエルヴィス・プレスリーが歌い大ヒット。トニー・ベネットなど多くのアーティストが取り上げたポップソング。「君がいないと寂しいクリスマスになってしまう」という歌詞。ホワイトに対してブルーという色が入ったクリスマスソング。
ジョン・ピザレリの歌う「ブルー・クリスマス」は歌詞の内容とは異なりサラッとしていて嫌味がない。
歌唱中にボーカルの後ろで吹く、ハリーの即興オブリガートが心地よい。
推薦曲:「赤鼻のトナカイ」
1949年のジョニー・マークスによる作品。ビング・クロスビーの歌唱で人気を博した。多数のアーティストがカバーし、5,000万枚以上売れたという超の付くスタンダード。
ハリー・アレンはこの楽曲をワルツのテンポで演奏している。赤い鼻を持つルドルフというトナカイが笑いものになる中、サンタが乗るソリの道を照らすルドルフの鼻が役立つという内容。可愛らしい楽曲である反面、キャッチーなメロディを持つ楽曲が見事にジャズというフォーマットに落とし込まれている。
推薦曲:「アイル・ビー・ホーム・フォー・クリスマス」
ウォルター・ケント、キム・ギャノン、バック・ラムによる1943年の名曲。ビング・クロスビーの歌唱で知られ、ミリオンヒットとなった。第二次世界大戦中にヒットしたこの楽曲は故郷を離れた兵士たちの慰めにもなった。
スローに歌う、ハリーのサックスはその想いを受け継ぐかのように美しく響く。後半部分に聴けるラリー・ゴールディングスとピーター・バーンスタインによるオルガン、ギターによるアドリブの掛け合いは秀逸。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ハリー・アレン、ラリー・ゴールディングス、ジョン・ピザレリ、など
- アルバム:『Christmas in swingtime』
- 推薦曲:「オー・クリスマス・ツリー(樅の木)」「サンタが街にやってきた」「メリー・リトル・クリスマス」「レット・イット・スノー」「ホワイト・クリスマス」「ブルー・クリスマス」「赤鼻のトナカイ」「アイル・ビー・ホーム・フォー・クリスマス」
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